【連載・海外プロジェクト最前線5】日系建設会社の課題と実例/システックインターナショナル シニアマネジングコンサルタント 大野紳吾 | 建設通信新聞Digital

5月17日 金曜日

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【連載・海外プロジェクト最前線5】日系建設会社の課題と実例/システックインターナショナル シニアマネジングコンサルタント 大野紳吾


 前回は2回にわたり、弊社外国人コンサルタントから見た日系建設会社の強みと課題についてお話をしました。特に、課題として取り上げた『契約条項の順守』と『工程管理の改善』は、工程遅延や利益率悪化が発生するプロジェクトに共通する問題だと思います。今回は、これらの問題に関連した事例を紹介します。

 東南アジアでの発電所建設プロジェクトで、発注者は現地の国営会社です。プロジェクトは2工区に分かれて発注され、土木建築工事を日系建設会社が、機械設備工事を非日系の製造メーカーが受注しました。このプロジェクトでは、受注時から数々の問題に直面してきました。

システックインターナショナルの大野紳吾シニアマネジングコンサルタント


 (1)発注者は請負者に対して、建設用地とアクセス道路を提供することがプロジェクトを開始するための契約条件となっていました。しかし、発注者の土地買収が遅れたため、建設用地の一部にアクセスできない状況となりました。一日でも早く工事を開始したい日系建設会社は、アクセスできない建設用地に別の方向から新たな仮設道路を整備することを発注者に提案しました。発注者は、新たなアクセス道路の整備にかかる追加費用を発注者に請求しないことを条件に提案を認めると言われ、日系建設会社はその条件に合意しました。もしも新たなアクセス道路の整備を実施していなかったならば、プロジェクトの開始がさらに遅れ、待っている期間に発生した日系建設会社の経費は回収できない可能性が高かったことから、このような判断となりました。

 (2)別途工事の機械設備工事も土木建築工事と同時期に開始する計画でしたが、5カ月遅れて契約締結となりました。機械設備工事を担当する製造メーカーが決まるまで、タービンやボイラーなどの大型機器の仕様や重量が分からなかったため、土木工事の図面が確定せず、工事開始が遅れました。ただし、この5カ月間、日系建設会社は新たなアクセス道路の整備工事などを実施していたため、プロジェクトが遅れていたという認識はありませんでした。

 (3)建設工事を開始し順調に進捗(しんちょく)していましたが、雨期になって隣接する河川で洪水が発生し建設現場が水没。契約上、遅延事象が発生したら28日以内に遅延通知を発注者に発行する義務があったのですが、日系建設会社は現場復旧に時間はかからないと予想し、遅延通知を出していませんでした。しかし、実際には復旧に3カ月ほどかかり、その間、工事が中断しました。契約義務である28日以内の遅延通知が提出されていなかったことから、洪水の影響による工期延長は認められませんでした。

 (4)その後、近隣住民による反対運動により送電線工事が8カ月遅れました。日系建設会社はこの遅れによる工期延長を申請したのですが、同時期に発電所本体工事に請負者帰責の遅れが発生しており、送電線工事がクリティカルパスでなかったことから、工期延長は認めてもらえませんでした(解説・契約条件によりますが、原則、請負者帰責ではない事象でクリティカルパスが遅れた時に工期延長が認められます)。

 (5)プロジェクトが終盤に差しかかったころ、半年後の首長選挙までに完工しなければ遅延に伴う損害金(遅延リキダメ)を課すと発注者に突然言われ、日系建設会社は作業員の増員と24時間作業の突貫工事を開始しました。

 (6)プロジェクトは契約工期から12カ月遅れて完工しました。発注者が遅延リキダメを課してきたので、日系建設会社はクレーム図書を作成し、遅延の原因が自分たちの責任で発生したわけではないのでリキダメを免除してほしいこと、また突貫工事を含めた請負者の追加費用を補償してほしいことを説明しました。しかし発注者には、既に発電所は問題なく操業しており、急いで請負者との問題を解決しようという動機はなく、交渉にも応じてくれません。日系建設会社は、仲裁による紛争解決に進むかどうかを検討しましたが、最終的に追加費用の支払いを取り下げ、遅延リキダメの一部を支払って精算としました。

 ご紹介した事例は少し極端かもしれませんが、しかしあまり聞かない話でもありません。このような場合、工程管理をしっかりと行い、定期的に「クリティカルパスを鑑みて、どれだけ進んでいるのか、遅れているのか」と「なぜ遅れているのか」が把握できていれば、28日以内の遅延通知もそんなに難しいことではなく、工期延長権利を喪失することはなかったでしょう。また、発注者から工程を促進しなければ遅延リキダメを課すと言われても、遅延の理由が把握できていて遅延通知も出していれば、少なくとも交渉に持ち込んで追加費用を回収することができたと思います。

 次回は、同じような問題に直面しながらもうまく対応することができた事例を紹介します。

※全5回の予定で連載を始めましたが、好評のため連載を延長します。

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