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【連載・海外プロジェクト最前線4】プロジェクトコントロール導入を/システックインターナショナル ケリー・ワドマン】

 3回にわたって、日系企業が国際プロジェクトで直面している事象や問題についてお話をしています。第4回は、外国人から見た日系企業の工程管理についてです。

 ケリー・ワドマンは長年にわたって日系企業の国際プロジェクトを支援してきた弊社日本チームのシニアメンバーの1人です。以下、ケリーの見解をご紹介します。

 私は英国出身のプロジェクトコントロールの専門家で、30年以上、建設業界に関わってきました。そのうちの20年間、日系建設会社の国際プロジェクトで働いた経験から、いまでは日本企業の文化や商習慣をよく理解できるようになりました。現在は、日系企業が関わっている難易度の高いプロジェクトに対して、工期延長や追加費用を獲得するための戦略助言や遅延分析などをしています。

システックインターナショナル ケリー・ワドマン


 『プロジェクトコントロール』とは、一般的に、工程管理、調達管理、商務管理といったプロジェクトの業務プロセスを統合的に遂行する本社やプロジェクトの機能や部門を意味します。プロジェクトコントロールの業務範囲やプロセスは多少の地域性がありますが、基本的には世界共通です。一方、日系企業における業務プロセスや組織は、統合的に遂行管理するプロジェクトコントロールの考え方と大きく異なっています。日系企業では、それぞれの部署がそれぞれの業務プロセスを別々に実施するのが一般的だと思います。

◆組織横断的工程管理が重要

 プロジェクトコントロールの業務プロセスのうち、工程管理に注目すると、日系企業では欧米企業に比べてあまり重要視されていない、契約上の要求を満たすために工程スケジュールを作成していることがあります。また、日系企業では、工程管理が個々の部署に委ねられていて、組織横断的な工程管理を実施するための人的資源やシステム構築、そのための予算が十分に割り当てられていない印象があります。組織横断的な工程管理が実行されていない場合、プロジェクトを左右するような重大な問題を認識するのに時間が掛かり、対応が遅れる原因となってしまいます。このように、工程管理がプロジェクト管理ツールとして十分に活用されていないのは非常にもったいないと思います。

 プロジェクトの状況をリアルタイムで理解するには、設計、調達、商務などの各部門で発生している問題をプロジェクトコントロールに伝達することが最も重要です。各部門から情報を受け取ったプロジェクトコントロールは、情報を統合しプロジェクト工程として関係者に発信します。プロジェクトマネジャーは、プロジェクト工程が示すクリティカルパスを基に、工程や予算などの問題に対して的確な判断ができます。

 日本の国内プロジェクトでは、下請けとサプライヤーを含めたプロジェクト関係者の信頼関係からそれぞれが期間内に自分たちの責任範囲の仕事を終えることで難しいプロジェクトであっても工期内に終わらせるという優れた仕組みがあります。しかし、国際プロジェクトでは、予期しない問題が数多く発生し、また国内プロジェクトのような信頼関係があるとも限らず、プロジェクトを工期内かつ予算内に完了することは非常に困難です。

 日系企業で工程管理が欧米企業ほど活用されていないもう一つの理由として、顧客満足度を優先し最善を尽くして最高の完成品を提供しようとする、日系企業の慣習があると思います。この慣習自体は非常に素晴らしいですが、一方、発注者に悪いニュースを知らせないという弊害を引き起こしています。発注者との信頼関係を損なうことを恐れて、「ホンネ」ではなく「タテマエ」の進捗(しんちょく)報告を行い、問題があっても報告しないという状況が発生します。その結果、工程スケジュールがプロジェクト管理ツールの役割を果たさないだけでなく、万が一、契約紛争が発生した場合、それらの工程スケジュールは証拠資料として使うことができなくなります。悪いニュースは、時間の経過とともに良くなることは決してないので、問題が発生したときに透明性を持って迅速に対処する方が良い結果になると考えています。

 プロジェクトが始まる時、私たちはこのプロジェクトはうまくいくと楽観的に考えがちですが、プロジェクトの成功には最悪の事態を想定して対策を計画すること、組織横断的に工程管理を行い問題に迅速に対処していくことが重要です。皆さんの次のプロジェクトに、プロジェクトコントロールの考え方と仕組みを取り入れてはいかがでしょうか。

 次回は、国際プロジェクトのトレンドについてお話しします。

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