これまで2回にわたり、日系企業が国際プロジェクトで直面している事象や問題についてお話をしました。第3回は、外国人から見た日系建設会社の強みと課題についてです。
英国弁護士(バリスタ)の資格を持つ弊社コンサルタントのレベッカ・レッドヘッドは、20年以上にわたり、建設プロジェクトに関する助言を行ってきました。現在、横浜を拠点としながら、国際建設プロジェクトでさまざまな問題に直面している日系建設会社を支援しています。以下、レベッカの見解を紹介します。
◆日本の協力関係を欧米も吸収
世界中のプロジェクトには、共通の目標があります。それは「工期内に完工すること」「予算内におさめること」「顧客要求を満たすこと」です。世界共通の目標と言いましたが、達成するためのアプローチは、日本と欧米では少し異なっています。
日本のアプローチの特徴は、「強い協力関係」です。日本の建設会社、専門会社、サプライヤー間の協力関係、JV構成会社間の協力関係は、国際的に高く評価されています。長期的なビジネス関係に裏打ちされた信頼により、プロジェクトの利益のためにお互い協力する、その信頼関係があるために、多くの費用と労力がかかる契約紛争や仲裁が大変少ないなどが評価の理由です。私が日系建設会社の交渉に初めて参加した時、欧米企業に比べて、議論がとても穏やかで協力的に進むことに驚きと好印象を覚えました。この日本企業の「強い協力関係」は、アライアンスやパートナリングといった形態で欧米ビジネスにも多く見られるようになってきていますし、建設会社と政府あるいは民間発注者とのコラボレーティブワーキング(協業)も盛んになっています。New Engineering Contract(英国発祥の建設標準約款)などの契約書にも、プロジェクト関係者が誠意を持って協力し、問題を早く効率的に解決するためのフレームワークが盛り込まれるようになってきています。
一方、日本型アプローチが欧米顧客や欧米の建設専門家の期待に沿わない場合があります。欧米プロジェクトにおける契約書には、日本国内のプロジェクトのものに比べて、詳細なルールと手続き手順が規定されています。特に、変更請求や紛争解決の手続きには、契約相手への通知義務や請求内容の詳細提出に関する厳格な期限などが設定されています。これは、欧米建設会社の借入金利が高くキャッシュフローがプロジェクトの採算を左右するほど重要であることから、問題を早く解決してキャッシュフローを良くするための対策の一つとして導入されているものです。
◆欧米・日本型を合わせウィンウィンに
国際プロジェクトの契約書と国内プロジェクトの契約書が違うため、国際プロジェクトを遂行する時はアプローチを変える必要があります。協力関係を重視する日系建設会社は、顧客を失望させたり、怒らせたりしないように、契約書に規定されているにもかかわらず、契約に基づいた変更請求を提出することに消極的です。この背景には、欧米企業ほどキャッシュフローが問題にならないため、プロジェクト終了までに全ての問題を解決すればよいと考えている点があると思っています。日本の建設技術者は、顧客を満足させるための創意工夫には非常に熱心ですが、技術者の契約管理への関心や理解が技術に対する献身に追いついていない場合、追加の時間や費用を回収できないことに後から気付くという悲劇が起こります。あるいは、アプローチの違いが関係者間の摩擦を引き起こすことがあります。
欧米顧客や建設専門家から見ると、日系建設会社は、プロジェクト遂行中は問題を避けて解決を先送りする一方、プロジェクトの最後になってから無理やり工期延長や追加費用の請求をしてくる印象を受けてしまいます。他方で、日系建設会社は、顧客のためにプロジェクト遂行に集中していて、契約手続きに従わなかっただけで罰せられるのは不当だと感じてしまいます。
このような誤解を防ぎ、契約紛争を回避・解決するために、日系建設会社は、欧米の建設契約を理解し、プロジェクトチームを鍛え、そして、私たちのような日本のビジネス慣習を理解した欧米の専門家を起用するといった対策を講じています。このような姿勢の根底には、日本の『カイゼン』の考え方があると感じています。
世界の建設プロジェクトは、目標を達成するというプレッシャーと予測できない不確実性に直面しています。欧米型アプローチと日本型アプローチを掛け合わせることで、全てのプロジェクト関係者にとってのウィンウィンの解決策をもたらせるはずです。
次回は、弊社の外国人コンサルタントから見た、日本型プロジェクトのスケジュール管理についてお話しします。
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