【大阪大学大学院教授 矢吹信喜氏に聞く】標準化進め、真の建設ICT先進国に | 建設通信新聞Digital

5月14日 火曜日

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【大阪大学大学院教授 矢吹信喜氏に聞く】標準化進め、真の建設ICT先進国に

 ビルディングスマート・インターナショナル(bSI)は、BIMのデータモデル国際標準規格・IFCをバージョンアップし、2020年末に「IFC5」を策定する方針だ。新たに土木分野の3次元モデルに対応するもので、順調に進めば21年にISOで国際標準化の検討を開始する。日本を代表してIFC5の策定を支援してきた矢吹信喜大阪大学大学院教授に、IFC5がBIM/CIMに与える影響とともに、国内のIFC検定の動向などを踏まえた将来を展望いただいた。

矢吹教授


――IFC5が策定されますが、実務にはどのような影響を与えるでしょうか

 「IFC5は土木を対象に道路、鉄道、港湾、橋梁の4分野と土木の共通項目(線形、土工、地盤)で扱うデータを国際標準化します。来年にISOに認定される予定のため、それを見越してベンダー各社は対応を進めています。来年には多くのソフトにIFC5が実装されるでしょう」

 「大きく変わることとして、現在は道路や河川構造物の線形や3次元モデルはIFCかLandXML1.2(J-LandXML)で電子納品していますが、これがIFC5に一本化できるようになります。J-LandXMLを使用しているICT施工の設計モデルもゆくゆくはIFC5に移行するでしょう」

 「ユーザーインターフェースも変わります。特に海外のソフトは土木系オブジェクトが定義されていないため、橋梁などはオブジェクトを建築のパーツに読み替えて対応しています。IFC5になれば、土木構造物として橋桁、床版、橋台などにきちんと定義されるため、インターフェースにもコマンドが表示されるようになります。また、部材の数量を効率的に管理できるほか、材料の属性情報も詳しく定義できます。有限要素解析もIFC変換などの後処理が楽になり、BIM/CIMの操作環境が向上します」

 「河川の水理計算にはもっとBIM/CIMを活用するべきでしょう。河川の3次元モデルを作成し、平常時の『定常流』と豪雨時などの『非定常流』の流れを計算すると、洪水時に越流する堤防の位置などが特定できるようになります。ドローンで流域を撮影して3次元化し、河川管理に活用すれば災害対策に生かせます。IFC5の登場は、新しいインフラ管理に移行するチャンスでもあります」

BIMのデータモデル国際標準規格「IFC5」の活用場面

――IFC5の策定とbSJの関係は

 「IFC5は、アジアの中国、韓国、日本、欧州のフランスが作成したモデルの基準がベースになります。英国に本部を構えるbSIが、それらのベースとなるモデルに各国の意見が反映されるよう調整します。米国の全州道路交通運輸行政官協会(AASHTO)もIFCに関心を示しています」

 「bSJはグローバルな動きに取り残されないよう日本の窓口としてIFC5の開発に協力してきました。道路は韓国のモデルが採用されていますが、bSJと日本建設情報総合センター(JACIC)が設立した国際土木委員会がbSIに要望を出しています。日本のニーズとして大きいのはICT施工での活用であり、これまでMC/MGをサポートしてきたJ-LandXMLをIFC5に取り込めるようにします」

 「橋梁分野では、日本とフランスの意向が強く反映されています。私は00年から橋梁のIFCプロダクトの研究をはじめました。偶然にも同時期にフランスも研究を進めており、02年にIFC-BRIDGEを発表しました。それ以降は共同研究を進め、04年に新たなIFC-BRIDGEを発表するなど継続的に取り組んでいます」

 「13年からbSIのInfrastructureRoomのメンバーとして活動し、土木IFCに関わってきました。それがIFC5に結実し、万感の思いです」

――今後の展望を教えてください

 「IFC5になることで製造業など異業種で“ガリバー”のベンダーが建設分野に積極的に進出することが予想されます。製造業は工程管理をよりシビアに検討するため、それを支える技術が転用されるでしょう。参入企業が増えるとより使いやすい製品を開発しなければ市場に残れません。さらに技術が進歩する契機になると考えています」

 「建設業はIT化していない仕事がまだまだ多く、みんながバラバラにソフトを使ったり、データを手入力するのはもうやめなければなりません。標準化されたデータをさまざまなソフトで使い回せるようにならなければ真のICT先進国にはなれません」

 「電子納品もクラウドで行う時代です。そこではいつ誰がどのデータをアップロードし更新したのか、すべての履歴を残す必要があります。履歴を検索できるなど、仕事の透明性を向上させるでしょう。そうなれば、できもしない工期の仕事を受注し、残業を隠してまで無理に働くこともできません。本当の意味で生産性向上しなければならず、それが働き方改革になり、若者に魅力的な産業に発展することになります」