【column BIM IDEATHON(11)】建築情報・形式の統一(1)-共通データ環境- | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【column BIM IDEATHON(11)】建築情報・形式の統一(1)-共通データ環境-

 国内で“BIM元年”の声があがってから早10年が経つが、その間にもBIMを取り巻く環境は変化している。今回はプロジェクトを通じてデータを保存・活用する環境であるCDE(Common Data Environment)について国内の状況と課題を考えてみたい。

◆データベースとしてのCDE
 CDEとはISO19650によれば「プロセス管理を通じて、各情報ファイルを収集・管理及び配布するためにプロジェクトで合意された情報源」つまり、発注者が定めた発注要件や実行計画、情報ルールに基づき、設計、施工、維持管理の各フェーズでデータを保存できる「共通データ環境」を指し、英国を中心に規定・利用されてきた。対して、国内のデータ環境は設計、施工、施設管理と建築のライフサイクルで分断されている。(本稿では「独立データ環境」と呼称する)共通/独立データ環境の違いをスケジュール管理手法で考えてみたい。独立データ環境は各自が別々にスケジュールを管理する状況に近く、たびたびスケジュール調整が発生する。共通データ環境はGoogleカレンダー等、クラウド型スケジュール管理ツールに近く、関係者のスケジュールが共有されているため、チームの生産性向上はもちろん、分析データとしての価値を持つ。建築プロジェクトのデータ環境に置き換えても同じことであり、データを利用した新たなサービスを創りだそうとする発注者にとっては共通データ環境の価値は高い。

◆建物のライフサイクルで情報を一元化
 建物本体の設計プロセスにおいては意匠、構造、設備のコンカレントな設計や総合調整が始まっており、設計/施工プロセス内でのデータ環境は既に構築されつつある。一方で、ライフサイクルを通じてCDE環境を整備しようとする場合、設計・施工間など異なる契約関係者間のルールを揃える必要があり、発注者の強いリーダーシップが求められる。先程のスケジュール管理ツールの運用でも同じだが、ツールを揃えると反発が起こる。チーム内でのルールを話し合い、共通データ環境から多くの関係者がメリットを享受できるようになるまで議論する。国内でのCDEはどのような形であるべきか、全プロセスの関係者による議論が肝要である。

◆国内のCDE整備に向けた課題
 CDEに合う形でのデータの連携や発注者の価値以外にも、建築情報をセキュアに管理できるかという課題がある。例えば、さまざまな事業者・利害関係者が長期間にわたってアクセスし利用するCDEでは以下のような要件を満たす必要がある。中立性、永続性、完全性、互換性、機密性、アクセス権限管理、経済性、コンプライアンス、トレーサビリティ。また、CDEが一般的に運用されるようになった時に想定されるリスクとしては、機密情報の漏洩、故障・災害、サイバー攻撃、CDE製品や運用事業者の消滅、CDE運用事業者の買収、互換性の喪失等があり、システム設計段階から各リスクへの対応策を盛り込んでおく必要がある。これらの検討に関しては、公共性や社会性を有する性質のものであるため、建設関係企業やITベンダー、通信事業者のほか、建物のオーナーや利用者、政府・自治体、学識経験者等で国内のCDEのあり方を今後議論する必要がある。この話題の整理はbuildingSMART JapanのCDE検討WGによる報告書『デジタル新時代に求められるCDEの実現にむけて』にまとめているので参考にされたい。
 建築データの高度利用と生産性向上のためにCDEのような新しいデジタル技術が今後も求められることが予想される。建物のライフサイクルを通して建築情報から価値を生み出すために、業界関係者が将来に向けて議論できる土壌が求められている。
(日建設計/安井謙介)

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