【安全・安心を届ける】堤防の決壊リスク低減 荒川第二・第三調節池工事が順次着手へ | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【安全・安心を届ける】堤防の決壊リスク低減 荒川第二・第三調節池工事が順次着手へ

 直轄事業屈指の規模を誇る荒川第二・第三調節池の工事着手に向けた作業が佳境を迎えている。事業を担う国土交通省関東地方整備局は9月30日、施設配置計画が決定したと発表するとともに、2021年度から順次着手する各施設の工事工程などを明らかにした。堤防の決壊リスクの低減など事業効果はさることながら、最新の技術を取り入れる工事の現場は、都心に近い立地特性も生かした近未来のモデルケースとしての役割も期待されている。担当者の声を交えながら、事業概要やその可能性を紹介する。

事業実施区域と周辺(下流側から撮影)。手前が羽根倉橋


 かつては大雨のたびに災害を引き起こしていた「荒ぶる川」が荒川の名の由来だ。東京都と埼玉県を貫流し、流域内には、日本の人口の約8%が集中、特に埼玉県南部と東京都区間沿川は人口・資産が高密度に集積している。

 こうした状況などを踏まえ、第二・第三調節池は、戦後最大のカスリーン台風と同規模の洪水に備える抜本的な治水対策として18年4月に事業着手した。広い高水敷を活用し、羽根倉橋から開平橋までの約11㎞に大規模な調節池を整備する計画となる。

 近年、激甚化する災害を踏まえれば一刻も早い整備が求められているが、事業着手の翌年に発生した19年の台風19号は、その社会的要請を一段と高める結果となった。

 同局荒川調節池工事事務所の後藤祐也事業計画課長は、台風19号を振り返り、「(既設の)第一調節池の洪水調節容量3900万tのうち3500万tまで使った。あと少しで首都東京のゼロメートル地帯にも被害が及んでいた可能性もあった」と、危機的な状況が目前まで迫っていたことを明らかにする。

 洪水調節容量は第二が約3800万m3、第三は約1300万m3を確保する計画だ。両調節池の整備で荒川調節池群の洪水調節容量は現状の約2.3倍の約9000万m3となり、治水安全度のさらなる向上を見込む。

 後藤課長は、「広大な面積を持つ調節池の整備に伴い、囲繞堤(いぎょうてい-平均高さは第二が約10m、第三は約7m)などの堤防整備の延長は約16㎞、必要な土量は約600万m3にも及ぶ」と事業のスケール感を説明する。また、「工事の実施に当たっては、最新の情報化施工技術やCIMを最大限活用し、大規模河川工事の先進事例となる現場を目指したい」と力を込める。

 事業全体を見れば大手から中小まで幅広く受注の可能性のある工事となるが、同氏は「30年度までにこれだけのものを完成させるのは大変だが、個別の工事を見ればシンプルで単純な部分も多い」としつつ、今後具体的に検討する工区分けや発注方法などは、「事業の早期完成を念頭に検討していく」との考えを示す。

 さらに同事業は、注目すべき側面がもう1つある。「都心からも約1時間で来られる場所」という立地を生かした取り組みだ。後藤課長はこの特性を活用し、「現場見学などによる集客や後世の技術開発に資する魅力ある工事を実施したい」と展望する。

 このため、発注者だけではなく、受注企業にとっても最新の技術などを広く社会にPRできる可能性があるのだ。

 最後に、同事務所の荒木茂副所長は自身の経験を振り返りつつ、「守って当たり前だから河川事業は難しい」との見解を示す。「被害が見えたらアウト。被害が出ないように早急に整備を進める必要がある」と工事の本格化に備えて改めて緊張をにじませる。

 河川事業の多くは治水対策で水害が減ると過去の被害の記憶が薄れてしまう。こうしたことから、事業効果が持続的に理解されづらい状況に陥ることも多々あるというが、両氏は「流域に一日でも早く安全・安心を届けたい」との強い信念を持ち、これからも事業に臨む構えだ。

 事業実施区域はさいたま市、川越市、上尾市の荒川左岸。面積は第二が約460ha、第三は約300haの計約760haとなる。全体事業費に約1670億円を見込む。

事業計画図

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