【2018新春企画】技術革新と機械化で労働力減少に耐える――団体の後押し、企業の自助努力で前進 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

公式ブログ

【2018新春企画】技術革新と機械化で労働力減少に耐える――団体の後押し、企業の自助努力で前進

 技能労働者の高齢化や生産年齢人口の減少に伴う担い手不足が予測される中、建設業では官民を挙げた生産性向上への取り組みが加速している。国土交通省は2016年を「生産性革命元年」、17年を革命の「前進の年」に位置付けて諸施策を推進。建設業の働き方改革の「一丁目一番地」となる週休2日実現の原資を生み出す生産性向上の必要性はますます高まっている。日本建設業連合会を始めとする各団体では、会員企業の生産性向上を後押しする動きが活発化し、ゼネコン各社の自助努力も相まって生産性向上に向けた取り組みは着実に前進している。

総合建設業 日建連会員の生産性は過去最高更新

 生産性向上を含め、建設業の働き方改革を先導する日建連は、15年3月に策定した、「再生と進化に向けて-建設業の長期ビジョン-」の中で、技能労働者の高齢化などに伴う「100万人離職時代の到来」を予測。2014年度時点で50歳以上の技能労働者153万人の7割以上に当たる109万人、15-49歳の労働者192万人の1割に当たる19万人の計128万人程度が25年度までに離職または減少すると試算し、同年度までに34歳以下(入職時)の若者を中心に90万人の新規入職者(うち女性20万人以上)の確保と生産性向上による35万人分の省人化を目標に掲げている。
 25年までの10年間に展開する生産性向上の諸施策として、ロボット技術やプレキャスト(PCa)工法の活用拡大を始めとする省人化技術、構造物の設計、施工段階を通じたBIM、CIMの活用などを挙げている。
 効率的な施工の実現に向けては、元請けの総合力が最大限に発揮できる設計施工一貫方式の採用や、公共工事で生産性向上に寄与する新技術を積極的に採用するための仕組みづくりも必要としている。
 日建連は大量離職時代を乗り切るため、16年4月に建設業界と建設企業が一丸となって生産性向上に取り組むための指針として、「生産性向上推進要綱」を策定。現場の省人化と処遇・現場環境改善などによる担い手確保を進めるために、会員が取り組む生産性向上の内容と当面5年間の目標、行政・発注機関・専門工事業・地方中小建設業への要請などを提示した。
 具体的な取り組みとして、i-Constructionの推進に向けたコンクリート工の効率化、PCaの導入、適正工期算定プログラムの活用、設計・施工一貫方式の普及などを盛り込んでいる。
 日建連の生産性向上推進本部が17年4月に公表した要綱の16年度フォローアップ報告書では、会員企業の過去10年間の生産性の推移をまとめた。生産性の定義とした「技術者・技能者1日(8時間)当たりの施工高」(15年度調査、有効回答73社)は、土木・建築平均が9万2139円となり、前年度比8.7%上昇。土木は9万3278円で8.9%、建築は9万0874円で8.5%それぞれ増加している。
 生産性の定義としては、付加価値労働生産性が一般的に使われるが、付加価値額(分子)は企業全体の人件費や営業利益、分母は産業全体の就業者数であることから、現場レベルの生産性測定には馴染まないと判断し、技術者・技能者1日当たりの施工高を採用した。
 16年度の生産性調査結果(回答85社)では、土木・建築平均が前年度比16.2%上昇の11万2596円、土木は16.8%上昇の11万5808円、建築は15.5%上昇の10万9383円で、いずれも過去11年間の最高値を更新した。生産性は11年度を底に、12年度以降は上昇傾向にあり、会員各社の生産性は着実に向上している。
 同本部は、17年度内に本部構成会社24社のプロジェクトベースでの取り組みを掲載した「生産性向上事例集」(土・建各12事例)を初めて作成する。先進的な取り組みの水平展開によって、会員各社の生産性向上をさらに後押しする考えだ。
 日建連が要綱のフォローアップに合わせて、17年1-2月にかけて会員139社を対象に実施したアンケート結果(回答率70.5%、一部だけの回答も含む)によると、「年次の経営計画に盛り込むなどして通常組織として推進している」「専門の組織を設けて推進している」「各部門、作業所が日常業務の中で取り組んでいる」を合わせて89.8%がさまざま体制で生産性向上を推進している。うち、経営計画や専門組織による推進は、前回調査(16年2月)の35.2%から53.1%に増加している。
 生産性向上のために現在実施している取り組み(複数回答)では、「施工管理の強化」「社員の理解促進、動機付け、教育・訓練」などが上位を占める。今後の取り組みについては、「ICT人材の増強」への回答数が最も多く、各社とも人材の確保・育成に注力している。

設備 研究開発拠点を再構築

三機工業の技術・人財の総合開発拠点となる「三機テクノセンター」の完成予想

 すべてのものをインターネットでつなぐIoTやAI(人工知能)といった先端技術の活用、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)技術の進化など、時代を先取りしながら、より広範に社会的ニーズに対応していくため、設備各社で研究開発拠点を再構築する動きが目立つ。
 高砂熱学工業は茨城県つくばみらい市に、マーケティングから先端技術の研究開発・事業化までの機能を一体化したオープンイノベーション拠点としての「イノベーションセンター」を建設、2019年度から運用開始する。
 新菱冷熱工業もつくば市の中央研究所を開所30周年を迎える20年をめどに全面的に再構築し、次世代環境技術の研究開発拠点として基礎研究やフィールド実証研究を強化する。
 三機工業は神奈川県大和市の保有施設を総合研修・研究施設「三機テクノセンター」として改修する工事に昨年9月から着手した。18年10月ごろにオープンさせる。コア事業発展に向けた戦略拠点に位置付けている。新日本空調も長野県茅野市にある技術開発研究所の実験室改修を16、17年度の2カ年で進めており、空気質分析・実験室や耐震評価試験室、多用途クリーンルームなどを新設・整備する。ZEB化の要素技術、省力化・効率化につながる新工法や設計法、先端技術を導入した人に優しい空調などを追求していく。
 ダイダンは、神奈川県が川崎市に整備した「ライフイノベーションセンター」内に細胞培養加工施設向けに自社開発した「エアバリアブース」を導入したオープンラボ「セラボ殿殿」を開設。再生医療分野の産業化を後押しする。

メーカー 簡単施工の製品開発に注力

 民間リフォーム市場が今後さらに拡大することが見込まれる中、建築現場での職人不足はより深刻な課題となる。このため、住設メーカー各社が研究開発に力を注ぐのが「簡単施工」の製品づくりだ。
 首都圏を始め、震災リスクが全国的に高まる中、LIXILが開発した「アラテクト」は、建物を解体しないで室内の壁の上から引張強度が鉄の7-8倍のアラミド繊維のシートを張るだけで耐震化できる工法。既存壁に座金とビスで固定するだけなので、簡単かつ価格も従来の半分に抑えるメリットがある。
 YKKAPが1月から投入するアルミ樹脂複合窓「エピソードNEO-LB」は、同社独自の非溶接工法を採用している。無火気で躯体に高断熱材を取り付けることによって、一般的なビル用窓を高断熱化する際、溶接の火花が断熱材にかかるのを防ぐ防炎保護が不要となり、簡単・安全に施工できる。さらに、マンションの窓改修に対応するカバー方式にGRAF(グラフ)工法枠を追加した。古いサッシ枠にかぶせるだけで簡単に一新できる。
 マンションでは戸建てほど窓の断熱化が進んでいなかったが、マンション向けZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)支援策の新たな枠組みが検討されるなど、普及に向けた動きが加速している。
 建材を軽量化することで省人化を図る動きもある。アイカ工業の不燃化粧板「アルディカ」は、本物の石のような質感を持ちながら、重さ4分の1の軽量設計を実現した。カットなどの加工も容易で、少ない人数で大量に運搬できる。特殊な職人を必要としない、少子高齢化や担い手不足の時代にマッチした製品だ。

国交省 オンライン講座を公開、地域建設業に動画で分かりやすく

 国土交通省は、地域建設業の生産性の向上を後押ししている。建設業振興基金が運営する建設産業の総合ウェブサイト「建設現場へGO!」に、2016年12月から17年1月に開講したオンライン講座「建設業生産性向上教室」を掲載し、一般公開している。建設業生産性向上教室は、“利益は現場から”をキーワードに生産性の向上にスポットを当てた動画形式の講座。全12章で構成し、利益の確保につながる知識を1コンテンツ約10分の講義に凝縮して提供している。
 また、生産性の向上に関する具体的な手法や、製造業の生産管理手法を参考に生産過程(企業活動)の流れに沿って、建設業が取り組むべき事項を整理した建設業版「生産管理モデル」を盛り込んだ地域建設産業生産性向上ベストプラクティス等研究会(委員長・藤井一郎四国大教授)の報告書も公開しており、経営者などの積極的な活用を促している。

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら