【連載・海外プロジェクト最前線2】コロナ禍とその後/システックインターナショナル・大野紳吾 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【連載・海外プロジェクト最前線2】コロナ禍とその後/システックインターナショナル・大野紳吾


 前回は、コロナ禍の影響でどのように遅延が発生したかについてお話ししました。今回は、発生した遅延や追加費用に対して、日系建設会社がどのような対応をしたかをお話しします。
 
◆遅延挽回できない事例も
 プロジェクトに遅延が発生すると、増員や作業時間を延長して何とか契約工期内に間に合わせ、完工後に発生した追加費用の請求と交渉を行うのが、日系建設会社で良く見受けられるアプローチだと思います。
 一方、コロナ禍の期間中、遅延を挽回する方法が取れなかったプロジェクトが多く見られました。原因としては、(1)増員するとソーシャルディスタンスが確保できなくなるので、従来のように増員することが簡単ではなかった(2)コロナ禍発生後、都市部を避けて故郷などに一時退避した作業員も多く、人が集まらなかった(3)国際調達した資機材が遅れ、労務を増員したところであまり効果がなかった--などが挙げられます。その結果、工程遅延に伴うプロジェクト経費が増えてしまいました。
 海外プロジェクトの建設契約では、コロナ禍などの不可抗力が発生した場合、工期延長は認めるが追加費用は認めないという条件が一般的です。
 これは、不可抗力を引き起こした原因は請負者にも発注者にもないことから、請負者に追加費用が発生したとしても発注者に支払い義務はないという考え方に基づいています。契約条件や準拠法によって違いはありますが、台風や地震などの自然災害、テロや革命などの戦争危険、コロナ禍などの伝染病などが不可抗力事象として考えられると思います。
 ただ、自然災害リスクは工事保険でカバーされる可能性が高く、また戦争危険はプロジェクトが継続不可能であれば契約解除をして費用精算をするという救済処置が契約書で規定されていることがよくあります。
 今回のコロナ禍では、自然災害のように物理的損害がないので工事保険が適応できませんし、またコロナ禍があってもプロジェクトを継続できたので契約解除をするということにもなりません。

システックインターナショナルの大野紳吾シニアマネジングコンサルタント


 
◆ロックダウンの対応
 法律変更条項が含まれる契約書であれば、現地政府のロックダウンを法律変更と見なして工期延長と追加費用を認められる可能性が高いのです。
 ところが、発展途上国では失業率の上昇を危惧した現地政府がロックダウン政策を取らない、あるいは夜間の外出禁止令など緩いロックダウンの施行に限定されていたため、法律変更を根拠に工期延長と追加費用の請求をすることが難しいケースが相当数ありました。
 契約条件はともあれ、コロナ禍による工期延長と遅延損害金(リキダメ)の支払い免除を認めてくれた発注者は非常に多かったと思います。
 ただし、追加費用の支払いは厳しく、ワクチン接種や現場での感染対策、渡航後の隔離期間のホテルなどの一般的な感染対策費用は認めてもらえても、遅延に伴うプロジェクト経費やその他の追加費用は認めてもらえなかったというのが実態だと思います。
 
◆リモート費用の取り扱い
 例えば、専門技術者が現地に渡航できず試運転が遅れたプロジェクトでは、対応策としてリモート試運転を実施しました。現地スタッフが現場状況をカメラで撮り、日本国内にいる技術者が映像を確認しながら現地スタッフに指示を出して試運転を実施したのですが、効率が非常に悪く試運転完了までに計画の3倍以上の時間がかかってしまいました。建設会社はリモート試運転に伴う追加費用を請求しましたが、契約上、不可抗力に伴う追加費用の支払い義務はないとして発注者に却下されてしまいました。
 建設会社は、リモート試運転をしなければプロジェクトがさらに遅れたことは明らかであり、発注者はその恩恵を享受しているのであるから追加費用の正当性を主張しましたが、リモート試運転実施に関する事前合意がなかったため追加費用を獲得することはできませんでした。
 
 次週は、弊社の外国人コンサルタントから見た、日系建設会社の強みと課題について、お話しします。

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