【連載・海外プロジェクト最前線1】コロナ禍で何が起きたか/システックインターナショナル・大野紳吾 | 建設通信新聞Digital

5月14日 火曜日

公式ブログ

【連載・海外プロジェクト最前線1】コロナ禍で何が起きたか/システックインターナショナル・大野紳吾


 システックインターナショナルは、建設業界に特化した英国のコンサルティング会社で、契約管理、スケジュール管理、紛争解決などの専門サービスを提供しています。私が統括しているチームは、主に日系建設会社の海外建設プロジェクトの変更管理、クレーム管理、追加費用交渉、遅延分析など、リスクの低減と利益の最大化に関する支援を実施しています。今日から5週にわたり、日系企業が海外建設プロジェクトで直面している事象や問題についてお話をします。第1回は、コロナ禍により海外プロジェクトが受けた影響についてです。

 コロナ禍の影響はプロジェクトにより異なるので一概に述べることは難しく、まったく影響がなかったプロジェクトもあれば、1年以上の遅延が発生したプロジェクトもありました。まったく影響のなかったプロジェクトでは、現地政府が緩いロックダウン政策(夜間外出禁止令や限定的な移動制限など)しかとらなかったために工事中断期間がなかった、プロジェクトが遠隔地にあり都市部で感染者が増加しても現場では感染者がまったくいなかったといった個別の状況がありました。

システックインターナショナルの大野紳吾シニアマネジングコンサルタント


 一方、コロナ禍の影響で大きく遅れたプロジェクトは、現地政府が厳格なロックダウンを実施し工事中断を強いられた、あるいは工事現場で感染者が発生し中断せざるを得なかったといった直接的な原因に加えて、『間接的な原因』によって遅延が拡大しました。この『間接的な原因』は、次の三つに分類できます。

◆渡航制限に伴う影響

 2020年3月にWHOが新型コロナウイルス感染症をパンデミック(世界的大流行)と表明し、その後、感染者の多い国に対して日本政府が渡航中止や退避勧告を発表しました。日本政府の指導に従う形で、日本人のプロジェクト関係者は一時帰国をしましたが、残った現地スタッフによって工事が継続されました。この日本人マネジメントが現地に不在の状況でのプロジェクト遂行は、短いところで約3カ月、長いところで半年以上続きました。しかし、あるプロジェクトでは、現地スタッフだけでは人数的にも経験的にも現場管理が行き届かず、品質上の不具合が発生してしまい、工事の再施工のために3カ月以上の遅延が発生してしまいました。

 また、日本政府の渡航中止や退避勧告が解除された後も、滞在ビザが取れない、あるいは航空会社が国際線フライトの運航を中止したことで物理的に渡航できないという状況がありました。このため、海外工場での製品検査に立ち会うことができない、サブコンが現地に渡航できない、試運転調整の専門技術者が渡航できないといった問題が発生し、1年以上の遅れが発生した事例もありました。

◆ソーシャルディスタンス(離隔距離)確保の影響

 コロナ禍の感染拡大防止のために、生活の中で離隔距離を取ることが新たな世界の常識となり、その一環としてリモートワークが導入されました。あるプロジェクトでは、リモートワークに移行した20年春ごろ、遂行中だった設計業務が中断してしまいました。

 当時、自社やサブコンの設計業務を日本以外で実施していましたが、設計担当者の自宅にパソコンがない、インターネットがない、といったリモートワークの環境が整っていませんでした。この環境を整備するのに1、2カ月の間、設計業務の進捗(しんちょく)はほぼありませんでした。

 離隔距離の確保は工事にも影響しました。あるプロジェクトでは現場宿舎内の離隔距離を確保するためにベッド数を半分に減らさなくてはなりませんでした。現場宿舎以外の宿舎が近くになく、現場作業員数が半分に減ってしまい、遅延が発生しました。

◆国際調達に伴う影響

 現在の建設プロジェクトは国際調達への依存度が高まってきており、国際調達が滞るとプロジェクトに大きく影響します。現地国ではコロナ禍の影響が小さくても、海外の製造工場が一時閉鎖したことで納期が遅れた事例が散見されました。加えて、コロナ禍に伴いコンテナ不足が発生し海上輸送が遅れ、さらに、通関士の出社率低下に伴い通関業務が遅れ、国際調達品の納期が数カ月遅れるという状況が発生しました。

 次週は、これらの『間接的な原因』に対して、日系建設会社がどのような対応をしたか、また発注者の反応はどのようなものであったかについてお話したいと思います。

連載の他記事はこちらから
 

【公式ブログ】ほかの記事はこちらから

建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら