【NEXCO3社】密度高まる受・発注者の情報共有 | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【NEXCO3社】密度高まる受・発注者の情報共有

国土交通省が2025年度のBIM/CIM原則化を打ち出すなど、インフラ整備における3次元モデルデータ活用の機運が高まる中、民間インフラ事業者にもBIM/CIM試行の流れが鮮明になってきた。東日本、中日本、西日本の高速道路会社3社は試行の進捗に若干の差はあるものの、それぞれが明確な導入目的を持ち、BIM/CIMと真正面から向き合っている。
NEXCO3社は受発注者間の情報共有を今後どう進めていくか。試行が拡大する中、情報共有の密度も徐々に高まりを見せている。既に3社は共同で現場の工事情報共有・保存システム『kcube2』を運用しているが、3次元モデルを含むBIM/CIMのデータ連携はデータ容量の増大に対応する必要もあり、選択肢として民間のクラウドシステムを活用する流れも見えてきた。
川上から川下まで一気通貫でデータをつなぐことがBIM/CIM導入の利点だけに、専用プラットフォームを確立することはデータ連携上で有効な選択肢の1つ。特に3社は調査・設計から施工、さらには維持管理までトータルで高速道路事業を進めているため、関連するあらゆる情報を集約できるデータベース的なBIM/CIMの枠組みが、品質確保や生産性効率の側面でも効果を発揮しそうだ。NEXCO3社が取り組むBIM/CIMにおける情報共有の今を追う。

NEXCO東日本/まずは維持管理効率化が優先

NEXCO東日本は、ICT土工との連携推進や現場の生産性を向上するために2018年10月からBIM/CIMを導入している。道路詳細設計と連絡等施設詳細設計を対象に、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の延伸事業、4車線化事業、スマートIC、休憩施設(SA・PA)など14業務で展開中だ。

(左から)中村氏、山崎氏、片倉氏

クラウドなどの受・発注者間で情報共有するために有効なプラットフォームは構築には至っていないのが現状。同社は「今後、工事案件で展開するためには、その構築は喫緊の課題」との認識を持つ。BIM/CIMの適用件数自体が少なく、設計成果を工事に活用した事例はない。当面は受注者からICT土工の提案があった場合に、設計成果である3次元データを貸与・活用する形の運用を想定する。
BIM/CIMは、設計段階での地元や関係機関との協議の合意形成に有効的であり、工事段階では検査・書類の簡素化など生産性向上につながる仕組みと考える一方で、「(同社の)BIM/CIMへの取り組みは始まったばかり。国の動向を注視しつつ、各段階で検証を重ねた上で、今後の他工種への適用・拡大を見極めていく」

横浜横須賀道路の横須賀PAに整備するスマートICの設計図

ソフトは、設計図書で同社が閲覧に使うオートデスク社製品を明記しているが、互換性があればこれ以外の使用も認めている。業務展開中の関東、東北、新潟の各支社ではオートデスクから講師を迎え、BIM/CIMの基礎知識習得とハンズオン(体験学習)講習会も18年度から始まった。
BIM/CIMは、設計から工事、維持管理に至る一気通貫での活用が望まれるが、「現状は建設工事の効率化が中心になっている。一方、道路管理者であるわれわれは、維持管理の効率化に向けたデータプラットフォームの構築を優先事項に取り組む」(同社)。
業務プロセスを変革するために展開中のスマートメンテナンスハイウェイ(SMH)では、情報基盤の刷新や情報の連携を通じた維持管理のプロセスを高度化する観点で、i-Constructionを具現化するもの。「BIM/CIMは維持管理段階でi-Conの1つのツールに将来なり得る」と期待する。

NEXCO中日本/3次元管理基盤の構築目指す

NEXCO中日本は高速道路の建設・維持管理にBIM/CIMの導入を図っている。技術・建設本部環境・技術企画部技術企画・開発課の永田政司係長によると「一連の高速道路の建設・管理プロセスにBIM/CIMモデルを活用するとともに、クラウドで受発注者間の情報を共有する環境の構築を目指している」。

吉谷課長補佐(左)と永田係長

新東名高速道路の新規建設事業は一部の工事で国土交通省が推進するICT―FULL活用工事を展開している。維持管理では有効なBIM/CIMモデルの生成を目指し、3次元モデルの中に属性情報などを格納するためのルールづくりを進めている。管理断面における活用では、2次元の管理用図面からBIM/CIMモデルを生成する方法や航空レーザー計測などで取得した点群データの活用方法を検討。すでに盛土の変状把握やドローンで斜面災害復旧工事の土量をいち早く算出することなどに利活用している。
クラウドサービスは、オートデスク社の『BIM360Docs』を試行利用している。発注者と受注者が対等にアクセスでき、工事管理に必要な3次元モデルなどの情報を共有している。このソフトはフォルダ構成が可能でファイルを更新するとバーション1、2と履歴を保持するため変更個所がわかりやすい。将来的にはクラウドで共有してきたデータをそのまま納品とすることを目指している。

クラウドを利用した情報共有

『i-MOVEMENTプロジェクト』の一環で「3次元モデリングによる保全管理基盤の導入」構想も推進中だ。保全企画本部保全企画課兼次世代保全推進課の吉谷直人課長代理は「営業中の高速道路運営に関わるすべてにBIM/CIMで得た成果や点群データなどを統合したモデル群を活用したい」と語る。
現在は法面災害が発生した場合、現場に人が出向き復旧方法を決めている。このプロジェクトが完成すれば「CCTVカメラの画像から3次元モデルを活用して土量を計算し、過去のデータベースと照合し復旧方法が自動的に提案される。復旧にかかる工程や必要人員・機材も算出できるため、お客さまのスマートフォンに渋滞情報を素早く提供し、行動を変更してもらうことも可能になる」という。今後、3次元の管理基盤(デジタルツイン)を構築し、あらゆる構造物の状態把握などに活用する考えだ。

NEXCO西日本/クラウド介して情報やり取り

業務4件、工事5件でBIM/CIMを試行するNEXCO西日本では、試行案件の進捗に合わせるように、受発注者間の情報共有が活発化しつつある。山口卓位建設事業本部建設事業部技術管理課課長代理は「地元説明の準備も含め、受発注者間のやり取りはクラウドで行っている」と説明する。

山口技術管理課課長代理

同社はBIM/CIM試行に合わせ、情報共有の枠組みを整えてきた。3次元モデルデータ容量は大きく、従来の情報共有システムでは対応が難しいことから、2018年11月からオートデスクのクラウドサービス『BIM360Docs』を受発注者間の情報共有プラットフォームに位置付けた。導入当初に100ライセンスを取得し、受発注者の各担当に権限を与え、試行案件の情報共有についてはクラウド活用を前提に運用中だ。
5件を選定する試行工事では、20年度から阪和道松島高架橋他9橋橋梁更新工事と中国道吹田JCT~中国池田IC間橋梁更新工事の2現場が、本格的な施工フェーズに入る。現場が本格的に動き出せば、施工管理や安全対策面でも3次元モデルを積極的に活用する流れが出てくる。
試行業務でも先行する関西支社に続き、付加車線を進めている九州支社が調査段階でBIM/CIMの活用を始めるなど、各支社にも導入の流れが拡大しつつあり、点群データの受け渡しなど調査段階についても受発注者間の情報共有はより密度が高まっている。

『BIM360Docs』の操作講習には30人が参加

同社は、試行案件の多くを手掛ける関西支社の担当者らを対象にBIM360Docsの操作スキルを修得する講習会も開催した。BIM/CIMの支援業務を受託した応用技術(大阪市)が講師役となり、約30人が参加。試行案件が進展すれば、いずれは発注者サイドで3次元モデルデータ確認作業が増えることから、オートデスクのコンセプトデザインソフト『InfraWorks』の基本操作についても学んだ。
山口氏は「BIM/CIM試行は始まったばかりだが、試行工事ではこれから3次元モデルのやり取りが活発化してくるだけに、試行案件の進捗に合わせながら、われわれ発注者側の体制もしっかりと整えていく」と語る。現地で建設の事業化が動き出し、調査・設計段階からBIM/CIMの活用を試行する動きが高まっており、試行工事の予定も踏まえ、クラウドライセンス数も見直す計画だ。