発注者の生産革命 デジタルツインと新現場力(5)技術継承のプラットフォーム | 建設通信新聞Digital

5月6日 月曜日

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発注者の生産革命 デジタルツインと新現場力(5)技術継承のプラットフォーム

【発注者のリーダーシップ向上/知恵やノウハウの共有基盤に】
 JACICクラウドは、インフラ管理情報の集積に加え、整備局や工事事務所、担当者が蓄積してきた“知恵やノウハウの共有基盤”として活用することも主要な目的の1つだ。情報の持つ価値は現場ごとに異なるため、データの意味や見方を統合モデルに反映し、誰もが理解できることが重要になる。それがベテラン職員の退職などによるノウハウや知恵の消失を防ぐとともに、新たに獲得する知見を蓄積することで「技術継承を助ける」(尾澤卓思JACIC理事)ことが期待できる。現場に合わせて体系化したデータを活用することが、新現場力発展のエンジンとなる。

 3次元管内図には、単に現場の情報を集積するのではなく、その工事事務所の管内特有の情報やデータの持つ意味や見方を付加して“使える情報”にすることが重要になる。「事務所が語り継ぎ、積み重ねてきた知恵が消失しないようにするとともにさらに継ぎ足す」(同)ことが目標であり、誰もが分かる価値の評価基準を統合モデルに組み込むことができるという。

 具体的には、JACICクラウドは「3次元管内図」「ルーム」のほか、ルールやガバナンスを共有するための「規定と手順書」を提案している。3次元管内図を活用したデータやBIM/CIMモデルの検索や更新、利活用の規定を定めるほか、事業や管理の工程表を基にデータを作成するための「データ・モデル工程表(情報プロセスマップ)」も提供する。それらを活用することで、誰もが3次元管内図を用いて事業や管理を適切にマネジメントできるようになる。

 こうした、発注者をきめ細かくサポートするシステムを構築することについて尾澤理事は「現在の現場は多くの課題が山積し、職員は厳しい状況で働いている。それを解決するICTを勉強する時間も十分でないのが実情だ。だからこそ経験豊富な国土交通省のOBが在籍するJACICが行政を支援するシステムを開発し、現場技術者が新現場力を身につけ、自らが進むべき道を切り開くための手助けをしたい」と力を込める。ICTの体験が職員の業務水準を高め、さらに新たな技術を導入すれば次のステップへと業務が更新される。そのサイクルを回し、常に生産性を向上させるのが新現場力の目指すべき姿だ。

現場技術力向上のイメージ


 そのため、JACICでは職員が部署横断する「JACIC“i-Con”チャレンジチーム」を設置し、テーマごとのプロジェクトチームに分かれてJACICクラウドの開発を進めてきた。「クラウドにも行政の仕事に適したスペックがあり、われわれにはそれを用意するノウハウがある。進歩が早いICTに対する発注者側のアップデートを支援していく」と狙いを語る。

 参考になるのが、発注者自らがクラウドを持ち、業務改革を進めているドイツの「BIMコンピテンスセンター」だ。BIMの普及や教育を進めていく機関として現場に寄り添いながら官民両輪で生産性向上を進めている。JACICはこうした機関が果たしている役割の重要性を認識しながら日本にあった活動を進めてきた。

 デジタル社会が到来し、いよいよ本格的なデジタルツインの時代を迎える中、JACICは4月に「ソリューション部門」を創設し、JACICクラウドを核に発注者を支援する体制を整えた。直轄や自治体への提案も強化し、それぞれの領域に合わせてシステムをカスタマイズすることで新現場力の普及を図る。発注者がリーダーシップを発揮し、デジタルツインを活用して業務改革の早期実現を図ることが求められている。

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