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【”アナログ”から可能性見出す】中川エリカ氏初の個展 TOTOギャラリー・間で開催中

 TOTOギャラリー・間(東京都港区)で3月21日まで、建築家・中川エリカ氏初の個展「中川エリカ展 JOY in Architecture」が開かれている。会場には設計の現場で活用されてきた、さまざまなスケールの模型がずらりと並ぶ。「模型からスタディーを始めて、のぞき込みながら設計を進めていくと、言葉から設計をするというよりも身体的な感覚、体験的なことから設計を進めることができる」。デジタルとは対極にあるアナログ的手法で、新たな建築の可能性を見い出す中川氏に、模型を通じた設計へのこだわりなどを聞いた。

中川氏。2014年以降に実際の設計で活用した模型、ドローイングが数多く展示されている


 展覧会の会場には、代表作の1つである「桃山ハウス」の20分の1模型など、2014年以降に実際の設計で活用した模型、ドローイングが展示されている。建築を身体的に考えるツールとして欠かせない模型について中川氏は、「大きな模型は言葉で説明しなくても訴求できる。一緒に建築をつくっていく過程で説得するのではなく、施主が見たとたんに共感する瞬間を何度も見てきた。すべてを言葉で説明しなくても建築に携わる方、そうではない方にも分け隔てなく訴えるパワーが模型にはある」と力説する。

 勤務していたオンデザインから独立後は、「図面では決して思いつかないような立体感や、まとまりをもった建築が、大きな模型をのぞき込むことによってできないかと考えた」という。

 言葉で表現できないが、「『何となく良い、これには可能性がありそうだぞ』というあいまいな状態というか、可能性の片りんをつかむ時に模型はその力を発揮する」と、可能性をスポイルしないツールとしての魅力を実感している。

 設計界ではBIMを始めとするデジタルツールが台頭しているが、「究極のアナログ」ともいえる模型は数多くの可能性を秘めている。「材料も物理的な場所も必要で、いまの時代には非効率と思われるかもしれないが、大きな模型は押すと揺れ、構造的に成立しているかしていないかを教えてくれる」ため、構造の専門家ではなくても改善する方針が直感的にわかり、構造担当と打ち合わせる際に具体的な助言を得ることができる。模型を介したプロセスによって、「見たことがない組み立てにつながる」ことは大きな利点だ。

 事務所ではCG(コンピューター・グラフィックス)も制作するが、「あくまで模型が主役でCGはサポート役。設計の主軸が模型であり続けることは変わらない」と強調する。新型コロナウイルス感染症対策として、20年4月に発令された緊急事態宣言の期間中、事務所員は在宅勤務態勢としたが、「リモートによる画面越しの打ち合わせではスケールがない状態になるので大小の判断ができなかった」とスケール感の喪失を味わった。

 各々の家で模型のパーツをつくって事務所で合体するという作業が続き、「自分たちが大事にしているものが失われてしまう」と危機感を感じる一方、生身の模型を囲んで議論を重ねていくという事務所のアイデンティティーを再確認した。

 展覧会では、南米のチリで実施したリサーチの成果も展示している。建物の内側だけでなく、外のパブリックスペースを楽しく使う「源」である野外什器に着目し、写真で記録した約400個の什器のうち、26個を模型化した。「模型にしてみると1つのオブジェクトでありながら、さまざまな材料が組み合わさっていたり、その時その時の合理性が1つに統合しきらずに共存していたりする」という新たな気付きを得ることができた。

南米のチリで実施したリサーチの成果も展示。写真で記録した約400の什器のうち、26個を模型化した


 「設計チームで新しい建築に向かっている時や、新たな可能性見つけた時」。自身にとっての建築の喜びをそう語る。綿密なリサーチの結果を模型に投影し、人間的な感覚を主軸に置いた設計プロセスによる、「新しい建築の表現」への挑戦は続く。

中庭の展示は「冬の庭 風・光をコントロールする縄屋根と、スケール・材料を統一した模型群が作る居場所」がテーマ。((C)Nacasa & Partners Inc.)

 (なかがわ・えりか)2005年横浜国立大卒、07年東京藝術大大学院修了後、オンデザインに勤務し、14年に中川エリカ建築設計委事務所設立。14~16年横浜国立大大学院(Y-GSA)助手。主な作品に「ヨコハマアパートメント」(09年、西田司/オンデザインと共同設計)、「桃山ハウス」(16年)など。JIA新人賞(11年)、住宅建築賞金賞(17年)、第34回吉岡賞(18年)などを受賞。東京都出身。



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