【レジリエンス社会へ】日本建築学会副会長 川口健一氏 | 建設通信新聞Digital

5月15日 水曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】日本建築学会副会長 川口健一氏

次の100年に備える//関東大震災100周年タスクフォース主査、東大教授/人々が支え合う幸福な社会を/未来の建築・まち・地域の在り方提言
 建築物の耐震基準の出発点になった関東大震災から100年。この間、日本の建築技術は世界と比べても高度に発達したが、「一方で、コミュニティーが失われたまま現在に至っているのではないか」と日本建築学会副会長の川口健一東大教授は投げ掛ける。同氏が主査を務める関東大震災100周年タスクフォースでは、震災100年の節目に向けて提言案を策定中だ。提言案では、人々との支え合いと幸福な生活を育む建築・まち・地域のあるべき姿や必要な社会の変化などを発信する。

川口健一氏

 これまで建築学会は、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの発生に際し、実際の被害を踏まえた社会、建築などの課題と在り方を提言として発表してきた。これに対し、100年前の震災を踏まえた今回の提言は、過去の被害への備えではなく、「この先の100年後の社会に向け、今までに培った技術や知見を、どのように生かしていくのかを発信したい」と語る。

 策定に向け、多くの専門家とともに関東大震災後の社会を振り返ってきた川口氏は、「建築やまちからコミュニティーが失われている」ことに危機感を抱いており、提言の中心的な問題に位置付けている。

 100年間で、人口増加と核家族化が進み、都市では団地やマンションなどが数多くつくられた。こうしたマンション群などでは「近所同士でありながら、コミュニティーが形成されてこなかった」と語り、地方に目を向けると、少子高齢化で消滅にひんしている村や集落が増えている。

 コミュニティーは暮らしを豊かにし、災害時の助けになる共助の意識を育む。その創出や維持のためには、建築側の工夫が不可欠だ。提言案では、日々の暮らしや仕事、人間関係、コミュニティーなどの形成に積極的に貢献する建築づくりを訴える。「新築時の美しさ以上に、完成の30年、40年後に住民や利用者、地域社会から評価される建築を目指すことが大切だ」と力を込める。

 それに合わせ、住人や利用者、管理者などによる丁寧な建物の維持を通して、建築と長く付き合う考え方も重要になる。建築の状態と価値を正しく判断、評価できるように履歴を適時記録し、建物の寿命を延ばしていくような取り組みの必要も提起する予定だ。

 建物をつくる側と使う側の双方の取り組みを後押しする上で、「従来のように減価償却で建物の価値がやがてはゼロになるという考え方ではいけない」と指摘し、メンテナンスで建築がより価値を高めていくような新しい仕組みを創出する必要性を強調する。その大前提にあるのは、免震構造の普及によって「地震が来て命が助かるだけではなく、地震が来たその日から、いつもと同じ暮らしができる都市」だ。

 9月1日に発表予定の提言案では、メンテナンスや免震構造などをはじめ、分かっていながらも社会が実行に移せていなかった取り組みを『新常識』として、分かりやすい言葉で広く発信する。

 足元の社会では気候変動やデジタル化など社会的な課題が山積している。この先の100年でも未知の課題に数多く直面するはずだが、「過去にも未来にも共通する目標は、幸福で健康に長生きができる社会の実現だ。社会課題の対応に追われて進む先が分からなくなったとき、道しるべになるような提言をつくりたい」と話す。



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