【炭鉱のカナリア 3〈DX〉】競争の勝敗 提案が分かれ目/デジタル化波紋と請負の行方 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【炭鉱のカナリア 3〈DX〉】競争の勝敗 提案が分かれ目/デジタル化波紋と請負の行方

 「第4次産業革命」「Society5.0」の冠をつけた成長戦略で、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、ロボット、AI(人工知能)、ブロックチェーン(分散台帳技術)といったデジタル技術進展とデータ活用へ向け、日本がアクセルを踏み込んだのはわずか5年前の2016年。当時、経済産業省が主導し、新産業創出と産業の構造転換を打ち出したビジョンのキャッチフレーズは、「痛みを伴う転換か 安定を求めたじり貧か 日本の未来をいま選択」。そして成長戦略が「カーボンニュートラル」に代わり、DX(デジタルトランスフォーメーション)が次代のキーワードになったいま、建設産業も既に未来への選択を終えた。

建設DXの進展は工場生産、プレキャスト化、自動化など既存生産システムの転換を促す。ただ工種が細分化される建築工事でどれだけ生産性が向上するかまだ不透明な部分は多い


 建設産業のトップの多くが企業経営のキーワードとして、DXを挙げるのは、業務・工事や新事業領域のPPPやコンセッション(運営権付与)などあらゆる競争で、DXの取り組み・活用が勝敗の分かれ目になっているからだ。DXは言い換えれば生産性向上と技術革新。

 例えば、大手や準大手ゼネコンなどが参加する民間工事の受注を決める時の主流になりつつある「提案競争」。勝敗の分かれ目は、デザインや調達能力などさまざまだが、見方を変えると勝敗を決する構図は、「人員が少なく工期も短くできれば競争に勝てる」と単純だ。言い換えると、コスト、工期、品質で競争力があれば提案競争でも勝てることになる。

 実は「負けた原因は徹底的に分析する」(鹿島の押味至一社長)提案競争を支えるかぎとなっているのが、BIM/CIM導入効果として言われてきたフロントローディングだ。そして、これまで後工程で行われてきた作業を前倒しで検討し、作業も進めるフロントローディングを可能にしているのが、3次元データの活用を始めとするデジタル革新と従来調達手法からの脱却だ。例えば、基本計画↓基本設計↓実施設計↓見積もり・入札というこれまでの流れの中で、元請けが設計データを受注契約後にもらうと、工夫の余地は狭まる。

 いわゆる「隙間がない」ため「フロントローディングでコストダウンができない」(竹中工務店の佐々木正人社長)。つまりデジタル革新の進展とデザインビルドを始めとする多様な調達・契約方式拡大が重なり合ったことが、提案競争の広がりを実現させたといえる。佐々木社長はフロントローディングがさらに浸透した建設産業の展望について、「浸透すればファジー(あいまい)な部分がなくなり、コストもわかってしまう。その結果、『結果的CM』になる」との見方を示す。

 顧客のニーズをいかに取り込み、技術と生産システムの革新によって次代への備えを急速に進める建設産業にとって、DXとは別の重要なかぎとして「教育」も無視できない。

 大手・準大手企業の提案競争激化の影響を直接受けているのが、中堅企業だ。働き方改革を進めながら競争激化に向き合う中堅企業の1つ、松井建設の松井隆弘社長は「BIMだけに頼ってもしょうがない。施工図は外注せず、社内の技術者が書けるよう教育している」とする。

 建設産業界の生産システムは、「総括管理」とともにかつては担ってきた「施工管理」を1次下請けに担わせることで、元請けはコストダウンを図った。その結果、「施工管理」を担う1次下請けは直接雇用の職人を手放し、実際の「施工」の主力を2次以下の下請けに委ねた。そのため、本来は元請業務であるはずの施工図も1次下請けが担う形になっているといわれる。

 そうした状況の中で、あえて技術者教育として施工図にこだわることに松井社長は、「品質がリピーターになる。社員には地道な努力が信頼につながる。だから信頼の貯金だと強調している」と話す。DXといった技術革新をてこにしたさまざまな動きの中で、企業の評価、存続へ向けた選択肢も広がりつつある。

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