【平田晃久展】発見から建築をつくる3つの軸と12の思考のキーワード TOTOギャラリー・間で7/15まで | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【平田晃久展】発見から建築をつくる3つの軸と12の思考のキーワード TOTOギャラリー・間で7/15まで

 ことし3月に史上最年少で第31回村野藤吾賞を受賞した建築家・平田晃久氏(平田晃久建築設計事務所代表、京大准教授)の個展「Discovering New」が、7月15日まで東京都港区のTOTOギャラリー・間で開催されている。5月31日に開かれた記念講演会では「何もないところから創造したり、発明するよりは、何かを発見することで建築をつくりたい」とし、自らの世界観を「新しいかたち」「新しい自然」「新しいコミットメント」という3つの軸と12の思考のキーワードで語った。

平田晃久氏


■新しいかたち あいまいで動的
 平田氏は、3つの軸のうち、『新しいかたち』は、花の周りを飛ぶ蝶が描く軌跡のように人が創造できないあいまいで動的な形が「理想の建築に近い」という。明確なエンクロージャーのない、ふわふわとした立体的な領域を建築化することを“からまりしろ”という造語で表現。互いに異質なもの同士が、からまった優れて野性的なものだと語る。
 その動的で立体的な側や重ね合わせて捉えられるあいまいな領域による建築的展開の可能性を追求してきた作品によくみられる『ひだ』は、キャベツの葉の断面のようなたわんだ連続空間を創造するところから、「自分なりの空間づくりが始まった」と振り返る。
 また、互いの異質性を内包しつつ、絡まり合う様を野性的な階層構造とも呼び、『ツリーネスハウス』では、植物とひだ状の開口、RCの箱を階層構造的に組み合わせた有機的な建築をつくりあげた。最近の『台北コンプレックス』では、野性的階層を「より意識した」という。

■新しい自然 動物的な感覚
 『新しい自然』では、はじめに雨水を流すための屋根と、雨水が流れることでできる地形の類似性を指摘。「対立しているのは自然と人工ではなく、生と死であり、生の度合いだ」との考えを示した。自身が子どものころは、ニュータウンに住み、昆虫採集に夢中だったが、「自分を取り巻く360度すべてが立体的な屋外の自然に対し、住宅などの人工的な建物との違いを感じたことが、建築を志すきっかけの1つだった」と語る。
 こうした「人間の動物的本能を呼び覚ますような新しい建築」を目指す中で実現したのが、『桝屋本店』であり、空間全体をあえて見通せない森にみたてたショールームの中に商品を点在させることで、自然環境のような動物的感覚に訴える建築をつくりだした。

■新しいコミットメント ローカルから派生
 「東日本大震災以降に考えてきたことへのチャレンジ」と語る『新しいコミットメント』では、『汎ローカリティ』という「ローカルから派生したものを発展させて他の場所でも適用しよう」という試みを『台北コンプレックス』などに生かした。
 また、真核細胞のように他者を受け入れることでより高度な生き物になる様から、「建築も生物の進化のように“他者”を受け入れることで、自らの思考が変化して、より面白くなるのではないか」という。その実例として挙げたのが「各場所でそれぞれの文脈と接続することで、思ってもみない結果を生んでいる」という、カプセルホテル・9アワーズの一連のプロジェクトだ。
 他者の思考を含めたプロセスを『履歴』として建築に刻み込んだのが昨年竣工した『太田市美術館・図書館』となる。多くの市民などさまざま立場の人を巻き込んだデザインのプロセスは、「その過程で出てきた意見を盛り込んだことで、比喩的な意味で“ひだ”が増えた。専門的な知見を重ね合わせ、建築家として媒介することでできた」と振り返りながら、「形だけの問題を考えていたころに比べて、さらに生きている度合いが高い建築に近づけたのではないか」と手応えを口にした。
 最後に平田氏は、「これまでの建築では建築家がプログラムをスペースに翻訳し、ユーザーはスペースを使い、行政はアクティビティーをプログラムに変えていたが、今後はそれらが混ざり合い、ぐるぐるとした輪のように統合されるのではないか」と提起。「それはもっと野生的なジャングルのような世界になるのかもしれない。それを見つけていくための新しい発見を続けていきたい」と語った。

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