【BIM/CIM2024③】BIM/CIM活用を積極展開 | 建設通信新聞Digital

5月1日 木曜日

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【BIM/CIM2024③】BIM/CIM活用を積極展開

 東日本、中日本、西日本のNEXCO3社がBIM/CIM活用を積極的に展開している。NEXCO東日本は試行現場の具体検証に乗り出し、NEXCO中日本は2025年度からの原則適用に向けた準備が進行中、NEXCO西日本はBIM/CIMモデル事務所を中心に早期浸透を目指す。各社では導入基盤が整い、BIM/CIM活用の新たな局面に入ろうとしている。 

NEXCO東日本 試行工事重ね全社方針策定へ

日下氏(左)と佐藤氏

 NEXCO東日本は、施工段階へのBIM/CIM導入による効率的な工事管理の実現に向けて、実現場での試行工事を展開している。2024年9月時点での対象工事は土工11件、橋梁3件、トンネル2件の計16件で、うち1件は既に竣工している。23年度にはこの中から9件の工事でヒアリングを実施し、一定の効果を発揮していることを確認した。

 試行現場の一つである、首都圏中央連絡自動車道 大栄ジャンクションCランプ橋(鋼上部工)工事(千葉県成田市)では、本線橋とランプ橋の架設に当たり、中央分離帯に段差があることや1期工事で施工済みの橋梁との干渉などが施工上の懸念点となっていた。そのため、事前に点群データを取得し、オートデスクなどのツールを用いて3次元モデルを作成。仮想空間上で架設の可否を確認し、円滑な施工につなげた。

 この他の現場でも、「VR(仮想現実)で現場を再現して警察との協議に活用」「遠隔立会による時間短縮」「3次元モデルによる橋梁付属物の干渉確認」など、幅広い取り組みを実施し、コストや受発注双方のメリットについて多角的に検討している。

仮想空間上に当てはめた大栄橋(上)とCランプ橋の3次元モデル

 建設事業本部建設事業統括課の佐藤大樹課長代理は「まだ一部の現場からしかヒアリングできていないため、現時点では定量的な評価を出すまでには至っていないが、今後も各工事の進捗に合わせて効果を検証し、全社的な方針をまとめていく」と語る。

 設計段階は、既に18年9月から道路や連絡等施設を対象に、BIM/CIMによる詳細設計を標準化している。作成した3次元モデルは住民説明会や関係機関協議にも活用しており、完成イメージを共有することで、理解促進や円滑な協議進行に寄与している。24年8月末時点で設計済みの案件は50件で、現在も12件の設計を進めている。

 DX推進の一環として建設時の情報を維持管理に活用するための検索システム構築も計画している。21年度から情報収集をスタートし、23年度後半から本格的な検討に着手した。また、技術の社内浸透に向けて、オートデスクなどのソフトウェアベンダーや設計コンサル、ゼネコンとの意見交換や勉強会などへの参加を通じて、体系的な研修体制の構築も検討している。

 技術本部技術・環境部道路技術課の日下寛彦課長代理は「BIM/CIMは国も積極的な活用に動いている。当社としても行政の動向を見据えながら、業務の効率化や人手不足への対応策の一つとして有効に活用していきたい。十分な成果に結びつくまでまだ先は長いが、ゴールを目指して着実に取り組みを進めていく」と強調する。

NEXCO中日本 原則適用へデータ活用推進

原則適用に向け準備を進める技術本部の(左から)内山氏、石田氏、長濱氏、後藤氏

 NEXCO中日本は、2025年度からの原則適用に向けた準備を着々と進めている。調査、測量、設計、工事など業務フローに沿ってデータを引き継ぎ、効率化、高度化を推し進められるようにどの業務を原則適用とするか検証している。

 紀勢自動車道の4車線化事業では、土質調査・測量・設計の段階から導入し3次元モデルを引き継ぎ活用している。技術本部高度技術推進部技術開発課の石田篤徳専門副主幹は「測量に点群データを使用するケースは今までもあったがその業務で完結していた。測量で取得したデータを設計、工事に活用するようにフェーズ間で連携しなければならない」と語る。

 23年10月に改定した3次元モデル作成暫定要領に関しても、業界団体との協議を踏まえて修正する予定だ。社内には▽基準▽積算▽環境整備▽効率化――の四つのワーキンググループを設け、効果的な利活用に向けて意見を交わし修正に反映させる。

 技術本部環境・技術企画部環境・技術企画課の長濱正憲課長代理は「受発注者双方が業務を効率化、高度化することがBIM/CIMの基本。データ作成に多大な労力をかけ過ぎないようにしたい」と力を込める。特に属性情報の入力は今まで細かく指定していたが、受注者の負担が大きいため、データを次のフェーズに引き継ぐ点を踏まえて入力項目を大幅に減らす方針だ。

北陸自動車道寛気谷橋床版撤去工事で採用した4Dシミュレーション

 また、原則適用に合わせて今後の運用ビジョンを公表する考えだ。石田副主幹は「特に現場の効率化や業務フロー改善の方向性を打ち出したい」と意気込む。

 原則適用後の社内体制は「各社員の日々の仕事のルーティンにBIM/CIMを落とし込むため、専属の部署が直接担当することはなくなる」(石田副主幹)見通し。そのためには個人のデジタルスキルの向上が必須となる。これまで若手社員を中心に研修会を9回開催し延べ約200人が受講した。管理職に対しても説明会などで普段の仕事がどのように変わるか周知していきたい考えだ。

 管内では24年9月において、工事51現場、調査等業務21現場でBIM/CIMを活用している。2次元の設計図面から3次元モデルを作成し図面の不整合箇所を見つけ修正することで発注図書の精度を向上させた。建設機材などの配置計画を反映した施工詳細モデルに時間軸を付与した4Dシミュレーションも実施し、作業日単位で施工詳細を確認し安全管理におけるリスクを抽出するなどの効果を確認した。データ共有の際には主にオートデスクの『Autodesk Construction Cloud』を使用している。石田副主幹は「クラウド上で共有できる点にメリットを感じる」という。

NEXCO西日本 モデル事務所で取組み進む

山崎氏(左)と古賀氏

 NEXCO西日本は、2023年7月に設立した『BIM/CIMモデル事務所』で3次元データを活用し、事業の効率化に取り組んでいる。主に4車線化事業をモデルとして進めており、効果を分析し、BIM/CIMの原則活用や全社への早期浸透を目指す。

 現在、関西支社が設計業務5件、工事5件、中国支社が測量業務4件、設計11件、四国支社が設計10件、九州支社が測量5件、設計7件、工事5件でBIM/CIMを活用している。3次元データを施工計画や条件の可視化、関係機関協議と合意形成などに活用している。

 取り組みの結果、施工段階で設計へと手戻りが発生しやすい仮桟橋などで3次元データを使うと干渉や施工計画が確認しやすいことなどが効果として報告されている。山崎泰弘技術管理課課長代理によると、「供用路線の近接箇所という厳しい環境で施工するため、取り付けなどの確認に有効」なことが理由だ。古賀俊次同課主任は「地形や施工場所などの条件に応じ活用すれば、事業の効率化に貢献できる」と考えている。

 オートデスクとフォローアップや研修を含むEBA契約を結んでおり、3次元データは『BIM360』を活用している。モデル事務所の社員を対象に研修を開き、使用方法を学んでいる。山崎課長代理は「セキュリティが向上し、手間が削減された。プラットフォーム上にデータを保存するため、情報共有の確実性も向上した」と効果を実感する。

仮桟橋の3次元データ

 一方、現状の業務実施体制では、2次元図面と3次元データを作成するため、設計業務の受注者にとっては「2次元から3次元へ順番に作成すると履行期間が少なく、並行すれば手戻りが増えてしまう」(古賀主任)課題もある。

 測量業務はBIM/CIMの活用を原則化しており、設計と施工段階ではモデル事務所が活用している。現時点では、工事が少なく「設計で作成したデータがどこまで活用できるか不明」(古賀主任)なため、施工段階に入ってから検証すべきことも残されている。

 社内の教育体制も着々と進んでいる。モデル事務所では、BIM/CIMを活用する意味や理由、活用する範囲などの理解は進んでいるが、全社レベルでは道半ばだ。このため、25年度から社内教育を強化する方針だ。

 山崎課長代理は「今後は国の方針に従いつつ、取り組みの効果を分析し、活用方法などをうまく見極めたい」と話す。モデル事務所の拡大も目指しており「事業の川上から3次元データを使える新規事業がある事務所はモデル事務所としたい」と先を見据える。



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