【BIM未来図・大和ハウス工業④】BIMワークフローを構築 九州は他部門へデータ受渡し | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【BIM未来図・大和ハウス工業④】BIMワークフローを構築 九州は他部門へデータ受渡し

 大和ハウス工業では設計段階の完全BIM化が2020年度に“現実のもの”となろうとしている。建設デジタル推進部の伊藤久晴次長は「それは当社がCDE(共通データ環境)構築の段階に入ることを意味する」と力を込める。オートデスクのBIMソフト『Revit』を社内標準の設計ツールとして位置付け、設計部門の仕事の進め方は大きく変わったが、「まだ道具が変わっただけ、それを業務ワークフローとして落とし込まないとBIMの効果を最大限に得ることはできない」と説明する。

共通データ環境による新しい設計プロセス


 今秋から全面導入に踏み切るオートデスクのクラウドサービス『BIM360』は、海外ではCDEツールとして高い評価を得ている。BIMの仕事の流れを規定する国際規格「ISO19650-1」に当てはめる企業も少なくない。CDEによって大きく変わるのは、仕事の中心が「人」から「情報」に移行される点だ。まさに同社も情報を軸に仕事の流れを切り替えようとしている。

 設計の工程は、データの策定・受け渡し、モデル確認チェック、モデル履歴管理、レビューの流れとなる。同社はそれを作業ごとに細かくルール化し、BIM360の中で作業、確認する枠組みを構築している。異なる場所から複数人が同時に作業できるワークシェアリングの作業環境が実現し、既に採用実績は建築プロジェクト数で800件超。参加メンバーは社員のほか、協力会社などアクティブメンバーも含めるとトータルで1000人近く、企業数にして310社を数える。

 企画設計では先行して、ことし5月からBIM360をベースとしたCDEを全面導入した。福岡・博多に置く設計部隊がエリア全体を担当する九州地区では、全国に先行して6月には実施設計段階から他部門へのデータ受け渡しもスタートした。BIM360を核にしたCDEの構築を同社が力を注ぐ背景には「情報を少しでも多く蓄積していきたい」との思いがある。これまでは担当者のパソコンの中に情報が蓄積されていたため、会社全体としての“資産”になっていなかった。

 設計に続き20年度から、施工部門でのBIM導入が始まっている。蓄積した設計の情報をスムーズに施工段階に受け渡すにはCDEの構築が欠かせない。それを支えるBIM360をいかに関係者が使いこなすかも問われる。条件も環境も異なる施工現場では指摘事項も多様化・複雑化しているだけに、プロジェクト関係者がリアルタイムに情報を共有できる枠組みが不可欠だ。

 同社と完全BIM化に向けた包括契約を結ぶオートデスクでは、CDE構築のルールづくりにもかかわっている。他の建設会社ではプロジェクト単位で情報の流れを厳密に検証するケースはあるものの、社を挙げて全物件でCDE構築を目指す企業は国内には見られない。プロジェクトを担当するオートデスクの田澤周平プリンシパルインプリメンテーションコンサルタントは「実施設計のデータは見積もり、購買、工場にもつながる。細かな部分まで情報の流れを検証する大和ハウス工業の取り組みは、日本のトップランナーにほかならない」と強調する。

 そしてBIM360に蓄積した設計や施工の情報は、維持管理分野への事業展開の足がかりにもなる。伊藤氏は「施工へのBIM導入が本格化し、これからは維持管理を見据えた川下領域の事業展開の議論に入る」と、CDE構築を軸に20年度から同社ではデジタルトランスフォーメーション(DX)に向かうステージへの扉を開けることを明かす。

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