1956年の創業以来、関西の公共インフラ整備に特化して事業展開してきた久本組(大阪市)。近年は耐震対策や東北での震災復興事業にも力を入れている。2011年の東日本大震災の際、多くの社員がボランティア活動に参加したのがきっかけだ。「あの時は誰に要請されたわけでもなく、惨状を目の当たりにして自分たちにできることはないかと被災地に向かった。現地のアポイントも取らず岩手県山田町に社員を派遣し、ボランティア活動を開始した」と川口直昭社長は当時を振り返る。
活動内容は、がれきの処理から津波被害調査など。保育園での調理補助も行った。『何か困っていることはないか、自分たちにできることはないか』と、1軒ずつ尋ねて回った。その姿勢が『御用聞きやりまっせ隊』としてマスコミに取り上げられた。「次第に地域に受け入れられ、頼りにしていただけるようになった。それが後に仙台営業所を構え、東北支店に昇格するに至った。現在も復興事業や津波対策事業に携わっている」と話す。
いまや自然災害が毎年のように発生し、東北のみならず日本各地で復旧が必要となっている。加えて、高度経済成長期に大量につくられた日本各地にある重要なインフラの耐用年数も迫っており、道路橋、水道管などのインフラ老朽化対策、維持管理は喫緊の課題だ。「世界的な気候変動により、今後もさまざまな災害が予想される。そして近い将来必ず起こるとされている南海トラフなどの巨大地震に備え、国土強靱化政策が国などで推進されている。われわれは土木一筋で60年余りやってきた。東北でのボランティア活動は、インフラ整備を通じて『人々の生活に寄り添い、人々の命を守る』という自分たちのミッション、役割を改めて認識するきっかけになった」と話す。
IoT(モノのインターネット)、ロボット、AI(人工知能)などの技術革新は目覚ましく、建設業界でもi-Constructionの現場導入などにより生産性の向上を図っていかなければならない時代だ。また、人口減少により担い手確保はより一層困難になることが予想されている。「働き方改革はもちろん大切な取り組みで、職場環境の改善は入職希望の増加に必須だ。しかし、それ以上に、建設業がやりがいのある仕事であること、どれだけ社会に貢献し夢のある仕事であるかを伝えることが重要ではないか」と訴える。
「学生の中に建設業の仕事の本当の意味を知る子はほとんどいない。しかし、会社説明会などでしっかり説明すれば興味を持ってもらえる。業界に必要なのは建設業のアピール。大手ゼネコンのようにテレビCMを流すのもイメージアップにつながる。いま公開されている『某建設会社のファンタジー営業部を題材にした映画』は多くの人に見ていただきたい映画だ」と熱く語る。
「あくまで地盤は大阪であるが、これからも社会に貢献できる場がある限り、全国各地で尽力していきたい」と今後の方向性を見据える。「会社の成長に欠かせないのが人材だ。一人ひとりのスキルアップが必要であり、会社は個人の強みを引き出すことができるようバックアップしていかなければならない」。社員には「この会社は何のために存在しているのか、どんな社会的意義があるのか、何のためにこれからの自分の時間を使うのか」を常に意識してもらい、さらに「いまの時代は会社が何かしてくれるのを待つのではなく、自分が会社のために何ができるかを考える、一人ひとりがエグゼクティブマネジャーになったつもりで仕事に取り組んでほしい」と語りかける。
「数年前に東京に支店を構えたが、業界団体の会合に参加しても『土木100%』であることをめずらしく思ってもらえる。だからこそ、社会が抱える数多の課題に対し、自分たちに何ができるか、常に考えていなければならない。災害は避けることはできない。いつどこで発生するかもわからない。『発生しても何事もなかったように人々が日常生活を送ることができる』。そんな社会の実現を目指し、自分たちにできることを地道に続けて行く」
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