発注者の生産革命 デジタルツインと新現場力(1)JACICクラウドの業務改革 | 建設通信新聞Digital

5月15日 水曜日

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発注者の生産革命 デジタルツインと新現場力(1)JACICクラウドの業務改革

【土木と高い親和性を発揮/受発注者一体で生産性向上】
 サイバー空間に現実世界の情報を収集し、実物の“双子”となる3次元モデルを再現するデジタルツイン。現実に起きていることをリアルタイムにモニタリングし、現状の確認と将来起きることをシミュレーションすることが特徴だ。日本建設情報総合センター(JACIC)は建設現場用デジタルツインのプラットフォームとなる『JACICクラウド』を開発し、6月から本格運用を開始する。発注者の管内を3次元地図とBIM/CIMデータの統合モデルで再現し、現場から生成されるデータのプラットフォームに使うことで、生産性を飛躍的に向上させるツールになるのか注目される。デジタルツインによる発注者の業務改革の行方を追う。

 i-Constructionが5年目を迎え、ICT施工やBIM/CIMの適用件数が拡大し、受注者の生産性向上への意識が着実に高まっている。この動きに呼応するように、建設技術が異業種の先端技術とコラボレーションしながら設計者や施工者の技術革新がかつてない速度で進んでいる。その中で懸念されているのが、発注者の技術力がこの潮流に取り残されることだ。JACICの尾澤卓思理事は「これまで国土交通省は受注者側の生産性向上を中心に施策を展開してきたが、真の生産性向上は受発注者の両輪がそろわなければ難しい。JACICが間に入ることで、発注者側の生産性向上のアクションを支援したい」と意図を語る。

 JACICは2018年度から、担い手不足による発注者の現場力の低下を補完・回復、飛躍的に向上させるため、ICTを積極的に活用した“新現場力”を提唱し、「JACIC“i-Con”チャレンジ戦略」を進めてきた。それらの知見を結集し、JACICクラウドを用いて発注-契約-オンライン電子納品までの業務管理を行う「公共調達基盤」、プロジェクト管理・維持管理・災害対応・成果品の利活用を高度化する「建設プロセス基盤」、官民のインフラデータを統合した3次元サイバーシティーを構築して地震や津波の被害をシミュレーションする「社会情報基盤」の3つのプラットフォームの開発を進めている。これらのプラットフォームで構成されるのがJACICクラウドである。

 このうち発注者の現場改革に貢献するのが、「建設プロセス基盤」のプラットフォームとなる。3次元地図とBIM/CIMモデルを統合する『3次元管内図』、ウェブ会議やソフトのビューワ、ファイル共有機能などで情報共有する『ルーム』、運用基準や手順を示す『規定と手順書』の3つの機能で構成する。フィジカル空間とサイバー空間の3次元モデルを双子の実態としてとらえ、業務オペレーションやマネジメントを行う。

統合モデルの例(ダム)


 この建設基盤プロセスの心臓部となるのが『3次元管内図』であり、インフラのライフサイクルで活用するBIM/CIMモデルを統合し、現場が生成するデータを使いこなすためのプラットフォームとなる。クラウド上に日々の業務で更新されるデータを反映するデジタルツインを構築し、「受発注者一体」となった生産性向上を実現する。

 デジタルツインに着目したのは、18年に開催されたbSI(ビルディングスマート・インターナショナル)サミットだった。尾澤理事は「製造業で先行するデジタルツインの建設分野での取り組みを知り、JACICで研究した結果、土木の世界と親和性が高いことが分かった。災害時には情報の即時性・同時性がオペレーションやマネジメントに役立つ。今後の発注者業務の主流になる技術だ」と期待を込める。

 国土交通省が23年に一般土木C等級以上へのBIM/CIM拡大を図るとともに、25年のBIM/CIMの原則化を打ち出す中、JACICクラウドは発注者がデジタルデータを高度に利活用するための共通データ環境(CDE)として利用されることで、発注者の業務改革の推進力になることを目指している。ひいては災害対応、技術承継など多岐にわたる問題解決のツールとして展開することで、新現場力の実現を後押しする。

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