【2018年総括記者座談会】激動の時代、持続的成長へ変革 | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

公式ブログ

【2018年総括記者座談会】激動の時代、持続的成長へ変革

 2018年は、日本だけでなく世界経済に大きな影響を与え、米国証券会社リーマン・ブラザーズの破たんを象徴とした金融危機、いわゆる「リーマンショック」から10年。さらに地元大学と行政、地元建設業界や地元経済界が連携した技術者教育、「社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)養成」も10年という節目を迎えた。政治・行政・経済界が共同歩調で日本経済の持続的成長を目的に、生産性の向上と働き方改革を進めた一方、全国各地で多くの自然災害に見舞われた1年でもあった。18年とはどんな年だったのか、振り返る。

岐阜大学が行政、地域建設産業界、地元経済界などと連携してスタートさせた「社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)養成」はことし10年を迎えた

リーマンショック乗り越え/インフラメンテ養成も拡大

A 10年一昔というが、建設業界はどう立ち直ったんだろう。
B リーマンショックの本質は米国発の金融危機で、日本は国内の設備投資意欲を一気に冷え込ませ、民間建設市場の急激な縮小につながった。具体的には、08年度の民間投資額31.5兆円に対し、1年後の09年度は25兆円、10年度は23.9兆円とわずか2年で7.6兆円の市場が消滅した。
A 民間受注の割合が多い全国ゼネコンにとっては大きな痛手だったわけだ。
C 確かに全国ゼネコンが受けた影響は大きかったけれど、地元建設業の痛手も深刻だった。1年間で6.5兆円の市場がなくなった衝撃もあるけれど当時、民間発注者はリーマンショック後の回復時期が読めず、プロジェクトの凍結に踏み切った。中止なら機材や技術者など人員を引き上げられるが、凍結ならいつ解除になるか分からないから、経費負担を続けなければならない。これが地元企業にとって大きな負担と先行きの不安だった。
B ただリーマンショックは大手から中小の元請けや専門工事業などさまざまな建設業界に「覚悟」を促したことだけは間違いない。全国ゼネコンは経営環境が急速に回復しても直近の建設市場で底だった10年度の建設投資額42兆円を常に念頭に置いているし、民間工事も手がける地元建設業も現状と先行きを楽観していない。良い意味で、リーマンショックが刺激になっているのかもしれない。専門工事業もリーマンショック後の熾烈(しれつ)なダンピング(過度な安値受注)競争、職人単価の大幅下落、職人のリストラなどを経て、自らこうした負の連鎖を断ち切るために、社会保険加入促進へかじを切った。
D しかし、リーマンショックから10年が経過、国内企業の業績回復は建設業が担っているまでになるとは思わなかった。東京商工リサーチの調査だけど、売上高は07年度を100とした場合に100まで回復していないけど、当期純利益は上場企業10産業別で建設業は07年度100に対し678・4と最大の伸びとなった。非上場企業産業別でも建設業が423・4と伸びが最も大きいという。
C 鮮明な収益改善は否定しない。でも比較した07年度当時の建設業界が置かれた状況を考えると、比較すること自体が適切ではない気もする。そもそもバブル崩壊後、公共投資抑制の主張に押される形で公共工事市場は減少の一途をたどり、さらに土木業界の脱談合宣言によって事業規模を問わず、熾烈な価格競争に陥っていた。
A ではいまの経営状況は本当に回復したのかな。
B 例えばこの数年、上場建設企業各社は増収・増益を続けるケースが多い、しかし主戦場の建築工事の建築着工床面積はリーマンショック前まで戻っていない。需要と供給関係、顧客との交渉能力向上、顧客の理解促進、政治・行政・経済界一体となった生産性向上と働き方改革の効果などさまざまな理由があるだろうが、施工単価の上昇と収益が向上したことだけは間違いない。まさに企業の「稼ぐ力」が建設業でも高まったのは確かだ。
A 10年のキーワードでもう1つ、MEがあるけど。
C MEは岐阜大学が行政や地元建設業界、地元経済界などと連携して、インフラメンテナンスに特化した社会人土木技術者を養成する目的でスタートした。講座には、発注者、建設コンサルタント、施工企業などの技術者が参加することで、インフラメンテナンスを行う時に共通意識を持てるメリットがある。
B 見方を変えるとMEは、安倍政権が成長戦略の柱に据えているリカレント教育(社会人の学び直し)や工学系教育改革による人材育成育成などにつながるほか、財政難で対応が遅れている地方自治体のインフラ老朽化対策の一助にもなる。ME養成スタートから10年のことし、岐阜県高山市で開かれたシンポジウムで、「ME」「道守(みちもり)」の名称でインフラメンテに特化した、社会人土木技術者の教育講座を行っているのは、長崎大、岐阜大、愛媛大、山口大、長岡技術科学大、舞鶴工業高専の5大学1高専まで拡大していることが報告された。
D 先行して取り組む岐阜県の場合は、橋梁点検業務の応札でME取得を要件に義務づけたり、出先事務所に必ずME取得者を配置するなど、MEが好循環につながっている。ただことしのシンポジウムでは別の県職員から、資格の位置づけが不明確で資格の存在感が薄いといった指摘や、民間企業からも「資格取得が受注につながるインセンティブになることが必要」との声もあった。
B シンポジウムでは、ME新潟がME養成講座をインフラメンテナンス講習会に名称変更して、国土交通省北陸地方整備局が実施することや、ME認定試験と認定証授与を行う協議会の事務局を新潟大に設置するなど新たなスタートを切ることも報告されている。ある意味、インフラの維持管理や点検にどう対応していくべきかという点で、大きな前進になるかもしれない。

リーマンショックは、建設市場縮小や資金繰り悪化など建設産業界にも大きな影響を与えた

適正工期へ政府・行政強い後押し

A ことし最大の話題は、働き方改革関連だった。
E 罰則付きの上限規制が施行されるのは、ゼネコンなど建設企業は24年4月からだが、大企業の設計事務所や建設コンサルタントは19年4月から、大企業以外の設計事務所やコンサルも20年4月から適用される。
 そもそも悠長な問題ではない。来年4月から適用される建設関連で言えば、資本金5000万円超か従業員100人超の測量、地質調査、コンサル、建築設計などの技術サービス業だ。資本金、従業員数がこれ以下でも再来年4月から適用される。
F これは建設企業にも通じるけど、それぞれの業界内で規模が比較的大きい企業ほど対応が進み、中小企業の対応が遅れているのが非常に気がかりだ。少なくとも再来年から適用されるコンサルなどからは働き方改革の取り組みで悲観論が聞こえてくる。これは建設業界全体の働き方改革に悪影響を及ぼしかねない。
A 中小の設計やコンサルの取り組みがなぜ建設業界全体の問題になるのか。
F 大規模案件を手掛ける大手コンサルなどはすでに、「金曜日に業務要請をして、月曜日に書類提出を求めない」などいわゆる『ウィークリースタンス』という活動を展開している。当然この活動は、施工企業にも波及、業務しわ寄せの連鎖は断ち切れる。一方、コンサル業界の中小企業でこの活動ができないとなると、いくら施工企業が週休2日に取り組もうとしても、不可能だ。だからいま、元請けの中小建設企業の働き方改革で、大きな障害の1つが、発注者から書類作成依頼を含めた書類の多さと、土日作業を強いる問題だと言われている。
A ただ国交省も現場の働き方改革支援に乗り出している。
G 確かに、現場閉所で休日を増やすというこれまでの考え方に加え、新たに労働者単位で休日を増やすため、労働者の交代制で休日を確保する交代制検討も打ち出している。だからこそ中小元請けなどで構成する地方業界からは、不安と不満が高まっている。
A それはどういう意味か。
G 現場の働き方改革を重視する対象が、技術者から技能労働者にシフトすることへの警戒感だ。言い換えると、元請けが雇用していない技能労働者の賃金や労働環境を良くすることは元請けの負担増になるだけでなく、自社の社員である技術者の労働環境だけが悪化するという不満だ。
H 元請けである地場ゼネコンと呼ばれる地方中小建設企業も実は、施工管理を行う技術者だけでなく、技能労働者を直接雇用したり、大都市圏の専門工事業と同様に班と呼ばれる職人のグループ化を構成したり、技術者だけで技能労働者はその都度全て外注するなど形態はさまざまだ。同じ地域でも形態が異なるから当然、地域業界の声としてもまとまりにくい。
E でも、まとまりにくいと言われる地域業界の中で、災害対応について本音が出始めたことはことしの特徴だ。具体的には、全中建中国ブロック意見交換会で、業界から7月豪雨災害の対応について、中小企業のレベルで対応するのは難しい。地域で1社、体力・能力に秀でた企業を育成してほしいとの声が出た。災害対応でも本音の議論が今後必要だと感じた。

中小建設企業にも生産性向上と働き方改革への取り組みが求められるが、現実に対応していくのは難しい。写真は災害対応に現在の中小企業では対応が難しいと中国地整に訴える、全中建中国ブロック地区意見交換会

旺盛な需要、ポスト五輪下支え

A ことしもさまざまなプロジェクトが完成、始動した。
I 日本経済に与えるインパクトでは、東京外かく環状道路(外環道)の三郷南IC~高谷JCT開通を挙げたい。外環千葉県区間は1969年の都市計画決定から約50年、ようやく実現した。
J 半世紀という感傷的なことはともかく、ネットワーク整備による物流・観光などの時間短縮と定時性向上の効果は非常に大きい。都心を経由しない選択肢が増える。茨城港とのアクセスも向上する。そもそも首都圏の道路交通の骨格は、「3環状9放射道路のネットワーク」。すでに存在していた9放射道路を、都心から8㎞範囲の首都高速道路中央環状線、同15㎞圏域の外環道、同40㎞から60㎞圏域の首都圏中央連絡自動車道(圏央道)という3つの環状道路でつなぐ構想だ。外環の東京区間と圏央道横浜区間が完成すれば、さらに利便性が向上する。
K ことしの象徴的な出来事としては、新駅「高輪ゲートウェイ」と周辺開発がさらに一歩進んだことがある。具体的にはJR東日本が、5棟約85万㎡の施設のアセス書案をまとめた。
L そもそも現在進行している東京五輪関連施設だけでも従来事業に加えことしに入って、仮設物建設工事として1400億円の建設市場が生まれている。さらに進行中の渋谷だけでなく、新宿、池袋などのターミナル駅周辺の開発含め、首都圏の建設市場は旺盛だ。
 少なくとも大規模再開発は大手ゼネコンや一部準大手ゼネコンが手がけ、少し規模が小さいものを準大手が担うという、担当する仕事のトリクルダウン(したたり落ちる影響)的効果は今後当面続くとの見方をする企業トップは多い。
I 来期以降の業績下押しリスクとして最も高いのは、大臣認定に適合しない免震・制震ダンパーを出荷していた「KYB問題」だ。ものづくりの根本を揺るがす問題と同時に、施工企業の顧客であるディベロッパーの今後の設備投資にも影響を与えかねない。
L 上場企業トップに共通しているのは当面、建設需要が堅調だと判断していても、その先を見据えいま、安穏としていないということだろう。例えば、戸田建設が福島県内の地元大手企業を傘下にしたが、別の準大手トップは今後同様なことをする可能性を否定していない。生産性を向上させながら収益をどう上げるのか。需要増に気を緩めていない厳しさを感じる。

外環道三郷南IC~高谷JCT開通式典

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら