発注者の生産革命 デジタルツインと新現場力(3)河川工事事務所の先行事例 | 建設通信新聞Digital

5月19日 日曜日

B・C・I 未来図

発注者の生産革命 デジタルツインと新現場力(3)河川工事事務所の先行事例

【流域一体の水系モデル構築/シミュレーション成果を共有】
 日本建設情報総合センター(JACIC)の『3次元管内図』は、複数の国土交通省直轄河川工事事務所が先行して試行導入している。広域の流域を対象にした“3次元水系モデル”を構築し、デジタルツインによる業務改革の効果を探っているところだ。水系を管理する既存の行政システムをベースにデジタルツインを構築し、発注者の業務の高度化を図る。本省や各整備局の引き合いも増え、実装への動きが着実に進んでいる。

 直轄河川は、最上流のダム管理事務所、上流河川工事事務所、下流河川工事事務所など複数の事務所が分割して管理することが多い。各事務所は2500分の1の地図で各インフラ施設を管理し、日々の点検結果などを記録している。この業務を従来の紙ベースから3次元管内図に切り替え、それぞれの管内図を統合すれば、上流から下流まで一気通貫の「3次元水系モデル」が構築される。そうすることで事務所が相互に流域全体の情報を利用して個別の案件に対応でき、業務の合理化につなげることができる。

 災害対応についても水系を広域的に管理する2万5000分の1の3次元水系モデルを構築し、流域の代表事務所のプラットフォームにひも付けることで、氾濫シミュレーションなどの成果を各事務所が共有できる。

統合モデルの システム構成例


 また、工事事務所では管理するインフラの諸元、構造図、施工図などの重要管理情報に加え、点検・診断の履歴や計測・観測などの記録を属性情報として収めることでインフラのカルテとして活用できる。データを体系的・合理的に集約し、デジタルツインのシミュレーション機能を活用することで現実世界の効果的なオペレーションにつながる。

 例えば3次元管内図を導入した直轄ダム現場では、地層や地盤の割れ目まで詳細に反映したBIM/CIMモデルを作成し、デジタルツインの効果を検証している。ダムが漏水すると、従来は地盤の状況や割れ目、堤体の配置などさまざまな条件を勘案し、専門家が漏水した場所を特定するのだが、原因を突き止める検討のプロセスは個人のスキルや経験に属するため、第三者がノウハウを共有するのは難しい。3次元統合モデルを検討作業に活用すれば2次元図面では分かりにくかった専門家の判断根拠などが“見える化”でき、情報共有を飛躍的に向上させる。その結果を現実世界に持ち込み、対策を打つことができる。

 JACICの尾澤卓思理事は「医師が手術の方針を検討するために開くカンファレンスと同じように徹底した情報共有をわれわれ土木技術者が行うことができる。BIM/CIMモデルのそれぞれのパーツに付与された属性情報を利用し統合することで、それぞれの専門家が持つ考えを関係者が共有でき問題解決に役立つ」と説明する。

 また、新型コロナウイルスの影響で遠隔地で情報共有する必要性も高まっている。JACICでは、運用前の試行版のJACICクラウドを3月から一部発注機関に貸し出し、5月末まで利用者を拡大しつつ支援を続けている。発注者もテレワークを実施する中、テレビ会議を活用した情報共有システムが効果を発揮しているという。

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