【レジリエンス社会へ】荒川第二・三調節池整備事業 | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】荒川第二・三調節池整備事業

荒川水系流域治水の“要”に/30年度完成へ築堤・排水門整備
 東京都と埼玉県を貫流し、流域内に日本の人口の約8%が集中する荒川は、特に都の沿川と埼玉県南部に人口・資産が集積しており、全国の一級水系の中で最も密度が高い。江戸時代以降の産業、経済、政治、文化、社会の発展の礎となった一方で、その名の通り“荒ぶる川”は、首都圏にたびたび被害をもたらしてきた。2019年の台風第19号(令和元年東日本台風)の際は、東京都北区岩淵地点で戦後3番目の水位を記録し、治水対策の重要性が再認識された。関東地方整備局による荒川水系流域治水の要のビッグプロジェクト「荒川第二・三調節池」は、30年度の完成に向けて現在、囲ぎょう堤の築堤や排水門などの工事が進む。次の100年に備える“レジリエンス社会”を目指す上で、事業の取り組み内容を紹介するとともに、意義について改めて考える。

第二排水門上流から下流を望む

 さいたま市、埼玉県川越市、上尾市にひろがる広大な川幅は荒川中流部の特徴で、大雨などによる増水時には、水が広がりながら流れる地形として古くから注目されていた。荒川左岸に整備する第二・三調節池の総面積は約760ha(第二約460ha、第三約300ha)。容量は約5100万m3を確保し、04年に完成済みの第一調節池と合わせると、洪水調節容量は現在の約2.3倍にあたる約9000万m3となる。

 東日本台風の際、第一調節池だけでも、下流の洪水氾濫(はんらん)防止に大きな役割を果たしたものの、仮に荒川第二・三調節池が完成していれば、岩淵地点で約30-40cm水位を下げていたと推定される。

小平事務所長

 悠々とした流れの大河川である荒川は、水位が急激に上下する小河川とは異なり、一度水位が上がるとなかなか下がらない。関東整備局の小平剛弘荒川調節池工事事務所長は「川幅が広く、堤防も大きいとはいえ、洪水によって水位の高い状況において30-40cmの水位の差は、堤防に与えるダメージに大きく影響する」と指摘する。洪水が長時間流れることで、水が土に浸透し、堤防自体の弱体化につながるからだ。

 最悪の場合、越水すると、堤防は宅地側から削れるため、堤防が決壊するリスクが一気に高まる。そうしたことからも「ピーク時に上流で水を貯めこみ、下流の水位を下げる意義は非常に大きい」と述べる。

 荒川調節池群の整備は、策定から概ね30年間を目安に具体的な整備事項を示した「荒川水系河川整備計画」に洪水調節容量の確保として位置付けられている。04年に第一調節池が完成、第二・三調節池は、戦後最大のカスリーン台風と同規模の洪水に備える抜本的な治水対策として18年4月に着手した。整備計画上では第四調節池まで整備対象となっている。

大久保浄水場につながる埋設管の構造物建設(西武建設)

 気候変動が激しい昨今、全国の河川整備基本方針と整備計画の見直しが進んでおり、関東ではことし3月、多摩川水系の基本方針が変更された。東日本台風により甚大な被害が発生した7水系(阿武隈川、鳴瀬川水系吉田川、久慈川、那珂川、荒川水系入間川、多摩川、千曲川を含む信濃川)においては、再度災害を防止するための緊急的に実施すべき対策の全体像を明らかにした「緊急治水対策プロジェクト」に基づき、国、都県、市区町村のみならず流域のさまざまな関係者が連携し、流域治水の考え方を取り入れた対策を先行的・集中的に実施するなど、流域治水の社会的な重要性が高まっている。

 羽根倉橋から開平橋までの約11㎞におよぶ荒川第二・三調節池事業の期間は13年。多くの施工者が携わることとなる。小平所長は「地域の守り手である県内の建設業者に、施工の機会をつくり、BIM/CIMやICTなどのDXに取り組むことが発注者の責務」とした上で、「地域貢献という意味で、やりがいを感じてほしい」と語る。

整備後 立体断面(上流から下流方向を見た図)




■高精度、早期の完成へDX活用

ICT施工によりブレードを自動制御。丁張りなどの補助作業員削減が可能に(飛島建設)

 また、同事務所は21年2月、3次元データの活用などを先導する『i-Constructionモデル事務所』に認定された。「土木工事は全国だけでなく世界共通。バックホウやブルドーザーなどの建機はどこでも使用する。盛土や掘削などの土工は土木工事の中でスタンダードな工種なので、DXによる生産性向上の効果が発揮できれば、世界でも水平展開できる」と、建設業の可能性を期待する。高精度で早期に完成するスピードは、治水の上でも重要だと考える。

 実際に受注者である飛島建設は、「サイバー建設現場R」としてUAV(無人航空機)測量による盛土管理(出来形管理)などに取り組む。同社の市川哲朗所長は「技術者であるという誇りと、人命を預かっている責任感を持ってチャレンジし続けることが必要だ」と語る。現場で働く若手社員は「自ら実測して初めて分かることもある。間違いに気付ける経験を積みたい」と実感を込める。ビッグプロジェクトの経験は今後に生きるだろう。



■地域の理解地元の期待
 八ッ場ダムの建設に携わってきた経歴を持つ小平所長は、地域の理解の重要性を身をもって実感している。「地域の皆さんの理解と土地提供なくしてインフラ整備は成り立たない。特に河川や道路事業は、多くの人の協力あってこそだ」と力を込める。東日本台風時に試験湛水中だった八ッ場ダムへの感謝の声も聞いたという。

 福島県の相馬福島道路の現場経験がある西武建設の海老原毅所長は「地元の期待も大きく、早期開通を目指して地域一丸となってやっていた」と当時を振り返る。小平所長は「流域治水には情報発信を続けることが大切」と述べており、今後も定期的な現場見学会やSNS、ホームページで工事進捗などを発信していく。



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