電子契約の社会的な普及を背景に、建設系産業廃棄物処理委託契約の電子化による建設業の生産性向上が注目されている。イーリバースドットコムが提供する委託契約書の電子化サービス『er-contract(イーアールコントラクト)』は、建設現場が排出する産業廃棄物の排出、運搬、処分を記録する電子マニフェストシステム『e-reverse.com(イーリバースドットコム)』と連携し、より効率的な産廃処理を実現する。排出事業者の大成建設と戸田建設、処理業者の高俊興業の取り組みを紹介し、産業廃棄物処理の新たな潮流を展望する。
大成建設 コンプライアンス向上に効果/電子化現場にインセンティブ
大成建設は、er-contractを導入して3年目を迎えた。現場の声に応える形でスタートして以降、産業廃棄物処理の委託契約における業務効率化やコンプライアンスの向上などに効果を出している。電子契約を推進する佐久間裕子安全本部環境部環境企画室課長に聞いた。
--電子契約導入の経緯を教えてください
「現場から『社内ではさまざまな契約が電子化されているのに廃棄物処理だけ電子化しないのはなぜか』という素朴な声が寄せられたのがきっかけとなり、産業廃棄物処理の委託契約について2013年から検討をはじめました。既にe-reverse.comを導入し、電子契約に移行する下地はありましたが、当時は『紙の方が安心』という時代の風潮もあり、業界自体も紙面で契約する文化が根強いことから導入を一度見送りました」
「その後、社会全体で電子契約が普及していき、現場の選択肢を増やしたいという思いから、16年に検討を再開しました。その際は『電子スタンプなどを活用した電子契約が本当に法的要件を満たすのか』といった疑問点を中心に法務部とともに一つひとつ課題を確認しました。17年に本格導入し、支店の協力や推進もあり、現在は12支店のうち東京、関西、札幌、東北、横浜、北信越、関東の7支店で実績があります。名古屋支店でも検討しています」
--er-contractの評価する機能や活用術を教えてください
「作業所はたくさんの書類を分厚いファイルに保管しますが、作業所担当者からは『ファイルが1冊でもなくなると助かる』という意見があり、電子委託契約の意義を感じました」
「電子での委託契約書の作成では、必須項目を入力しないと次のステップに進めないため、記入漏れや間違いを防ぐ効果があります。工期延長などで委託内容を変更する際も、インターネット上で操作するため、修正作業や契約書を持ち運ぶ手間を省力化できます。産業廃棄物収集運搬・処分業許可証が適宜更新され“うっかりミス”を防ぐなど、いままで以上に法定事項を順守できる環境が整いました。電子化すると印紙代も不要になり、コスト削減にも貢献します」
「電子委託契約を運用しやすくするため、社内ルールも変更しました。当社では廃棄物処理の指定業者との契約は支店長名で行いますが、電子委託契約の場合は作業所長名で契約できるようにし、インセンティブを与えています」
--電子契約が普及する上でのポイントは
「例えば契約書は5年の保管が義務付けられますが、電子化することでer-contractのクラウドサーバーに10年間、厳重なセキュリティーのもと暗号化され保存できます。書類の保管場所が不要になり紛失するリスクも少なくなるため、小規模事業者ほどメリットが大きいと思います」
「処理単価の入力は処理業者側の操作になるため、排出事業者と処理業者が互いに納得する価格で取り引きしやすい環境になるでしょう」
「電子マニフェストを利用する多くの企業がe-reverse.comを利用しているため、オプションのer-contractは導入しやすいと思います。同じ会社のシステムを導入するほうが混乱しにくく、データ連携のメリットも大きいです。廃棄物処理にかかわる多くの企業に電子委託契約が普及することを期待しています」
戸田建設 「分業化」で業務負担を軽減/加入者増加でメリット拡大
戸田建設東京支店は、所管する現場の産業廃棄物処理委託の電子契約を、専門担当者が一括して行う“分業化”に取り組んでいる。全社の産廃処理業務委託の電子化を進める高橋昌宏本社建築環境・品質管理部環境管理課課長代理、東京支店の坂田俊文東京支店建築環境・品質管理部環境管理課課長代理、電子契約の実務を担当する東京支店建築環境・品質管理部環境管理課の才津彩奈さんに分業化のメリットを聞いた。
--どのような経緯で導入したのでしょうか
高橋「当社は2012年に産廃処理委託契約電子化の検討を始めました。電子マニフェストシステムにe-reverse.comを導入したこともあり、同じベンダーのer-contractを採用しました」
「14年の九州支店を皮切りに導入が始まり、東京支店では16年12月に導入しました。17年にISO14001の環境目標に電子契約の導入率を取り入れ、目標値を設定することで、18年4月には全支店で導入が完了しました」
--東京支店ではどのように進めていますか
坂田「新築工事では産廃処理の委託契約を結ぶのは各現場1回程度であり、現場スタッフが契約業務に携わる機会は限られます。当支店では、電子契約については各現場の契約業務を支店担当者が一括で行い、短時間で効率的に処理しています」
「地方支店では、支店と現場が100㌔離れている場合も多いです。移動時間を省略できる電子契約のメリットは大きいでしょう。当支店の現場は距離が離れている場合は多くありませんが、契約書を運ぶのに1時間近くも費やすのは非効率であるため、処理業者に電子契約の導入を呼び掛けています」
「処理業者と同じ画面を見ながら契約内容を確認できるなど電子化により作業の負担は確実に減ったと感じます」
--処理業者にはどのように働き掛けていますか
坂田「解体工事では、運搬業者、処理業者が多岐にわたるため、そこにどう広げるかが課題でした。そのため現場の解体計画検討会に参画し、電子契約する処理業者を優先的に採用することを現場担当者に伝えています。また、電子マニフェストと電子契約の導入状況に応じた説明資料を用意し、未導入の処理業者に手渡し、導入を呼び掛けることもしています」
高橋「電子契約の加入者を広げるため当社を含めたゼネコン6社の連名で処理業者に電子契約の導入をお願いする文書を16年とことし7月に送付しています。契約の電子化はゼネコン個社ではなく業界全体の課題だからです」
「全社の廃棄物処理関連業務の電子化率は、マニフェストが18年時点で95%、契約は33%の状況です。東京支店ではマニフェストの電子化は100%を達成しています。契約は64%が電子化され、紙での契約は確実に減っています。電子契約は業務の効率化、コンプライアンス向上など確実にメリットを享受できるため、いろいろな企業を巻き込み普及を図りたいと思います」
高俊興業 事務作業とコスト軽減を実現/契約書の作成、修正が効率化
産業廃棄物処理委託を電子化することで、処理業者側のメリットも大きくなる。er-contractを先駆的に導入し、コストや時間短縮に成果を上げている高俊興業の秋山由光営業本部長と森田珠真子営業部副グループ長に取り組みを聞いた。
高俊興業は、大手・中堅の排出事業者が導入しはじめた2014年に電子契約を開始した。当初は排出事業者に歩調を合わせて導入し、利活用を進めた。具体的には、電子化により排出事業者と処理業者がウェブ上で同じ画面を閲覧するなど情報共有が実現する。そうすることで、「排出事業者が主体的に契約事務の効率化に取り組む流れができています。多くの人の目にふれることで間違いが減るため、コンプライアンスを重視する企業ほど情報共有を大事にしていると思います」と秋山本部長は説明する。