荒川水系流域治水の“要”に/30年度完成へ築堤・排水門整備

第二排水門上流から下流を望む
さいたま市、埼玉県川越市、上尾市にひろがる広大な川幅は荒川中流部の特徴で、大雨などによる増水時には、水が広がりながら流れる地形として古くから注目されていた。荒川左岸に整備する第二・三調節池の総面積は約760ha(第二約460ha、第三約300ha)。容量は約5100万m3を確保し、04年に完成済みの第一調節池と合わせると、洪水調節容量は現在の約2.3倍にあたる約9000万m3となる。
東日本台風の際、第一調節池だけでも、下流の洪水氾濫(はんらん)防止に大きな役割を果たしたものの、仮に荒川第二・三調節池が完成していれば、岩淵地点で約30-40cm水位を下げていたと推定される。

小平事務所長
最悪の場合、越水すると、堤防は宅地側から削れるため、堤防が決壊するリスクが一気に高まる。そうしたことからも「ピーク時に上流で水を貯めこみ、下流の水位を下げる意義は非常に大きい」と述べる。
荒川調節池群の整備は、策定から概ね30年間を目安に具体的な整備事項を示した「荒川水系河川整備計画」に洪水調節容量の確保として位置付けられている。04年に第一調節池が完成、第二・三調節池は、戦後最大のカスリーン台風と同規模の洪水に備える抜本的な治水対策として18年4月に着手した。整備計画上では第四調節池まで整備対象となっている。

大久保浄水場につながる埋設管の構造物建設(西武建設)
羽根倉橋から開平橋までの約11㎞におよぶ荒川第二・三調節池事業の期間は13年。多くの施工者が携わることとなる。小平所長は「地域の守り手である県内の建設業者に、施工の機会をつくり、BIM/CIMやICTなどのDXに取り組むことが発注者の責務」とした上で、「地域貢献という意味で、やりがいを感じてほしい」と語る。

整備後 立体断面(上流から下流方向を見た図)
■高精度、早期の完成へDX活用

ICT施工によりブレードを自動制御。丁張りなどの補助作業員削減が可能に(飛島建設)
実際に受注者である飛島建設は、「サイバー建設現場R」としてUAV(無人航空機)測量による盛土管理(出来形管理)などに取り組む。同社の市川哲朗所長は「技術者であるという誇りと、人命を預かっている責任感を持ってチャレンジし続けることが必要だ」と語る。現場で働く若手社員は「自ら実測して初めて分かることもある。間違いに気付ける経験を積みたい」と実感を込める。ビッグプロジェクトの経験は今後に生きるだろう。
■地域の理解地元の期待
八ッ場ダムの建設に携わってきた経歴を持つ小平所長は、地域の理解の重要性を身をもって実感している。「地域の皆さんの理解と土地提供なくしてインフラ整備は成り立たない。特に河川や道路事業は、多くの人の協力あってこそだ」と力を込める。東日本台風時に試験湛水中だった八ッ場ダムへの感謝の声も聞いたという。
福島県の相馬福島道路の現場経験がある西武建設の海老原毅所長は「地元の期待も大きく、早期開通を目指して地域一丸となってやっていた」と当時を振り返る。小平所長は「流域治水には情報発信を続けることが大切」と述べており、今後も定期的な現場見学会やSNS、ホームページで工事進捗などを発信していく。