【本物の自然を室内に】鹿島のウェルネス空間技術「そと部屋」 健康や生産性への効果とは? | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【本物の自然を室内に】鹿島のウェルネス空間技術「そと部屋」 健康や生産性への効果とは?

 鹿島がスマートでウェルネスな空間づくりに向けた技術開発を進めている。10月に発表した「スカイアピアー」「サウンドエアコン」によって本物の自然を室内に取り込む「そと部屋」は、その要素技術の1つだ。自然の緑や光、音を再現する空間が、健康や知的生産性に与える効果を定量的に提示できるよう評価してエビデンス(科学的根拠)を蓄積する考え。

 鹿島が考えるウェルネスな空間は、同社の土木・建築の設計本部などが入居する「KIビル」(東京都港区)に代表される、自然光や緑、水を配置したより自然に近い「五感に訴える空間」(坂田克彦建築環境グループ上席研究員)だ。ただ、既存建物を始めとして、世の中はこうした理想的な環境を作り出せる空間ばかりではない。「まずは建物、構造として開放感のある空間づくりなどウェルネスへの配慮をした上で、どうしても解決できない場合でも設備などの工夫で対応できるようにする」(権藤尚建築環境グループ上席研究員熱・空気チームチーフ)ために生み出したのが「そと部屋」だ。

技術研究所内に設置したそと部屋


 構成技術の1つであるスカイアピアーは、天井から吊した格子状の枠から天井に向けて投射する光で模擬天空を投影する。こだわったのは、あくまでも“自然”の光環境だ。「人は通常、物体に付いた色を色として認識するものの、空の色のように物体がないのに色を感じる“開口色”が、自然の空色の特徴」(坂田上席研究員)。これを再現するために重要な役割を果たすのが、格子状の枠だ。「天井と目の間に焦点が合うようにすることで、開口色と同じような色の感じ方ができる」(同)。色は曇あり・なしや夕焼けのような赤色などの設定が可能で、「プログラム次第で時間に合わせた外の明るさに制御できるよう開発中」(同)とする。

 2018年7~10月に慶応大学の伊香賀俊治教授と産業医科大学の柳原延章名誉教授との共同で、スカイアピアーを設置した「そと部屋」の実証実験を実施。第三者の被験者が80分の作業後に15分間、「自席」「そと部屋」「屋上庭園」の3種類の場所で休憩を取り、再び80分間作業した。その結果、そと部屋で休憩した際の自律神経活動(ストレス・リラックス)は、屋上庭園と同等の効果を確認した。「気候が良い時期なので、屋上庭園でのリラックス効果が高かった。この効果を天候や季節に左右されず、通年で得られる」(同)ということを証明できた。

第1期実証実験におけるリラックス効果の評価結果


 もう1つの構成技術である「サウンドエアコン」は、屋上庭園にマイクを設置し、聞こえてくる「音風景」を収録し、リアルタイムで「そと部屋」に再生する。再生時に「周囲の自動車の走行音や鉄道音、飛行機といった大きな音を抑え、虫などの近くの音が相対的に大きくなるよう制御する」(矢入幹記建築環境グループ上席研究員)という仕組みだ。

 事前に録音した音を室内で流す装置は数多く存在するが、鳥の鳴き声が単調で機械的なため“自然”を感じることは少ない。サウンドエアコンは「自然のありのままの音なので、陳腐化せず、違和感のない音環境をつくりだせる」(同)。意識しなければ聞こえない程度の音量で流すためうるささは感じないにもかかわらず、この音の有無によって人は空間の広がりや時間の移り変わりを無意識に感じる。

 「自然の音を収録できるマイクの設置場所がない」と考えがちだが、矢入上席研究員は「都心でも公園や屋上など必ず良い音を取れる場所は存在する」と自信をみせ、「ストレスに感じる音を抑えて自然のゆらぎのある音を感じられるようにすることで、無機質な部屋よりも開放感のある空間がつくれる」と説明する。

 そと部屋が目指すのは、自然が生み出す“ゆらぎ”のある空間だ。今後、この空間がどの程度、人間のウェルネスに効果があるのか、第2期実証実験で評価する考え。健康建築性能評価制度「WELL」でも、「効果を証明することで新技術の項目で加点を得られる」(坂田上席研究員)という。

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