【東京都・入札契約制度改革】事業停滞など課題浮彫りに 都議会、業界団体から反発の声 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【東京都・入札契約制度改革】事業停滞など課題浮彫りに 都議会、業界団体から反発の声

都議会第4回定例会本会議(12月)では入札契約制度改革について厳しい意見が相次いだ

 「東京大改革」を掲げた小池百合子東京都知事が誕生してから1年半近くが経過した。この間、小池知事が設置した外部有識者による都政改革本部の提言に基づく入札契約制度改革や2020年東京五輪競技会場の見直しなどに取り組んできた。特に実施方針発表時から反発が大きかった入札契約制度改革では、既に事業者選定の遅れによる事業停滞などの課題も浮き彫りになっている。

 入札契約制度改革は、競争入札する工事請負契約案件を対象に、▽予定価格の事後公表▽1者入札の中止▽JV結成義務の撤廃▽低入札価格調査制度の適用範囲の拡大--の4つを柱とし、17年6月26日の財務局公告案件から1年間の期間で試行を始めた。10月30日の公告案件からは全局で予定価格を事後公表に切り替えた上、交通局、水道局、下水道局の公営企業3局は、財務局案件と同一内容の試行に踏み切った。
 入札契約制度改革の実施方針は、17年3月31日の都政改革本部会議で内部統制プロジェクトチームが突如示したため、東京都議会や業界団体から反発の声が多く挙がった。
 従前の入札契約制度を財務局とともに構築してきた都議会自民党は、緊急要望で「一切の情報提供を行うこともなく突然発表し、しかも2カ月後の6月から試行するとしている」と唐突さを批判。都は4月に建設業界団体への説明会、5月に小池知事のヒアリング、6月に事業者向け説明会などを実施したが、業界の意見を聞く前に実施方針を発表したことに「順番が逆」と反発を受けた。
 「そもそも入札契約制度改革は、豊洲市場など大型工事の1者入札、落札率99.9%を問題視したはずなのに、中小建設業にしわ寄せがくるのではないか」と、ある建設業団体の幹部は警戒の念を隠さない。JV結成義務の撤廃による混合入札の導入で、「これまで大手とのJVで(都の仕事と)つながっていた部分もあった。(大手企業と)同じ土俵で勝負できるのか」と危ぐする。
 12月の17年第4回定例会本会議の代表質問では、公明党や自民党の議員から「都は実施方針を抜本的に見直すべき」「間違った制度変更であったと認識すべき」と、辛辣な発言が相次いだ。
 公明党の橘正剛議員は「過去3年間に社会保険未加入があった場合、失格となるルールが設けられたが、入札契約条件の厳格化ではなく、加入促進という考え方で担い手の確保を図るべき」と訴え、自民党の鈴木章浩議員も「都内中小企業の育成という観点を併せ持つことも、都の責務だ。入札制度改革の失敗は明白で、その影響は都政全体に広がりかねない」と迫った。
 小池知事は「検証結果、業界団体の声を聞き、より良い制度の構築に向け取り組む」と答えるにとどめた。
 都議会財政委員会でも、公明党の臼井浩一委員が、1者入札の中止について、「施工条件の困難性などの理由がうかがえるため、1者入札の全案件を中止する制度には疑問が多い」と指摘した。JV結成義務の撤廃については、自民党の伊藤祥広委員が「JV結成の事例が減少すると、中小企業の技術力育成や受注機会に悪影響を及ぼし、将来の担い手確保にも支障を来す」とし、共産党の曽根肇理事は、「今後、中小企業は大手企業が単体で落札した工事の下請けに入ることが多くなる。JV構成員と下請けでは立場が違う。単体で落札した企業が落札後に地元企業とJVを組むことを入札条件とする方法もある」と提案した。
 12月20日の第2回東京都入札監視委員会では、都が11月末時点の試行状況を中間報告した。財務局契約の新制度適用分は不調件数40件、不調発生率20.1%と、16年度の全局案件10.2%(財務局案件9.9%)に比べ約2倍の不調発生率となった。平均落札率は、16年度全局の91.6%を2.3ポイント上回る93.9%となったが、落札率99%以上の件数割合は、13.4%から8.8%へと減少した。
 JV結成義務の撤廃による混合入札は、16年度の平均希望者数2.5者から4.9者へと増加し、中小企業が単体で落札した案件も19件となった。
 申請1者以下の件数は16年度の132件(割合23.9%)から、11月末時点で46件(18.5%)となった。46件のうち再発注済みの建築(5件)は開札日が平均20.8日、工期が平均8.4日、土木(7件)は開札日が55.7日、工期が33.0日、設備(15件)は開札日が42.5日、工期が13.1日遅れた。
 その後は、12月中に入札監視委員会、都政改革本部会議に今回の中間報告を示し、ことし3月の制度部会で検証結果をまとめ、委員会に報告する。業界団体からも1月と18年度早期にヒアリングした上で、都政改革本部に検証結果を報告する。必要に応じて制度を見直し、本格実施につなげるとしている。

豊洲市場追加対策工事 事業者選定に大幅な遅れ

5街区地下ピット追加対策工事の コンクリート打設 (写真提供・東京都)

 入札契約制度改革の影響は専門家会議の提言に基づく豊洲市場の追加対策工事にも及び、事業者選定に大幅な遅れが生じた。地下ピット追加対策工事の建築、空調工事、地下水管理システム機能強化対策の土木工事を5(青果棟)、6(水産仲卸売場棟)、7(水産卸売場棟)街区の3街区に分け、合計9件を17年9月19日に公告したが、そのうち4件が希望申請「1者以下」だったため入札を中止し、再公告した。
 その後も応札者辞退や予定価格の超過などで、入札不調を繰り返した。9件中1回目の入札公告で落札者が決まったのは10月30日開札の設備工事1件のみで、2回目の公告で決まったのは建築1、土木3、設備1の計5件、3回目で決まったのが建築1、設備1の計2件だった。残りの1件は3回目の公告でも決まらず、小池知事自ら随意契約に切り替えることを明言し、12月22日に契約した。
 ことし10月11日に市場を開業するため都は、7月末まで対策工事を終わらせる計画で17年内の契約を目指していた。
 結果として、追加対策工事の建築、土木工事の施工者は豊洲市場新築工事の元施工者に決まった。都は施工者選定の透明性を図るため、元施工者への発注ではなく、入札で選定しようとしたが、選定が遅れる結果となった。今後は柔軟な試行も求められる。
 入札で落札者が決まった建築、土木工事計5件の落札率は、98.8%-100%となった。このうち土木工事3件は予定価格と入札価格のかい離が顕著に現れ、都は1回目の公告から予定価格を約1.4倍に引き上げ、事前公表で再公告して落札決定にこぎ着けた。

五輪施設見直し 都の新規恒久施設 整備費は1828億

アクアティクスセンター外観図(17年11月時点の大会時イメージ図、資料提供・東京都)

 20年東京五輪施設の見直しでは、都が17年11月の都議会オリンピック・パラリンピック推進対策特別委員会で同月時点の整備費見込みを説明した。
 都による新規恒久施設(8会場と競技会場周辺の歩道橋など)の整備費見込みは、14年11月の当初整備費合計2241億円に比べ413億円縮減し、1828億円となる。8会場のうち、オリンピックアクアティクスセンター、海の森水上競技場、有明アリーナの3会場は、16年12月時点の会場見直し検討で最大427億円縮減できるとしたが、その後の精査で環境配慮の取り組みなどにより、縮減額は346億円にとどまった。
 オリンピックアクアティクスセンターは当初整備費の683億円から、16年12月時点の会場見直し検討による縮減案で514億-529億円としたが、地中障害物や汚染土の処理を加え567億円とした。海の森水上競技場は当初の491億円から、16年12月時点の縮減案で298億円としたが、東側締切堤南側スロープの整備などにより308億円、有明アリーナは当初の404億円から、16年12月時点の縮減案で339億円とし、屋根や外壁仕様の縮減額精査により357億円となった。
 アーチェリー会場は当初整備費24億円から10億円縮減の14億円、有明テニスの森は144億円から34億円縮減の110億円、競技会場周辺の歩道橋などは23億円を全額減額した。カヌー・スラローム会場の73億円、大井ホッケー競技場の48億円、武蔵野の森総合スポーツプラザの351億円は当初整備費と変更はなかった。

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