【2018新春企画】問答無用の時間外労働時間適正化 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【2018新春企画】問答無用の時間外労働時間適正化

設計・コンサル 時間を有効利用しクオリティー向上 女性が働きやすい職場づくり進む

長大の女性社員交流会。全国から100人が参加して働きやすい職場をテーマに意見を交わした

 働き方改革推進法案の施行が2019年4月に迫る中、建設産業界全体の中で建築設計事務所の働き方改革への取り組みは遅れていたと言わざるを得ないだろう。特に長時間労働の抑制と多様な働き方への対応、労働時間等の設定改善に関する特措法の改正が求められる中、「時間当たりの生産量は注文内容や担当者の能力で大きく異なり、一律のルール適用は困難」(地方大手組織設計事務所)という指摘も聞こえてくる。ある大手組織設計事務所のトップは「これまでの建築設計事務所の働き方が否定されかねない」と懸念を示しつつも「法は順守していく」と、建築設計事務所のあるべき姿を模索する。
 働き方改革の遅れの根底は「設計事務所の業務は注文生産かつ特注品。生産工場は担当者の頭の中にある」(地方大手組織事務所)という考え方ではないだろうか。「設計のやり方まで踏み込む必要がある」と、設計の生産性向上と一対の取り組みとして試行錯誤が続いている。
 こうした中、法改正を好機ととらえ、働き方改革についての議論をワークショップ形式で始めたのは佐藤総合計画だ。「ポジティブな意見を集め、業務の効率化と所員の自主性を育む」とボトムアップで新たなシンクスタイルの構築を目指す。
 労働時間の縮減に向けた取り組みでは、大手組織設計事務所を中心に、PCなど機器の強制終了や厳格な承認制による残業時間の縮減、休日出勤禁止が本格化し、過重労働の防止に一定の効果を発揮している。これに合わせてフレックスタイムの導入や朝型勤務制度の奨励など1人ひとりに適したワークスタイルの構築が試みられてもいる。日建設計では、職員自ら時間の使い方を考える“時間デザイン勤務制度”を導入。3カ月先、1カ月先、週ごとの働き方を上司と相談・報告して決めることで、より緊密なコミュニケーションが業務の手戻りを防止し、「効率化とクオリティーの向上にもつながっている」。
 また、梓設計は年間120日の休日に加え、年次有給休暇制度や長期連続休暇制度を整備した。毎月最終金曜日のプレミアム・フライデーも社内に定着しつつあるという。
 その一方、設計の生産性を高める取り組みにもさまざまな動きがある。ICT(情報通信技術)システムの一環で設計打ち合わせや定例会議など遠隔対応できるシステムを取り入れることで、久米設計では「移動時間が縮減し、クリエイティブな時間を確保しつつ、クライアントや施工者とのコミュニケーション向上に一定の成果を出している」という。日建設計は、提案書のドキュメント作成を全社的にサポートする“ドキュメントデザインセンター”を設立し、標準化や社内のナレッジシェアリングを進めて業務の効率を図っている。
 こうした総労働時間を縮減しつつ、設計者の創造性と提案力を育む時間の確保に向けた取り組みは、まだ緒についたばかりだ。

 高齢化が進む建設コンサルタントの処遇改善と担い手の確保は深刻な課題だ。建設コンサルタンツ協会がまとめた白書によると職員の年齢別構成の最多は1995年が24-26歳だったのに対し、20年後の15年は43-45歳で、平均年齢も36.8歳から45.5歳に上昇した。特にベテランと若手の2極化が進み、中堅層が不足し、技術の継承、空洞化など将来の社会資本整備の維持や維持管理に重大な懸念が生じつつある。
 近年は新卒採用者の4分の1を女性が占めている。その一方、同協会会員企業161社2万5090人の技術者に対し、女性技術者は11.4%、管理職に至っては技術者全体の1.6%にとどまっており、家庭と仕事を両立するワーク・ライフ・バランスに配慮した魅力ある快適な職場づくりや幹部への登用を始め、女性技術者の未来予想図を示すことも問われている。
 発注者側にも女性技術者を積極的に活用する姿勢が求められる。国土交通省の各地方整備局では工事に比べて業務における女性活用の取り組みが遅れている。女性技術者の絶対数が少ないとはいえ、地方自治体を含めた官民一体で女性が活躍する環境を整備することも課題に挙げられる。
 増える女性職員に対応して個別の企業や企業間連携による取り組みも目立つ。長大は、全国の女性社員が一堂に会する女性交流会を開催。オリエンタルコンサルタンツは女性社員自らが成長し、会社がそれをサポートすることを目的とした「Smile-3S活動」を展開している。
 子育て世代の退職という現下の悩みについては、日本工営の事業所内託児所「N-Kids」を先行事例に、建設技術研究所と長大、ニュージェック、復建エンジニヤリング、八千代エンジニヤリングの5者による企業主導型保育所を共同設立・運用する動きがあり、着実に女性が働きやすい環境づくりに向けた動きが進みつつある。

設備工事 現場の時間外、休日状況はより悪化

 日本電設工業協会(電設協)が実施した現場管理社員の労働実態アンケートフォローアップ調査によると、繁忙期の所定外労働時間(1カ月間)が「80時間超」は、前回調査時(2011年)の29.5%から17年調査では63%と倍増する一方、「40時間未満」は27.6%から14.1%と半減するなど状況はより悪化している。休日の状況も、「4週5休以上」が前回の36.6%から9.8%へと大幅に減少。「4週4休以下」は62.8%から90.2%に増加している。
 所定外労働の発生要因では、「業務量が多い」「人員が不足している」とともに、元請業者の「工程遅れ」や「業務指示」も多く、設計図の不備や変更への対応、他業種との調整、各種打ち合わせへの出席等で業務量が増大している実態が浮かび上がっている。
 こうした実態を踏まえ、電設協では国などの関係機関や関係団体と連携しながら働き方改革の実現に向けた「行動計画」を策定する。人材委員会の下に地方の電業協会の代表もメンバーとなる専門委員会を設置し、「17年度内に今後とるべき行動の方向性を示す」(後藤清会長)考えだ。
 日本空調衛生工事業協会(日空衛、長谷川勉会長)も、企業会員96社を対象としたアンケート形式による実態調査を実施した。
 現場管理技術者の実態を把握するため、通常時や繁忙期における残業時間、1週間当たりの休日取得日数などを調べるとともに、発注者や元請業者に対する要望も聞き取る。これらの結果も踏まえながら、経営活性化委員会で検討を進め、「働き方改革の推進に関する日空衛行動計画」の第1弾を17年度内にまとめる。

地場・中小建設業 一気に進む国策に立ちすくむ

 安倍首相肝いりの「働き方改革」によって罰則付きの時間外労働規制がこれまで除外されてきた建設業務にも適用されることが政府会議で決定したのは、2017年3月末。これを受け時間外労働規制実現に必要不可欠として、公共・民間含めたすべての建設工事を対象にした『適正な工期設定等のためのガイドライン』を国土交通省が策定。「建設業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」まで設置してガイドライン順守を申し合わせた。

全国8地区で開かれた全中建のブロック別意見交換会。今年度は積算や現場の課題のほか、罰則付き時間外労働時間上限規制などを柱にした働き方改革が話題の中心となった

 まさに国策として一気に進み始めた、時間外労働規制への取り組みに、全国各地の中小元請けや専門工事業から戸惑いの声が広がっている。企業規模の違いで、人員と投資金額という二重のハンディを中小が負っているからだ。建設産業界で大手・準大手企業を筆頭に、時間外労働規制を始めとする働き方改革と生産性向上に自らの命運をかける意気込みで取り組む企業が多いのは、強制的な労働時間短縮をカバーする何らかの業務革新や労働生産性を上げなければ、収益悪化が目に見えていることが理由。
 ただ、中小企業は事務系社員を技術系社員の一部業務支援に回したくても、全体数そのものが少ない。また全国企業の間で急速に広まっているタブレット端末を活用した発注者や社内、下請けとの劇的に変わる業務効率の果実を、投資余裕がないため受け取ることもできない。
 17年11月に開かれた全国中小建設業協会京都ブロックの意見交換会で、全中建京都の会員企業は出席した国交省にこう詰め寄った。「金曜日の夕方に発注者に呼ばれ、月曜日の朝に(書類を)持って来いと指示される。これでは週休二日も無理だ」
 全国企業が規制適用を待たずに、時間外労働の自主改善取り組みを開始する中、中小建設業は取り組みの重要性は理解しながらも、働き方改革と生産性向上、言い換えると技術革新と発想の転換による構造変革の大波に立ちすくんでいる。

産業界挙げての週休2日、現場閉所
メーカー 時短建材で施工者の心つかむ 取り付けやすさで訴求 コストダウン効果も期待

 新築住宅着工戸数の減少や取り付け施工の担い手不足が懸念される中、建材・住設メーカー各社にリフォーム市場に活路を見い出す動きがある。そこでは、シェア拡大を狙うとともに、慣れない工事を行う施工者のために、建材を改良した“時短施工”の技術開発にしのぎを削っている。

YKKAPの「かんたんマドリモ」。1窓あたりの作業時間が短いため、暮らしながら施工できる点が好評だ

 老朽化した窓の見た目をきれいにする以外にも、断熱性や防犯性などの理由から、住宅窓の交換ニーズは高い。壁を壊すため施工期間が長くなりがちだった従来工法は、いまある窓枠に、新しい窓枠をかぶせるだけのスピーディーな施工方法に主流が移りつつある。YKKAPの「かんたんマドリモ」もその1つ。1窓当たり2時間から半日で終わるので、生活に影響なく施工できる。気密シートを防水シーリングの代わりに貼り付ける、業界初の「ノンシールカバー工法」を採用。シーリング作業がなくなったことで、これまでサッシ工が行っていた作業を大工や内装工が対応できるのも施工店にとってメリットとなる。
 同じく三和シヤッター工業の「マドモアプラス」も、雨戸レールや戸袋をそのまま残し、壁を壊さず窓シャッターを取り付けることが可能。工程の省略により、時間短縮を実現する。
 技術が必要な溶接工法は、施工者に敬遠されがちだ。各社は、建材の導入ハードルを下げるため、接着剤やアンカーを使った工法にも注力する。不二サッシの自然風力換気窓「ウインブレス-EX」は、無溶接アンカー工法を採用した。溶接による火災や作業員のやけど、感電の危険性がなくなったことで安全性が高まる。ねじ固定式アンカーで躯体に取り付けるため、雨天での作業が可能となるほか、作業者に特別な資格がいらず、建築現場の省力化や高い品質性能が保持できる。
 時短建材をコストダウンにつなげて売り込む会社もある。大建工業の耐震天井工法「ダイケンハイブリッド天井」は、ビス固定による留め金具が必要な縦横バー材を、ワンタッチではめ込む構造にすることで短工期を実現した。特定天井向けだった従来品に加え、法規制の対象外でも低コストで一定の耐震安全性を求める設計者のニーズに応えるために、3グレードの製品を追加した。特定天井対応製品では900-1200mmだったメインバーの間隔を1800mmに統一することで、吊りボルトなどの必要部材が減り、材料費の削減になった。
 施工時間の短縮は、人手不足の現場に喜ばれる。文化シヤッターが開発した「新型エア・キーパー大間迅(だいまじん)」は施工時間を従来から2時間短縮した。手元操作パネルをガイドレール部に設置して、設定と調整を簡略化したほか、制御盤をボックス内に内蔵するため配管配線が不要になることで実現した。また、業界初の耐震性能を備えた集合住宅向け屋外用玄関引戸「ヴァリフェイスAe」は、将来のドアリフォームにも対応。交換可能なドア枠になっており、改修時には扉とドア枠を取り換えるだけで素早くリフォームできる。
 リフォームに長い歴史があるTOTOは、施工しやすい建材づくりのノウハウも豊富だ。技術は各地のリフォーム店によってばらつきがある。同社では「TOTOリモデルクラブ」の加盟店に施工技術の研修を行い、全体のレベルの底上げを図っている。
 一度に大量の製品を設置する公共・商業施設向けのこうした工法や建材は、低コスト・短時間で施工できるため、職人を抱える地域施工店にとっても採用メリットが大きい。「パブリックコンパクト便器・フラッシュタンク式」は、従来のタンク式とフラッシュバルブ式の長所を兼ね備えたフラッシュタンク式を採用した製品で、接続部分のユニット化によって省施工を実現している。
 給水接続では、フラッシュバルブ式は、ばらばらの部品から本体を現場で組み立てる必要があった。外径34mmの曲げられないハード管で接続するためにミリ単位での高い施工精度が必要となる。それがフラッシュタンク式では、タンクを便器にセットしてから、曲げ自由度がある外径22mmのフレキホースで接続するだけなので、熟練度もいらず、施工時間はフラッシュバルブ式の約半分で済む。
 一方、排水接続では可動式排水スリップイン方式を採用。シール材を使わずに、大便器排水口を排水ソケットに差し込むだけで簡単・確実に施工できる。また、配管とポンプをサイズダウンしたことで、建物の省資源化にも貢献する。
 昨年2月に販売開始した「壁掛大便器セット・フラッシュタンク式」モデルでは、省施工とともに、優れた清掃性やメンテナンス性を全面に打ち出し、オフィス、学校、病院などに積極展開する。
  YKKAPの「かんたんマドリモ」。1窓あたりの作業時間が短いため、暮らしながら施工できる点が好評だ

総合建設業 「週休二日実現行動計画」 事業所で21年度末目標

 日本建設業連合会(山内隆司会長)は2017年12月22日の理事会で、「週休二日実現行動計画」(計画期間17-21年度)を決定した。計画の対象は原則として会員企業の全工事現場とし、19年度末に週休2日の導入が困難な「適用困難事業所」を除く全事業所での「4週6閉所以上の実現」を中間目標に設定した。21年度末には、適用困難事業所を除くすべての事業所で週休2日の実現を目指す。

週休2日を実現させるためには適正な工期設定や綿密な工事進捗計画が必要だ

 政府が17年3月に策定した働き方改革実行計画を踏まえ、日建連はこれまでに、時間外労働を段階的に削減する「自主規制」の試行など、さまざまな推進方策によって建設業界の改革を先導してきた。
 一連の推進方策を打ち出した17年9月の理事会後会見で山内会長は、政府の後押しもあり、改革の機運が高まっている状況を「千載一遇の機会」とした上で、「これまで未解決だった残業時間、週休2日、社会保険未加入といった産業の後進性を克服するラストチャンスだと思っている。不退転の決意でやり遂げるという覚悟が今回の(諸施策の)決議には込められている」と強い決意をにじませた。
 改革の中核に位置付ける週休2日の実現に向けた 行動計画の基本方針には、▽建設サービスの週休2日での提供▽必要な経費の請負代金への反映▽企業ごとの行動計画をつくりフォローアップする--など9項目を盛り込でいる。
 日建連は、1月下旬にも会員企業各社が自社の行動計画を作成するためのひな形を送付し、3月までの提出を要請する。18年度からは計画に基づいた各社の取り組みが本格化することになる。

発注者 不動産協が会員各社に要請 働き方改革に協力

 不動産協会(菰田正信理事長)は2017年9月の理事会で、建設業界の働き方改革に協力していくことを申し合わせ、会員各社に要請した。ただ、会員各社が計画している個別の開発プロジェクトごとにさまざまな事情があるため、現場レベルでの画一的・統一的な取り組みは難しいと見られる。建設業界側の生産性改革や工期短縮に向けた技術提案、といった自助努力に委ねられる部分も大きそうだ。
 9月の理事会後の会見で菰田理事長は、関係省庁連絡会議がまとめた『建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン』に触れ、「(不動産業界が)十分に協力でき得る環境を整備した上で、ガイドラインを作っていただいた」と評価している。その上で、建設業界の働き方改革に対する協力について、「受注者としての生産性向上、重層下請構造の改善、工事費の配分などについて、建設業界がきちんと取り組んでいくことが大前提となる」と述べた。
 一方、建設現場の土日閉所については温度差があるのも事実だ。菰田理事長は「建設現場として土日の2日を休むということではなく、(労働者それぞれが)シフトを組んで属人ベースでの週休2日とし、現場は維持するということもあるだろう」との認識を示している。また、「官庁工事と民間では、さまざまな事情が異なる。完全なイコールフッティングは現実的でない」と語った。
 国土交通省は、民間工事の発注者に対する働き掛けとして、発注プロセスや工期の設定・管理の方法などを実態調査し、優良事例を抽出・収集する「先導的モデル事業」を18年度にも展開したい考え。今後、工期設定ガイドラインを踏まえ、鉄道や不動産などの業態に応じた推進体制を構築し、ガイドラインの普及啓発を目指す。

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