【自然の素材の力が建築を変える】所沢「角川武蔵野ミュージアム」一部スペースをオープン | 建設通信新聞Digital

5月1日 水曜日

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【自然の素材の力が建築を変える】所沢「角川武蔵野ミュージアム」一部スペースをオープン

 「地殻が足元の地面を割って出てきたような石の建築が表現できた」。埼玉県所沢市の「角川武蔵野ミュージアム」をデザイン監修した建築家の隈研吾氏はそう話す。このミュージアムは、出版社のKADOKAWAと所沢市の共同プロジェクト「ところざわサクラタウン」のランドマークタワーとなる美術、博物、図書が混在した施設だ。外観は建築というより多面体の巨大な石のかたまり。大地が隆起したように空に向かって広がるデザインに圧倒される。高さは約40m。隈氏はこれまで設計してきた国内外のどの石の建築も超越したと語る。8月1日、隈研吾展などで一部スペースをオープンした。ところざわサクラタウンは11月6日にグランドオープンの予定だ。

ミュージアムと隈氏(8月1日のオープニングの後)


 ところざわサクラタウンは、角川文化振興財団運営の角川武蔵野ミュージアムのほか、最新設備を備えた劇場、印刷工場、アニメホテル、神社などで構成する複合施設。周辺には石の建築の鎮守の森のような東所沢公園、桜並木、川などがあり、隈氏は、武蔵野の面影を残す日本人の自然への憧憬を集めたような場所だと指摘する。 

 石の建築の発想についてはこう話す。
 「建設地に最初に来た時、生い茂る樹林が印象的だった。その自然が武蔵野の大地を強く想起させ、僕たちは地球を覆う地殻という巨大な岩の塊の上に住んでいるということを改めて考えた。石は人間にとっては古くからの友達で自然の素材。世界の聖地は、エルサレムの『石の神殿』などのように、石(岩)と関係していると言われる。この所沢・武蔵野に新たな聖地をつくりたいと考え、聖なる岩を復活させようと思った。そして地殻が足元の地面を割って出てきたような石の建築が表現できた」 

ライトアップした夜のミュージアム


 隈研吾建築都市設計事務所パートナーで現場を担当した渡辺傑氏は、角川文化振興財団発行の小冊子『隈研吾/石の建築 角川武蔵野ミュージアム』のなかで、外壁に地底のマグマが固まってできる花崗岩を使っていて、表面加工を「割肌仕上げ」にしたと述べている。一つの石のサイズは、70×50cm程度で、この石の集まった三角形の61面でできている。外壁への設置に際しては「壁に取り付ける前に、床に並べて隣の石の凹凸や色合いがそろい過ぎないように一つずつ確認した」とも言う。

 こうした表面加工と並べ方の工夫で、武蔵野の大地から生まれた建築の力強さをさらにダイナミックなものにしている。

 施工を担当した鹿島の当時の工事事務所所長、佐々木直也氏は、同じ冊子の中で「石を貼る作業には、プラスマイナス1mm以下という精度が求められた」とその難しさを述べている。

 隈氏は「自然の素材の力が建築を変えることに自分自身驚いている。人間の心に直接響くものになったのではないかと思っている」と説明する。

 建物は5階建てで、1階が『隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生 石と木の超建築』展が開かれているグランドギャラリー、マンガ・ラノベ図書館、2階が総合インフォメーション、カフェ、ロックミュージアムショップ、3階がEJアニメミュージアム、4階が荒俣ワンダー秘宝館、エディットタウン、5階が武蔵野ギャラリー、武蔵野回廊、レストランなど。4、5階には360度すべてを約8mの巨大書架に囲まれた空間『本棚劇場』をつくった。

 隈氏はこの本棚劇場について、ミュージアム館長の編集工学者・松岡正剛氏に「本棚を何度かダメ出しをされながら」完成させたと話す。構想段階で松岡氏とミュージアムのアドバイザリーボードの博物学者、荒俣宏氏の考えを聞けたのがとてもありがたかったとも述べている。

本棚劇場で松岡氏(左)と隈氏(8月1日)


 松岡氏は1日のオープン式典で、美術、博物、図書の融合した施設ということで、荒俣氏と相談して、「(対象は)生命から宇宙まで、シアノバクテリアからブラックホールまでだということで一致した。もう一つ一致したのは、真実だけでなく偽物、まがい物、物まねなど、これまでミュージアムにならなかったものも恐れずに扱おうということ。そのためには情報が大切になる。来館者の皆さまには連想、アソシエーションを楽しんでもらおうと思っている。アソシエーションには組み合わせの意味があり、いままでにはない組み合わせを考えていきたい」などとあいさつした。

晴天のもと開催されたテープカット。招待席に座る宮田亮平文化庁長官(右から3人目)を角川歴彦KADOKAWA会長(右から2人目)が見つけ、急きょテープカットに参加 (8月1日)


 ミュージアムのそばには隈氏がデザイン監修した「武蔵野坐令和神社(むさしのにますうるわしきやまとのみやしろ)」(令和神社)がある。隈氏は「神社に降りたアニマ(魂)は赤い鳥居の連続体によってミュージアムに招かれていく。神社とミュージアムは二つで一つのもの」と話す。神社の手水はせせらぎを通ってミュージアム周りの水盤に流れ込む仕組みになっている。

令和神社外観


 道路を挟んで隣接する東所沢公園内の武蔵野樹林パークでは、ミュージアムのオープンと同時に、チームラボのデジタルアートプロジェクト『どんぐりの森の呼応する生命』も開園した。発光体に触れることで光と音がさまざまな表現をする。

チームラボ「どんぐりの森」


〈ところざわサクラタウン〉
▽構造・規模=S・RC・SRC・CFT造地下2階地上5階建て延べ8万7433㎡
▽所在地=埼玉県所沢市東所沢和田3-31
▽デザイン監修=隈研吾建築都市設計事務所(隈研吾氏)
▽設計・施工=鹿島

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