【BIM/CIM原則化元年⑨】BIM/CIM導入が着実進展 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【BIM/CIM原則化元年⑨】BIM/CIM導入が着実進展

 東日本、中日本、西日本のNEXCO3社におけるBIM/CIM導入が着実に進展してきた。NEXCO東日本では試行現場の検証に乗り出し、NEXCO中日本は2025年度からの原則適用を目標に掲げ、試行の成果を踏まえて3次元作成暫定要領を一部改正するなど最適な枠組みづくりが進んでいる。NEXCO西日本では今年7月にBIM/CIMモデル事務所を設立し、全社展開に向けて動き出した。国土交通省の原則化に呼応するように、NEXCO3社では本格導入に向けた基盤が整い始めた。

NEXCO東日本/適用に向け試行現場の検証

碇本大技術・環境部道路技術課課長代理(左)と小谷野清建設部建設課課長代理

 NEXCO東日本は、2022年6月から試行に踏み切った施工段階のBIM/CIM活用について、現場への検証をスタートする。試行26現場のうち、先行導入する7現場を対象に「導入効果をヒアリングし、適用に向けたBIM/CIMの課題整理を進めていく」方針だ。

 既に道路や連絡等施設の詳細設計業務では18年9月からBIM/CIMの原則適用をスタートし、30件が業務を完了済み。現在は4車線化事業やスマートインターチェンジなど連絡等施設を中心に19業務が進行中だ。成果は3次元データとして納品を義務付けており、施工段階での導入本格化を見据え、設計データを蓄積している。

 検証現場ついては、今年6月に実施した調査の中で、先行する7現場を対象に位置付け、年内をめどにヒアリングなどを実施する計画だ。対象現場では仮設工事の取り合いや部材運搬ルートの検証、複雑な部材接合確認など幅広くBIM/CIM活用が進行している。「現場の生の声を聞き、受注者側の有効性だけでなく、発注者としてもBIM/CIMの導入メリットを導き出していきたい」と考えている。

 試行案件では、現場から事前に計画の提示を求め、工事特性などを踏まえ、受発注者間で協議している。「費用対効果などを分析した上で最適な活用方法を整理していく」という。今後の試行案件は現時点で増やす計画はなく、現在の26件で進むBIM/CIM活用をベースに、今後の適用に向けた課題整理を進める。中には設計段階からBIM/CIMデータを引き継ぐ現場もあり、データ連携の効果についても検証する。

 国土交通省で23年度から原則適用がスタートするなど、受注者側ではBIM/CIM導入の機運が高まっている。土工のICT活用については受注者提案を受け付けており、「国交省の原則化によって中小企業などへの導入の裾野が広がる」と期待している。NEXCO中日本や西日本とは共同の現場視察なども進めており、BIM/CIM関連の定期的な情報交換も活発化している。

 これまで同社は、オートデスクなどの協力を得てBIM/CIMの社内教育に力を注いできた。試行現場の検証では、組織の在り方や教育の進め方など「環境整備の方向性も導きたい」と考えている。試行現場では幅広いBIM/CIM活用の提案があり、独自の使い方を進める現場もあることから、検証を踏まえて「社として次のステップに踏み込んでいきたい」と先を見据えている。

東京外環自動車道京葉ジャンクションGランプ工事で活用するBIM/CIMモデル(提供・清水建設)

NEXCO中日本/3次元作成要領を一部改正

長濱課長代理(左)と石田副主幹

 NEXCO中日本では、2025年度からのBIM/CIM原則適用を目標に取り組みを展開している。22年3月には3次元作成暫定要領を制定し3次元モデルの作成ルールを定め、今年10月には試行の結果や業界からの意見をもとに要領を一部改定した。

 主な改定内容は、▽業務フローと3次元モデルの作成時期の整理▽構造物モデルの作成対象の追加・モデル作成単位の修正▽属性情報の付与▽汎用部材の3次元設計テンプレートを用いたモデル作成▽3次元モデルのテクスチャ・色彩のルール制定▽地質・土質モデルの作成方法の追記▽座標系の統一ルールの掲載–の7点。モデルを作成する上での不都合を取り除いたほか、業務過多になりやすい作業で負担が減るようにルールを変えた。

 モデルをつくる際には、用排水路や標識、植栽、防護柵、遮音壁など汎用性のある部材は同社が貸与した設計テンプレートを用いることを認める。設計テンプレートを用いることで、手間を削減させ、本来の主目的であるトンネルや橋梁などのモデル作成後の設計成果の確認などに注力してもらう。

 また高速道路は複数の都道府県をまたぐため、作成者によって適用する3次元モデルの平面直角座標系にばらつきが生じてしまう恐れがあることから、座標系は事務所の管轄IC間で統一することにした。

 地質・土質モデルについては、ボーリング柱状図とトンネル地質縦断図を道路に沿った鉛直面に貼り付けて、見える化を図る。

 管内に15カ所あるモデル事務所では、これまで工事53現場、調査等業務46現場でBIM/CIMを導入してきた。その際のデータ共有には、オートデスク『BIM360Docs』を活用している。技術本部高度技術推進部技術開発課の石田篤徳専門副主幹は「データ量が大きい3次元モデルでも関係者間で自由にやり取りできるところにインパクトがある」と利点と語る。

 土工や舗装に関しては、MC(マシンコントロール)やMG(マシンガイダンス)の重機を操縦する際に役立てるなどICT施工に関連して活用するケースが多いという。技術本部環境・技術企画部環境・技術企画課の長濱正憲課長代理は「モデル作成は受注者が直接的に現場作業の効率化につながる場合に取り入れられやすい。今後は、発注者の効率化も併せて追及していく必要がある」と話す。

 石田副主幹は、現時点での導入効果について「まだ個別の業務ごとに最適化している状況。全体が最適化するのはまだ道半ばだ」と指摘する。BIM/CIMの本来の目的である建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けて、これからも作成ルールの改善のほか、社員のデジタルスキル向上に向けた社内勉強会の開催など各種施策を推進する考えだ。

伊勢原JCT(新東名・東名交差部)の3次元モデル

NEXCO西日本/ノウハウと事例共有し早期普及

山崎課長代理(左)と古賀主任

 NEXCO西日本は、2023年7月20日に『BIM/CIMモデル事務所』を設立した。BIM/CIMを積極的に活用しノウハウと事例を共有する役割を担う。山崎泰弘建設事業本部建設事業部技術管理課課長代理は「安全管理、施工効率化、地元関係機関との調整を主目的に、BIM/CIMを全社へ早期に浸透させる」考えだ。

 モデル事務所は、西日本管内の4支社にそれぞれ1事務所を設け、モデル事業で測量・設計・工事でBIM/CIMを活用する。古賀俊次同課主任は「モデル事務所が試行錯誤を繰り返し、好事例を積み重ね共有することで全社への普及を促したい」と語る。

 具体的には関西支社和歌山工事事務所が阪和自動車印南~南紀田辺間4車線化事業、中国支社千代田高速道路事務所が浜田自動車道大朝~旭間の4車線化事業、四国支社愛媛工事事務所が松山自動車道伊予~内子五十崎間4車線化事業、九州支社宮崎高速道路事務所東九州自動車道高鍋~西都間4車線化事業と新富スマートIC(仮称)事業で取り組む予定だ。

 国土交通省はBIM/CIMデータを補助資料として活用しており、同社も追随する。4車線化がモデル事業に選ばれた理由について山崎課長代理は「供用路線の近くで施工するため、現場の安全管理や干渉チェックなどの施工の各段階におけるシミュレーションにうってつけだ」と強調する。

 説明資料の削減も大きな効果だ。4車線化事業では関係者との協議で工事中の現場周辺や完成後のイメージを視覚的に伝えられる。資料作成と説明に費やす時間が減るため、働き方改革や生産性向上につながる効果も期待される。

 また、17年度から始まったBIM/CIM活用工事との違いは、発注者自らが主体となって取り組むことだ。これまでの活用工事では、受注者のノウハウに頼る部分が大きかったが、モデル事務所は発注者が主体となって3次元設計から工事までの一連で取り組む予定であり、順次3次元設計の試行から取り組む予定だ。

 同社は、クラウドサービスやバックアップサービスについてオートデスクと包括契約を結んでおり、『BIM360Docs』の説明会を6~7月に、講習会を8~9月にかけて各モデル事務所で開いた。3次元データの取り扱いや操作方法などについて研修した。必要に応じてモデル事務所に限らずサポートする体制を整えている。

 今後はモデル事務所がBIM/CIMを活用する上での課題抽出とノウハウの蓄積を担当し、定期的に事例をとりまとめる予定だ。国土交通省は2023年度からBIM/CIM原則化を始めており、古賀主任は「国土交通省に遅れをとらないよう早期の普及を目指す」と決意を示す。

松山自動車道伊予IC~内子五十崎IC4車線化事業・完成イメージモデル



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