【目指すは"完全自動掘進"】奥村組のシールド方向予測システム AI用い20%超の精度向上 | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【目指すは“完全自動掘進”】奥村組のシールド方向予測システム AI用い20%超の精度向上

 奥村組のシールド方向予測システムの試行業務は、国土交通省が2019年4月に公募した「2019年度建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト(以下PRISM)」に、「AIを活用した高度なシールド工事の線形管理手法」を提案し、対象技術II(品質管理の高度化)に採択され、関東地方整備局と契約して進めたものである。試行では、AI(人工知能)など最新技術を活用し、シールド工事の線形管理の高度化と方向制御を目指し、従来の掘進と比べて20%を上回る線形精度の向上を実現した。

全体システム


 試行対象工事である千代田幹線工事は、東京都下水道局が発注した計画延長8.7㎞の泥水式シールド工事で、奥村組・大豊建設JVが施工している。超長距離かつ地下50mを掘進するため難易度の高い工事である。

◆AIで作業のばらつき克服
 シールドトンネルの品質確保には、高度な線形管理が外せない。例えばトンネルの蛇行が大きいと、トンネル機能や耐震性の低下などの原因となる。そのため、掘進管理者が測量結果や掘進データからシールドマシンの位置や姿勢を計算し、オペレーターにシールドマシンの姿勢の修正を都度指示して、線形精度を確保している。
 課題は、シールドマシンの操作がシールドジャッキや中折れジャッキなどさまざまな装置の動かし方の組み合わせで何千パターンにも及ぶため、シールドマシンの方向制御はオペレーターの経験による“暗黙知”に頼らざるを得ないという状況だ。
 そのため奥村組は、17年にシールド分野における方向予測AIの研究開発に着手した。木下茂樹土木技術部技術2課長は「掘進データを一元管理する掘進管理システムをベースに、多様なデータをクラウドに蓄積する。この蓄積されたデータをAIが解析することにより、熟練オペレーターと同等以上の方向制御を目指した」という。
 19年7月にPRISMに採択されてから、AIのデータ処理手法やシステム評価を担う国立大学法人大阪大学大学院工学研究科、シールドの知見を生かした助言・指導を担う一般社団法人日本建設機械施工協会施工技術総合研究所、プロジェクトマネジメントを担う株式会社コンポート、方向予測AIモデルの機能調整を担う伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、掘進管理システムを担う株式会社演算工房が参画し、方向予測AIのブラッシュアップに取り組んだ。

◆掘進管理者の作業も自動化
 方向予測AIは、千代田幹線工事の膨大な掘進データから、事前に当該工事に特有の施工条件やマシン固有のくせを含む187点のデータを5cmごとに学習させ、直近5リングの掘進データを入力することで、6リング先までの到達点を予測する。
 また、操作シミュレーションも行うことができる。方向予測AIに操作値を入力すると、操作を反映した方向予測を行うため、操作値を変化させることで、最適な操作方法を探索できる。

方向予測結果

 試行では、従来の経験と計算に基づく掘進と、操作シミュレーションを活用した場合を比較した。入社2年目の社員が掘進管理者になり、操作シミュレーションを使用して指示したところ、線形精度が20%以上向上したという。
 木下氏は「熟練オペレーターは経験したノウハウ以外の操作はあまり行わない傾向にある。ノウハウがない操作でもシミュレーションどおりの掘進で精度向上が確認できた。掘進管理者の作業も自動化され、時間が半減した」と語る。
 今回の試行の結果、方向予測を高度化し、非熟練者でも高精度な線形管理、方向制御が可能となることを確認できた。今後について木下氏は「目指す未来はAIを使った“完全自動掘進”にある。オペレーターがいなくても指示どおりにシールドマシンが掘進するところまで自動化したい」と意気込む。

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