【けんちくのチカラ】俯瞰で世界の見方を変える 評論家・宇野常寛さんとジオラマづくり | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

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【けんちくのチカラ】俯瞰で世界の見方を変える 評論家・宇野常寛さんとジオラマづくり

宇野常寛さん

 「鳥が巣をつくるのと人間がビルをつくることが同じように思えてきます」。評論家の宇野常寛さんは、小さいころから憧れだった「ジオラマ(情景模型)」づくりを本格的に始めて、そんなことを考える。都市のジオラマは、立体的なまち並みを俯瞰できるため、そこから初めて見えてくるものがたくさんあると言う。「俯瞰すると、鳥の巣とビルのように、人間の営みが自然の一部なのだということに気づかされます」。そして、宇野さんはこのジオラマにウルトラマンなどの「ファンタジー」を合成する「特撮」が大好きだ。「ジオラマづくりや特撮は想像力を広げ、世界の見方を変える作業だと思っています」

宇野さんは、組み立てたジオラマにウルトラマンと怪獣ベムラーを置くことで、ジオラマ だけでは見えないものが見えてくると話す。宇野さん撮影・提供((c)円谷プロ)

 小さいときから、地図や航空写真を見るのが好きで、それを立体化したジオラマづくりに憧れていた。
 「小学校に上がるころから模型雑誌を見て、いつか自分もジオラマをつくってみたいという夢を持っていました。それが、2年ほど前に実現しました。地図や航空写真はどこが好きかというと、年代を追って比較して見ていくと、草木が茂るように建物が建って、人の営みが自然のように見えるところです。それが立体的なジオラマでより現実的に感じられます」

「ジオクレイパー」の基本ユニット。 8ピースで構成されている

 鉄道模型を使ったものを含めてさまざまなジオラマをつくっていて、最近では6cm角のスクエアをつなげて簡単に都市がつくれる拡張型都市開発トレーディングフィギュア「ジオクレイパー」のファンだ。この企画・販売を手がける日本卓上開発の内山田昇平社長を宇野さんのウェブマガジンでも取り上げている。建物や都市を主役にした拡張型のフィギュアで、新しいカテゴリーともいえるもの。2014年の販売開始から注目を集めていた。
 インタビューした部屋にはこのフィギュアのジオラマが置いてある。東京タワーを中心にした8ピース(スクエア)の基本ユニットを少し拡張したものだ。

東京・浅草橋の日本卓上開発に展示されている 「ジオクレイパー」によるジオラマ

 「東京の浅草橋にこの日本卓上開発のギャラリーがありまして、スクエアをたくさんつなげた巨大なジオラマがあります。壮観ですよ。かなり精密な一つひとつのスクエアを簡単につなげるだけで、自分の机の上にジオラマができます。都市の生態系を自分の想像力でシミュレーションして、好きな都市をつくれます」

現実以上の現実を表現できる特撮

 宇野さんのこのジオラマにはウルトラマンと怪獣・ベムラーが乗っている。
 「これは自分で勝手に乗せたものです。特撮を意識して置いてみました。僕は、漫画やアニメ、ゲームなどがすごく好きで、いわゆるオタク文化と言われるものの評論活動を中心にしています。中でも、20世紀半ばに生み出された怪獣映画の特撮が大好きです。それは想像力を喚起してくれるからです。現実の都市の風景の中にウルトラマンなどファンタジーを合成した特撮は、想像力を働かせてくれ、世界の見方を変えることができると思っています。現実にファンタジーを重ね合わせることによって、見えにくい現実、隠れた現実を克明な形で表出してくれます」

宇野さんが制作した鉄道模型のジオラマ。ウルトラマンシリーズのフィギュアを使っている((c)円谷プロ)

 昨年大ヒットした映画『シン・ゴジラ』は、最後に東京駅の前に立つゴジラのシーンが、こうした特撮の醍醐味を見事に伝えていると指摘する。日本が原発と向き合う現実をより克明に人間の脳裏に刻み込むからだ。
 「監督の庵野秀明さんは、CGの時代に入って、過去のものになった特撮の美意識や想像力をいかにCGで表現するかということをやったわけです。核エネルギーで動くゴジラを原発の象徴として描くこの映画は、日本が原発と向き合う覚悟を示しています。その意味で特撮は現実以上の現実を表現できる手法だと思います」
 つくるジオラマの数が増えてくると置き場所も必要になってきますね? と聞くと、「そうなんですよ。だからぼくの夢は豪邸に住んで思う存分にジオラマをつくることですね」と笑う。

 (うの・つねひろ)1978年生まれ。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『日本文化の論点』(筑摩書房)。共著に石破茂氏との対談『こんな日本をつくりたい』(太田出版)、『これからの「カッコよさ」の話をしよう』(KADOKAWA)、吉田尚記氏との対談『新しい地図の見つけ方』(KADOKAWA)。編著に『静かなる革命へのブループリント:この国の未来をつくる7つの対話』(河出書房新社)、『資本主義こそが究極の革命である』(KADOKAWA)、『ものづくり2.0』(KADOKAWA)など。京都精華大学非常勤講師、立教大学兼任講師のほか、日本テレビ『スッキリ!!』コメンテーターも務める。

日本卓上開発社長・内山田昇平さん 「拡張型都市開発フィギュアは建物と都市が主役の新カテゴリー

日本卓上開発社長・内山田昇平さん

 評論家の宇野常寛さんがファンだと言う「拡張型都市開発フィギュア」は、これまでにありそうでなかった建物や都市を主役にしている。日本卓上開発社長の内山田昇平さんが考案した。2014年に販売を開始以来、じわじわと人気が出てきている。内山田社長は「フィギュアやジオラマの新しいカテゴリーをめざして取り組んでいますので、展開する意義を感じています」と話す。
 商品名は『ジオクレイパー』。6cm角の台座に乗った中高層ビル、高速道路、公園などのフィギュアを連結パーツでつなげることで、街区をどんどん拡張していける。自宅の机に自分の好きな都市空間のジオラマを再現できるのが魅力だ。宇野さんは、この商品をオフィスに展示している。
 「宇野さんのウェブマガジンで紹介していただいたのですが、この商品をつくるきっかけにとても興味があったようです。私は建物が好きというよりは、東京の夜景やお台場、海辺の工場群などの景観を見るとわくわくするんです。ですからそういう模型が自分の家にあったらいいなと思っていました。本業がアニメグッズの卸しでして、フィギュアの工場の知り合いなどにこのアイデアを話しているなかで実現しました。簡単にはいかず、5年ほど試行錯誤を重ねました」
 開発のベースになったフィギュアは東京タワーだ。ライセンスを取得して精巧につくっている。
 「6cm角の中でビルなどを考えていく過程で、象徴的な建物を1つ入れようということになりまして、それを東京タワーにしたわけです。東京タワーの高さと台座の6cm角から縮尺も2500分の1に決まりました。それからはパーツのアイデアも広がってきて、ビルのほかに、高速道路、付帯するジャンクション、ベイサイド、コンビナート、空港などをそろえてきました。東京タワーを中心にした『東京シーナリー』と呼んでいる8個のパーツを基本にして、拡張していく方が多いですね。高速道路を入れたことで、リアリティーが増したと思っています」
 6月にはアニメ『エヴァンゲリオン』の劇中都市の建物フィギュアが発売予定で、話題を集めそうだ。
 「『エヴァンゲリオン』もライセンスを取得しての制作です。建物には図面があって、かなり精緻に考えられていることに驚かされました。今後は現実の建物でランドマーク的なものも取り込んでいければと思っています。その意味で、建築家の方などにもぜひ見ていただけたらと思っています。有名作品やコンペで残念ながら落選した作品などをフィギュアとしてジオラマに展開することで、建築のセンスや技術が一般に広まる機会にもなるのかと思います」



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