【2018新春企画】技能労働者の確保・育成に必要な処遇 | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【2018新春企画】技能労働者の確保・育成に必要な処遇

設備 休暇取得、残業減少 就労環境改善へ取り組み加速

 建設業従事者の高齢化や若者の建設業離れが進む中、設備工事業では工事量の増大に伴う技術者・技能者不足がより深刻な状況になっている。若年層の入職を促進する上で急務となるのが建設現場での「働き方改革」だ。

日本電設工業協会は将来を担う優秀な人材確保に向け、電気設備業界の魅力や社会的役割、技術社員の働き方、さらに会員企業の会社案内や採用情報などをマイナビとタイアップした「就業情報ポータルサイト」から発信している

 日本電設工業協会(電設協)が2016年12月に実施した「若手技術者の就労意識に関するアンケート調査」の結果では、就職前と就職後で相違する内容として、「現場優先で休みが取りづらい」が最も多く、「残業が多い」「自由になる時間が少ない」を挙げる声も上位を占めた。こうした就労環境の改善に向けた取り組みが設備各社で加速している。
 三機工業は17年11月、施工現場をターゲットにした働き方改革専門委員会「スマイル・サイト・プラン」の初会合を開き、現場担当者の業務負荷軽減と現場力・品質向上のための議論を開始した。
 東光電気工事も同10月、完全週休2日制の早期実現や長時間労働の削減などを重点課題に掲げた「現場を変える!行動宣言」と題する青木宏明社長のメッセージを全社に発信。社長直轄の「ワーキングイノベーション室」を同月に設置した新日本空調は「ひとづくり」「生産性向上」「働き方の多様性」の3つの観点から全社横断的に働き方改革を推進し、4週8休の実現などを目指す。
 ICTを活用した施工現場の業務効率化も一段と進む。
 富士古河E&Cではタブレット端末600台を全現場代理人に配布した。働き方改革委員会の下に「IT部会」も新たに設置。図面の閲覧や申請書類の作成、写真管理などに加え、ITCツールを最大限に活用する方策を探っていく。
 高砂熱学工業は業界初の試みとしてスマートウオッチ「Apple Watch」の現場活用を決めた。手首に電話やメッセージなどの通知が届くため、手がふさがっている状態でも操作や連絡応答がしやすく、健康管理も行える。昨年11月下旬から400台を全国の施工現場に順次導入した。有効性が認められれば導入数を増やしていく。
 また同社は07年度に業界に先駆けて制度運用を開始した「高砂熱学認定優秀技能者(通称・高砂マイスター)制度」を拡充。最高位ランクの「上級高砂マイスター光輝(こうき)」を創設し、認定者には年間100万円を上限に、建設業界全体でも最高水準となる日額4000円を日当に上乗せする。
 優秀な技能者を顕彰する同様の制度は複数の同業他社も設けているが、三建設備工業が17年度から導入する「三建設備工業優良技能者顕彰制度(Skilled Expert Awards Program)」は、18年度以降の申請時に「建設キャリアアップシステム登録」を位置付けたことが特に注目されている。
 他方、建築設備の施工は、建築物全体の工程の最終盤を受け持つ。竣工予定時期を動かしにくい実態がある中で、前工程の遅れによるしわ寄せを受けざるを得ないケースも多く、建設現場に従事する技術者や技能者の処遇を改善する上で大前提となる長時間労働の是正や休日の確保は、個社や単一業界の取り組みだけでは実現できないのも事実だ。
 このため、電設協では昨夏、日本建設業連合会や全国建設業協会、日本建築士事務所協会連合会の建設関係3団体のトップに現場管理社員の長時間労働是正への協力を直接要請。適正工期の確保や設計図の精査、現場管理体制の強化、安全・品質などに伴う資料の簡素化・統一化などを訴えた。さらに国土交通省に対しても長時間労働是正に関わる諸施策の強力な推進を求めた。
 日空衛も同省との定例意見交換会で適正な工期設定と工程管理が民間工事でも徹底されるよう国が策定したガイドラインの周知・普及を要請。特に機械設備の試運転調整期間の確保や日給月給制から月給制に移行した企業が不利にならない仕組みを要望した。
 こうした指摘や要望を受けて、国交省も営繕工事における働き方改革の一環として、各工程の適切な施工期間を確保するよう昨年12月1日付で各地方整備局に通知。日空衛、電設協の監修・協力によって、設備工事の実態をより的確に反映した日本建設業連合会の『建築工事適正工期算定プログラム』(最新版)を参考に、設備の試運転や調整を行う「総合試運転調整」の期間確保を徹底させる。
 同日以降に入札手続きを行う建築工事、電気設備工事、機械設備工事、エレベーター工事では、概成工期を現場説明書などに特記することを明確化。概成工期の設定を設計図書に組み込み、受注者が作成する実施工程表を監督職員が従前以上にしっかりチェックしていくことで、全体工程の中で帳尻合わせを強いられることが多い最終工程にしわ寄せを生じさせないよう指導を強化していく姿勢を鮮明にしており、その効果が期待されるところだ。

専門工事 法定福利費明示をルール化 週休2日制へ直用・月給制

 元・下間、下・下間の民民関係に踏み込んだ賃金確保対応が進んでいる。国土交通省は標準請負契約約款の改正を受けて、請負代金内訳書の法定福利費を内訳として明示することをルール化した。2017年10月1日以降に入札契約手続きを行った直轄工事に適用。都道府県・政令市など公共工事の発注者や不動産協会など民間の発注団体、建設業団体に対して対応を周知した。
 建設産業専門団体連合会の才賀清二郎会長が「長時間労働の是正や、週休2日制の実現は国を挙げて取り組むべき課題。(働き方改革への取り組みは)発注者の理解なくして成り立たない」と訴えるように、専門工事業にとっては発注者(注文者)との協働が不可欠となる。
 建設業社会保険推進連絡協議会のアンケートによると、下請企業から注文者への法定福利費を内訳明示した見積書の提出については、16年で約6割が提出していると回答。14年の31.7%、15年の44.5%から順調に活用が広がっている。提出結果を見ると、54.0%が法定福利費を含む見積もり全額が支払われた。一方で、残る約4割は見積もり総額が減額されたり、法定福利費の一部を含めて減額された契約となっている。
 週休2日制の推進に向けては、建専連が技能者の直用(社員化)・月給制に取り組むことを決めた。才賀会長は「週休2日制の実現には、日給・月給では成り立たない。直用し、月給制にしないと若い人は入らない」と強調。技能労働者の処遇改善、他現場への流出防止、若手技能者の確保・育成と技能・技術が伝承できる企業体制を構築する。

メーカー 適切な賃金水準と処遇改善 時間有給、在宅勤務――働き方に柔軟性

 スキルアップのための自己投資を後押し--。大建工業は、政府が提唱する「働き方改革」の実現に向けた取り組みの一環として、正社員、契約社員、嘱託社員、フルタイムパート従業員を対象に、2017年夏のボーナスに「自己啓発奨励金」として一律3万円を支給した。従業員一人ひとりの創意工夫によって、業務効率と生産性を高め、結果として長時間労働の削減につなげたい考えだ。
 また、「時間単位の有給休暇制度」も導入。これまでの1日、午前、午後の3通りでしか取得できなかったもののほかに、1時間単位で5日分の最大40時間まで分割できる選択肢を加えた。柔軟な取得方法を増やすことで、多様な働き方を可能とする職場環境を整備する狙いだ。
 17年11月末には、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ実現に向けて、管理職の意識改革を促すため、「イクボス企業同盟」に加入、億田正則社長を始め、全管理職332人がイクボス宣言を実施した。
 これらの制度を導入した経緯について同社は、「社長を始め、経営陣の意識の高さによるトップダウンの力が大きい。政府が働き方改革を推奨する中、個の企業としても力を入れて充実しなければ、良い仕事はできない」という。
 時間や場所にとらわれない勤務制度の充実も必要となる。LIXILでは、ライフイベントを支援するため、昨年10月2日付で「在宅勤務制度」を導入した。出産・育児・介護が主な理由になるが、会社が認めればそれ以外でも取得できるという。

職人評価切り札の建設キャリアアップシステム
専門工事業 履歴蓄積で処遇改善期待も 今秋稼働、専門工事業者に期待と不安交差

 技能や経験に見合った賃金の支払いなど技能者の処遇の改善を目指して、建設キャリアアップシステムがことし秋から稼働を開始する。専門工事業者などの企業側は、現場管理(技能者の入場管理)の効率化といったメリットに加え、システムの活用による将来的な担い手不足の解決に期待感を込める。一方で、「技能評価が本当にできるのか」「職人のために本当に役立つのか」など、その実効性を疑問視する声もある。人々の生活を支えるシステムとなるか、期待と不安が入り混じっている。
 建設キャリアアップシステムは、技能者が持つ資格や就業履歴を業界統一のルールで蓄積していく仕組み。技能者に交付する固有のIDカードに情報を蓄積していくことから、所属する事業者が変更になった場合や、建設業を離職して再度、入職した場合でも継続して、技能者が持つ経験値を対外的に残すことができる。
 大工、左官など職人や一人親方で組織する全国建設労働組合総連合(全建総連)は、次の若い世代のために必ず進めなければならないというスタンスだ。製造業などの他産業と比較した上で、建設業においても技能者本人を特定できる「本人認証」の必要性を強調する。履歴が蓄積されることで、「腕が良くてやる気がある職人にはプラスに見える制度だ」とも指摘。一人親方の働き方についても、「技能者として働いた履歴と、そうでない部分がはっきりし、処遇改善に向けた問題点が見える化できる」と期待を寄せる。
 利用する事業者側にとっては、現場管理の効率化や建設業退職金共済制度との連動(建退共証紙事務の合理化)など、いわゆる「全建統一様式」に沿った施工体制台帳や作業員名簿の出力(書類作成の負担軽減)など、生産性の向上や働き方改革への取り組みを支える効果も期待される。
 各専門工事業団体などで構成する登録基幹技能者制度推進協議会の三野輪賢二会長(日本型枠工事業協会会長)は、資格保有者に対しての建設キャリアアップシステムに対する登録申請を推奨。システムの普及を図ることで、技能者の適正な評価と処遇の改善を目指す。
 システムの利用料金は、技能者の登録料と事業者の登録料・利用料の大きく分けて2種類。2種類の利用料金のうち、技能者の登録料(配布されるIDカードの発行手数料)は、インターネットによるウェブ登録が2500円、郵送や窓口による発行は3500円。発行されるIDカードの有効期間は10年間となっている。
 5年ごとに事業者が負担する登録料は、11段階に区分した資本金別の料金体系を構築。企業規模に応じた階段を設けることで、中小企業を中心としたコスト負担への懸念に配慮した格好だ。事業者の利用料は、ID利用料(1ID=2400円)と現場利用料(1回=3円)の2種類。利用の頻度に応じて負担する形となる。
 資本金や完成工事高などをベースにシミュレーションした結果、資本金が500億円、完成工事高が1兆円のスーパーゼネコンに相当する事業者の利用料金は1年当たり2136万円。直轄工事のC-D等級に相当する資本金が1億円、完成工事高が10億円の事業者は1年当たり3万5400円となる見込み。資本金が1000万円、完成工事高が1億円の事業者は6900円。登録料が必要ない一人親方は利用料のみの2820円と試算した。
 システム導入で可能となる個々の技能者の能力や力量など「能力評価基準」の策定に向けては、17年11月に「建設技能者の能力評価のあり方に関する検討会」(座長・蟹澤宏剛芝浦工大教授)を立ち上げた。19年度からの運用を想定し、17年度内をめどに一定の方向性をまとめる。
 システムに蓄積される保有資格や就業履歴といった登録データと、それぞれの技能者が持つ知識や経験を組み合わせた客観的な「基準」をつくることで、技能や経験に見合った賃金の支払いなど処遇の改善に結び付ける。雇用する専門工事企業の施工力を見える化することにもつながり、優秀な職人を多く抱える専門工事業者がより高く評価される仕組みを築くことになる。
 評価の客観性をいかに確保していくかといった点や、評価基準としてのレベル分けをどう行うか、あるいはそれぞれの業種ごとに異なる特殊性をどう制度設計の中で反映させていくかといった点を軸に、英国のNVQ(全国職業資格)制度など、公的な関与によって成り立っている海外の事例も参考にしながら検討を進める。
 厚生労働省が持つ「職業能力評価基準」や、建設産業担い手確保・育成コンソーシアム(事務局・建設業振興基金)の「職業能力基準」などをベースにすれば、登録基幹技能者を頂点とする4段階のレベル分けが有力視される。建設キャリアアップシステムで、技能者に交付されるIDカードの色分け(レベル分け)にも連動する見通しだ。 

総合建設業 普及・推進へ日建連がロードマップ 3期に分けて登録推進 

 日本建設業連合会(山内隆司会長)は2017年12月、建設キャリアアップシステムの普及・推進に向け、技能者登録などの目標数値と達成時期を盛り込んだロードマップを策定した。19年9月までの目標として50万人の技能者登録、売上高ベースの現場登録率60%以上を設定。23年3月までに会員企業の全現場を登録し、現場に入場するすべての事業者、技能者を網羅する。
 登録が始まる4月から5年後の23年3月までを、前期(18年4月-19年9月)、中期(19年10月-21年3月)、後期(21年4月-23年3月)の3期に分けて事業者、技能者、現場登録を推進する。
 事業者については登録が開始される4月以降、会員企業は自社の登録を速やかに実施し、協力会社組織などを通じた協力会社の登録を推進する
 前期には、各社の協力会社組織所属会社と登録現場の1次協力会社の事業者登録率90%を実現し、2次以下は登録現場での登録率80%以上を目指す。中期には登録現場に入場する全事業者の登録を完了する。
 技能者登録では、前期の登録者目標を50万人に設定し、登録現場に入場する技能者のカード保有率60%以上を目指す。中期には登録者数を70万人、カード保有率を80%以上に引き上げ、後期終了時にはカードを保有しない技能者の登録現場入場を原則として認めないようにする。
 現場の登録率(会員企業全体の売上高に占める登録現場の売上高合計の割合)目標は、前期が60%以上、中期が80%以上、後期が100%としている。

地場・中小建設業 根強い警戒感、いまだ解けず

 2017年11月6日に開かれた「建設キャリアアップシステム運営協議会」で明らかになった料金体系は、建設現場のICT化が一気に進むことを決定づけた。初期投資額の大きさを含めシステム構築に異論が多い中、システム導入に建設産業界が動いたのは、システムを活用することで技能者(職人)が持つ資格や就業履歴をIDカードに情報を蓄積することで、優秀な職人が個人評価される一方、優秀な職人を多く抱える専門工事企業も評価されることで、元請けとの取引関係や請負単価、職人の収入などに好影響を与えることが期待されるからだ。
 IDカード拡大は、証紙を働いた分だけ手帳に貼ってその合計枚数が職人の退職金になる建設業退職金共済制度との連動や、作業員名簿や施工体制台帳など現場で必要な書類作成作業の合理化・軽減にもつながる。
 では、システム利用で中小元請けの利用料金を極力抑えた料金体系が決定したにも関わらず、なぜ地方の中小元請けは反発しているのか。
 料金体系が運営協議会で決定した翌日の7日、福井市内で開かれた全国中小建設業協会(全中建)のブロック別意見交換会。参加した全中建加盟の福井地区建設業会メンバーは「レベル向上など間違いなく技能者の意識改革になる」とキャリアアップシステムの効果を評価した上で、こう言い切った。「経営者としては、育成した人材をヘッドハンティングされるという不安がある。さらに、能力(職人評価)が上がれば賃金も上げなければならず、経営を圧迫するのではとのジレンマもある」
 地方・中小は、地元工事で元請受注するケースもあれば、地元大手や全国ゼネコンの一次下請けにもなる微妙な立場にあるのも事実だ。だからこそ、ICTやAI、ビッグデータ、ロボットといった技術革新が生産性向上の切り札として建設産業界に押し寄せる中、現場管理や運営さえも変わらざるを得ない現状への戸惑いが、建設キャリアアップシステムと重なり合っているのかもしれない。

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