数年先に新規案件の2、3割でBIM導入を目指している三菱地所設計では、BIM推進室が中心になり、より効果的にBIMを活用するためのツール開発が進行中だ。同室の平野暁子チーフアーキテクトは「自身の経験を生かし、設計時に苦労していた作業の効率アップをテーマに、便利ツールの開発を積極的に進めている」と説明する。
その一つが計画立案時の敷地把握・プラン検討ツールだ。設計者は事業検討の一環として敷地をベースに簡易プランを導き、延べ床面積などを割り出している。オートデスクのBIMソフト『Revit』をデータベースとして位置付け、対象敷地の住所を入れるだけで、国土地理院の基盤地図情報から敷地形状、国土交通省が公開する用途地域情報を取り込むとともに、3次元都市モデル「PLATEAU」を基に周辺建物の情報も取得し、斜線制限などを踏まえた建築可能ボリュームを生成する。
既に十数件のプロジェクトに活用しており、従来に比べて大幅に作業を効率化できることから、今年度から社内で本格運用に乗り出す。「Revitにどのような情報を入れるかの見極めが重要であり、必要なものだけを整理することで、より迅速に作業を進められる」と強調する。
プラン検討では用途別に色分けした2次元データからボタン一つで3次元化が完了し、建物ボリュームを即座に可視化するとともに全体面積を迅速に割り出す。用途別面積を自社の面積表フォーマットに反映する仕組みも開発した。社内では「これまでより少ない工数で高いクオリティーが発揮できる」との声が多く上がっており、近く社内ツールとして全社展開する計画だ。
「BIMと技術の組み合わせが重要な視点」と語るのは、BIM推進室兼機械設備設計部チーフエンジニアの矢野健太郎氏だ。「設計ツールとしてRevitを使うだけではBIMの本来の効果を最大限に引き出せない。Revitに蓄積したデータを利活用し、設計サービスと結び付けることが新たな価値を生む」と力を込める。
これまでにオートデスクのビジュアルプログラミングツール『Dynamo』を使い、業務効率を引き上げるための支援ツールや、蓄積データと外部システムをつなぐ連携ツールに加え、設備機器にRFIDタグを取り付け、Revitと連携した維持管理ツールなども開発した。BIMツールを開発する社内の先導役として、細かなものまで含めれば30以上のツールを手掛けているという。
同社はBIMを軸にDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を展開する中で「BIMとテクノロジーの掛け合わせ」を重要視している。地図情報との連携も有効であり、BIMがビル単体だけでなく、街区全体でデータを管理できる有効なツールになるだけに「クラウドに情報を蓄積しながら、そこから関係者が情報を出し入れするプラットフォームの確立が不可欠」と強調する。
同じく重要視するのは「当事者の意識でBIMと向き合う」ことだ。BIMという情報連携の仕組みを理解し、ステークホルダーにBIMを活用した価値創造の提案をするためにも「“まちづくりBIM”の本質をとらえたBIM人材の育成が欠かせない」と訴える。社内ではオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤にデータ連携を進めているが、三菱地所グループとして街区全体のBIMプラットフォームを確立するためには「事業関係者がもつ別のCDE(共通データ環境)とも密接に連携できる枠組みが求められる」からだ。