【4府省に政策転換の動き】気候変動対策と脱炭素化 求められる政府全体の取り組み強化 | 建設通信新聞Digital

4月24日 水曜日

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【4府省に政策転換の動き】気候変動対策と脱炭素化 求められる政府全体の取り組み強化

 2018年7月の西日本豪雨や19年10月の東日本台風など、激甚な気象災害が近年発生し、地球温暖化に伴う気候変動の影響が顕在化する中、インフラを所管する国土交通省、環境問題を担当する環境省、防災を担う内閣府、エネルギー政策を所管する経済産業省の4府省が、気候変動対策と脱炭素化の本格化へかじを切った。気候変動は目の前の危機であり、その影響を緩和する脱炭素化は世界的な潮流となった。4府省以外も所管分野で取り組みを強化し、政府を挙げて推進することが求められている。

石炭火力発電所に関する国内外一体の政策運営を発表する梶山経産相


 国交省は7月、「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」を取りまとめた。全部局が連携し、国交省の強みである現場力を生かして、「命と暮らしを守る」をスローガンに施策を展開する。

 プロジェクトの柱に据えたのは、企業や住民などを含む流域のあらゆる関係者が治水に参画する流域治水への転換。「氾濫をできるだけ防ぐ」「被害対象を減少させる」「被害の軽減、早期復旧・復興」の3つの対策を総合的・多層的に推進する。

 まずは、流域治水プロジェクトを一級水系で20年度内に取りまとめ、戦後最大の洪水を安全に流すことができるように、ハード・ソフト一体で対策を講じる。続いて、降雨量の増加や潮位の上昇を考慮したものに治水の計画・設計基準を見直し、堤防をかさ上げするなど、気候変動の影響を反映した抜本的な治水対策を進める。

 総力戦で挑む防災・減災プロジェクトを決定した会議で赤羽一嘉国土交通相は、「国交省だけでなく、他省庁、地方自治体、企業、国民一人ひとりの力を結集し、さまざまな分野で防災・減災の視点を定着させ、防災意識を向上させていくことが重要だ」と強調し、防災・減災が主流となった社会の実現へ総力を挙げるよう幹部に指示した。

防災・減災が主流になった社会の実現へ全力を挙げるよう国交省幹部に指示する赤羽国交相


 環境省と内閣府は、小泉進次郎環境相と武田良太防災担当相が6月、気候変動と防災に関する共同メッセージを発表した。気候変動と防災は、あらゆる分野で取り組むべき横断的な課題との認識で一致。今後は、両府省が連携して「気候変動×防災」を政策の主流にする考えを示し、他省庁にも政策への組み込みを働き掛ける姿勢を発信した。最終的には、化石燃料に依存した経済・社会構造の再設計を目指す。

 共同メッセージのポイントは、新たな概念として「適応復興」を打ち出した点だ。適応復興とは、「災害前の元の姿に戻すという原形復旧の発想にとらわれず、自然の性質を生かして災害をいなしてきた古来の知恵にも学びつつ、土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応により、気候変動へ適応」を進める考え方。災害の発生を前提とし、自然が持つ多様な機能を活用して災害リスクを低減させるグリーンインフラや、生態系を活用した防災・減災の取り組みを本格的に進め、「災害をいなし、すぐに興す」社会を形成する必要性を示した。

 共同メッセージを発表した記者会見で、小泉環境相は「インフラを否定しているわけでは全くない」と強調しつつ、原形復旧は限界を迎えていると指摘。適応復興は原形復旧、改良復旧に続く第3の選択肢になりうるとし、この考え方を両府省が連携して広げていくとした。

「気候変動×防災」の共同メッセージを発表する小泉環境相(左)と武田防災担当相


 経産省は7月、脱炭素化に向けて政策転換を決断した。石炭火力発電所のうち、CO2の排出量が多い非効率な発電所を30年までに段階的に休廃止する。また、石炭火力発電所の輸出を政府が公的支援する要件を厳格化するとともに、CO2排出削減につながるあらゆる選択肢の提案や脱炭素化に向けた政策策定の支援を他国に実施する「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」に取り組む。

 国内外一体の新たな政策運営を発表した記者会見で梶山弘志経産相は、「わが国として世界の脱炭素化にどう貢献していくかという大きな課題に正面から取り組む」と力を込めた。

 4府省が、新たな政策や考え方をどのように予算へ反映するのかが次の焦点となる。9月末に公表する21年度予算の概算要求に注目したい。

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