【前例なきコロナ対応 20年度を振り返る(上)】都の開札 1割減まで回復/新たな取り組み加速 | 建設通信新聞Digital

5月1日 水曜日

公式ブログ

【前例なきコロナ対応 20年度を振り返る(上)】都の開札 1割減まで回復/新たな取り組み加速

 建設産業界にも大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症。この1年を振り返ると、東京都では工事の新規公告を一時ストップするなど公共工事の現場は前例なき対応に追われた。一方、業界は感染流行以前から働き方改革と生産性向上の取り組みを進めてはいたが、図らずも新型コロナ対応がその流れを一部で加速させている。劇的に変化する社会でこれまでの仕事のやり方は通用するのか。現場では新たな取り組みが動き出している。

 新型コロナの感染が急拡大した2020年4月、東京都は新規公告を1カ月間停止する異例の対応に踏み切った。緊急事態宣言を発令した国の直轄工事でも実施しなかった緊急的措置は、非接触の徹底と、競争入札の公平性確保が背景にある。この措置は都の上期の入札契約手続きに大きな動揺を与え、一部の部局では発注が21年度に持ち越されるなどの影響が出た。

 新型コロナに伴う都の独自の措置が入開札に与えた影響を確認する一環で、日刊建設通信新聞社はこれまで、都の「電子入札システム」で公表されている情報をもとに、四半期ごとに発注工事の開札を調べてきた。

 その結果、第1四半期は前年同期比で4割近く急減した。その後、件数の減少率が年度末までにおよそ11%へと持ち直した要因の1つには、工事発注量が多い第3四半期に前年度並みの発注があったことが挙げられる。

 ただ、住宅政策本部が20年度に予定していた工事の一部を翌年度に持ち越すなど、部局によって工事発注の回復状況にはばらつきがみられる。

東保証による都の月別発注件数
(東日本建設業保証が公表している前払金保証実績からみた公共工事動向を参考に作成)

◆対策に揺れた自治体
 一方、全国的に新型コロナによる影響が大きかった学校関係工事では第1四半期、首都圏で発注の中止や延期などの動きが相次いだ。

 都内では足立区がトイレ改修工事など計43億円分の工事を21年度に先送りする方針を決めた。大田区や品川区も、校舎の外壁改修工事などを先送りした。

 影響は再開発事業にも及ぶ。住民との合意形成を図る場である事業説明会の開催をめぐっては、自治体の間で異なる対応がみられた。コロナ感染のリスクを重視し資料送付で対応するケースがある一方、説明会が果たす役割を重視し、感染症対策を講じた上で開く自治体もあった。

 20年度前半にかけてみられたこうした混乱も、基本的な感染症対策が浸透し、官民を問わずウェブ形式の会議などが増えた現在は抑えられている。

◆業界は先行き不安視
 公共発注機関である行政の対応が1年をかけて落ち着きを取り戻してきた一方、建設業界は先行きを不安視している。

 20年末に小池百合子都知事が実施した、次年度の予算編成に関する都内業界団体へのヒアリングの場では、団体側が、経済を下支えする公共事業への投資を強く訴えた。

 「今後、厳しい財政環境が見込まれる」。投資的経費の増額などを求めた団体側に対し、小池知事が釘を刺す一幕もあった。事実、都の歳入は企業からの税収が占める割合が多い。コロナ禍で企業業績が悪化したことを受け、大きく落ち込む見通しだ。

 コロナ対策の費用は、この1年で突如、必要不可欠になった。新たな経費が21年度予算や既存事業を圧迫するという事態は、都だけでなく新型コロナ感染者が多い他の地方自治体も同様と言える。

 コロナ禍は公共工事の受発注者に大きな混乱をもたらした。1年以上を経た現在も3度目の緊急事態宣言が発令され、社会はいまだにコロナ禍の真っただ中にある。民間を含めた工事の需給環境について、建設業界は引き続き、先行きを注視していく必要がある。



建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら