【前例なきコロナ対応 20年度を振り返る(下)】デジタル化で融解する産業 | 建設通信新聞Digital

5月1日 水曜日

公式ブログ

【前例なきコロナ対応 20年度を振り返る(下)】デジタル化で融解する産業

 新型コロナウイルスは日常の風景を変えた。直轄を始めとした公共工事の現場では、遠隔臨場が急拡大している。まちづくり分野では、公共空間の使い方にも転機が訪れている。以前から進めてきた働き方改革と生産性向上の取り組みは、感染症対応がその流れを後押しする。こうした中、1月に公表された経済産業省の報告書は建設業界にとっても示唆に富む内容だろう。デジタル技術の進化により、産業の垣根が“融解”するというのだ。業界のあるべき姿とは。新たな取り組みが動き出している。

関東技術事務所(千葉県松戸市)に センターを設置した


 国土交通省が2020年度から全国展開している遠隔臨場は、監督・検査の立ち合いなどを現地に行かず映像配信で行う方法だ。20年度は当初想定した試行件数を大きく上回り、約560件で実施。直轄工事における新型コロナを象徴する取り組みとなった。

◆公共空間のあり方問う
 一方、まちづくり分野でも新しい生活様式に対応した動きが活発化している。

 国交省は20年6月、3密回避に努める飲食店の緊急的救済措置として、道路利用の規制緩和を通達。全国の道路管理者にも同じ措置を求めた。

 また、公募により占用者として選定された場合に最長20年の占用が可能となる「歩行者利便増進道路」(通称ほこみち)制度創設を含む改正道路法が20年11月に施行。国交省は感染症による行動変容を契機に、東京23区をモデルケースに自転車通行空間の整備を拡充する方針も打ち出す。

 新型コロナは、道路を始めとした公共空間、東京一極集中に対応したまちづくりのあり方などを改めて問い直す。

 デジタル技術と親和性の高い新型コロナ対応は、働き方改革や生産性向上の取り組みをこれまで以上に加速させる契機となっている。

 この1年を振り返ると、コロナ禍の中でもBIM/CIMの導入や大手建設業を中心とした施工の自動化などデジタル技術を最大限活用してブレークスルーを実現しようとする取り組みは着実に広がりを見せているのだ。

 こうした中、1月に経産省が公表した報告書『デジタル市場に関するディスカッションペーパー~産業構造の転換による社会的問題の解決と経済成長に向けて』は、建設産業の将来を考える重要なヒントになるだろう。

◆垣根越え未来人材育成
 新たな産業構造を「デジタル化によってさらに構造変化が加速され、タテ(各産業)とヨコ(機能)が密に連携するメッシュ構造になっていく」と予見。これまでの産業という枠がなくなり、「目的に合わせてヨコの階層ごとに最適なものを組み合わせるというアプローチを取っていくことが基本になる」と導く。報告書は、デジタル技術の進化により、例えばオペレーターが不在の世界をも描き出す。
 同省の担当者は「各産業が融解し、これまでの概念が変わる」とし、「建設業で言えば、受注者、発注者という既存の考えさえなくなるかもしれない」と示唆する。
 こうした劇的な変化に対応した新たな取り組みも本格化してきた。キーワードの1つが未来を担う人材育成だ。
 関東甲信の9都県を所管する関東地方整備局は21日、「関東DX・i-Construction人材育成センター」を開所した。受発注者双方の人材育成を担う新拠点としてスタートを切った。
 開所式で来賓の小澤一雅東京大学大学院特任教授は次のように述べた。「これまでに蓄積してきた土木技術と多様な情報通信技術を組み合わせて新たな仕事の仕方を創造できるかに期待が寄せられている。両技術をオーバーラップして理解する人材を育成できるかが大きな目標だ」
 新型コロナを経て、DX(デジタルトランスフォーメーション)へ――。新たな時代が幕開けした。



建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら