【本】水を火に変えた大正時代の電力ベンチャーたち 日本ダム協会参事・中野朱美氏の一冊 | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

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【本】水を火に変えた大正時代の電力ベンチャーたち 日本ダム協会参事・中野朱美氏の一冊

『水燃えて火』神津カンナ著(中央公論新社、1800円+税)

 この本との出会いは、新幹線の車内誌「ひととき」の企画で建築家の團紀彦先生を案内して大井ダムと読書発電所を訪ねたこと。その記事が著者の神津カンナ氏の目に留まり、後にご高著をお送りいただくという機会を得たのです。
 物語は、大正時代に私財を投じて木曽川の電力開発に取り組んだ福沢諭吉の娘婿、福沢桃助とわが国の女優第一号と称されるマダム貞奴こと川上貞の実話に基づいています。明治以降、大正から昭和初期にかけて、わが国の電力事業は全国各地に興された数千社にも上る私企業、つまり今で言う電力ベンチャーによって担われていたという事実をご存じですか?
 この本には、そうしたわが国の電力事業黎明期に、明晰な頭脳と驚くべき行動力で会社を起業して、木曽川の急流に次々とダムを造り、水力発電所を建設していった男の生き様と芸者から女優へ、さらには実業家と変身していく逞しい女性の姿が描かれています。
 最後のページ、木曽川の水面を見ながら貞がつぶやく「桃さんはこの水を、火に変えた」の言葉が印象に残りました。水は、人々の生活に欠かせない命の源であるとともに、エネルギーとしても大切なものであるということが、改めて思い起こされます。

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