【大成建設】平均年齢27歳のデジタルコンダクト室/デジタルの力で新風 | 建設通信新聞Digital

5月1日 水曜日

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【大成建設】平均年齢27歳のデジタルコンダクト室/デジタルの力で新風

 デジタル化の進展により、あらゆる企業でベテランと若手社員の橋渡し役の存在がこれまで以上に重要になっている。こうした中、大成建設は6月に建築本部デジタルプロダクトセンター(DPC)内に新たな組織を立ち上げた。デジタルの力を生かし、紙を中心としてきた建設業界に新たな風を巻き起こそうとしている。構成メンバーの平均年齢は27歳。若手中心の組織は大手建設企業の中で異彩を放つ。メンバーをまとめる36歳のリーダー・池上晃司デジタルコンダクト室デジタルマネージャーに、組織に託された役割と今後の展開を聞いた。

池上氏


 建設業界には現在、多くの産業と同じくDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せている。新型コロナウイルス感染症の拡がりを経て、現場では遠隔臨場が急拡大。国土交通省は2023年度からBIM・CIM原則適用に踏み切るなど、担い手不足に対応した生産性向上の取り組みが急速に進展している。

 しかし、各企業では、規模の大小に関わらず、多くが対応策に決定打を欠く状況が続く。理由の一つが各社員のデジタルに対する認識の差だ。その中でもデジタル環境に先天的なデジタルネーティブと後天的なデジタルイミグラントには大きな溝があり、課題の解決は一筋縄ではいかない。

 こうした中、大成建設では、池上氏をリーダーとする若手社員を中心とした新たな組織としてデジタルコンダクト室が動き出した。併せて同氏と同世代の平田祐之介氏率いるDX生産システム推進室による取り組みも6月からスタートした。

 「デジタルの力で横串を通す」。池上氏は組織に託された一つの役割をこう語る。同氏は2012年に入社後、意匠設計を皮切りに17年にBIMなどの先端技術営業を経験。18年以降はDPCのBIM・デジタル推進担当として全社的なBIMやDX、サービスソリューションの推進に携わってきた。

 デジタルに関するさまざまな業務を経験する中で、多くの気付きを得たと語る。特にDPCではBIMを使った生産性向上に取り組む過程で、「設計と施工のいずれかの視点に立つだけではBIM本来の力は発揮できない」ということを思い知った。

 「設計や施工にとらわれない全社的なBIM活用を推進するため、センター長直轄業務を担当する立場から、できる限り俯瞰(ふかん)的な視野で取り組みを推進してきた」と振り返る。

 自身の高いコミュニケーション能力を生かし、月に一度の情報共有会議「全社BIM会議」を企画するなど草の根的な運動を展開。現在は組織や年齢に関係なく、役員なども含めて約140人が参加するなど取り組みの輪が広がる。6月の組織設置に併せて名称を「建築事業DX会議」に変更し、正式な会議体へと生まれ変わった。

 その過程で徐々に池上氏の存在は社内で認知されるようになり、デジタルやBIMに関するさまざまな業務依頼が舞い込んでくるようになったという。

 こうした流れを引き継ぎつつ新たに始動したのがデジタルコンダクト室だった。同社の新たな職種「建築デジタルエンジニア」として採用された若手社員などとともに、社内からの多種多様な依頼に対し、デジタルの知見と若い力を活用して、課題解決に力を注いでいる。

 7月には、デジタルコンダクト室の初弾ソリューションとしてBIMに基づく建物情報検索システム『Reinforcement of Relationship-BIM』(R2-BIM)を発表した。

 専用アプリなどを使用せずに手軽な操作でBIMに入力された建物の設計・施工・運用・維持管理に関する情報をウェブ上で検索し、素早く必要な情報を引き出せる機能を持つ。

 大成建設では、既にマイクロソフト社のAI(人工知能)モデル『Azure OpenAI Service』を導入しており、「建設業に特化した活用方法を模索している段階」と明かす。

 東大発のベンチャー企業で産業向けにAI技術を展開する燈(東京都文京区、野呂侑希代表取締役CEO)と協力体制を敷いており、R2-BIMについては、開発した建物情報検索システムと大規模言語モデルを組み合わせた高度化の検討も進めている。

 さらにインターネット上の仮想空間、メタバースの技術に注目している。「メタバースは建設業務と親和性が高い」と捉えており、「例えば世界中から業務の協力者を24時間募ったり、データの不具合をゲームの間違い探しのように見つけてもらったりできるはず」と構想する。

『建設承認メタバース』開発中のイメージ画面


 今後の展開については9月に発表した『建設承認メタバース』に関し、新たな展開に向けた準備を進めているという。

 AIやロボットなどの新たな技術の広がりを踏まえ、「従来の人間のための図面ではなく、今後はデータ連携のためのBIMが必須となる」と断言する。「建設プロジェクトとデジタルデータを掛け合わせると社会がより良くなる」との信念を持つ。だからこそ「BIMを中心に世の中の最新技術にいかに適合していくかが鍵になる」と話す。

 業界全体を覆い尽くす担い手不足の課題にも、デジタルの力が解決に寄与すると確信している。「設計者や施工者という選択肢以外にも建設をサポートする業務スタイルがあってもよい」とし、今後も年間5人程度が入社予定の建築デジタルエンジニアとともに総合建設業における新たな仕事のスタイルを追求する覚悟だ。

 幼き頃に心引かれたSF映画の世界。その世界を実現するために建設業界に足を踏み入れた。「いつかは宇宙関連の仕事にも携わりたい」と笑顔を見せる。デジタルの力で一歩ずつ、夢を形にしていく。

 

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