【レジリエンス社会へ】次の100年に備える 災害に備え、文化を守るまちづくり | 建設通信新聞Digital

5月17日 金曜日

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【レジリエンス社会へ】次の100年に備える 災害に備え、文化を守るまちづくり

建築学会・関東大震災100周年シンポジウムで「新常識」提言
 日本建築学会は、関東大震災から100年の節目に当たる1日、シンポジウム「100年後の日本の建築・まち・地域」を開いた。この100年で日本の建築技術は世界と比べても高度な発達を遂げたが、東京では超高層住宅のインフラの断絶や帰宅困難者への対応など懸念は尽きない。災害に備え、将来にわたって文化を守っていく都市を築くためには、どのような哲学が求められるのか。シンポジウムでは、建築学会が発表した将来の建築・まち・地域の在り方に関する提言案について、出席した大学教授や建築家が意見を交換した。

山本氏

大西氏

齊藤氏

川口氏

久田氏

 シンポジウム前半は、竹内徹会長のあいさつに続いて武村雅之名古屋大特任教授が『関東大震災と100年目の東京』をテーマに講演し、建築学会関東大震災100周年タスクフォース主査の川口健一副会長が、建築・まち・地域が将来に向かって目指すべき目標と、実現のために必要な考え方、取り組みなどを「新常識」としてまとめた提言案を発表した。

 提言案では、100年後の社会が目指すべき目標として『幸福に健康に長生きできる社会』を掲げ、目標実現を支える建築・まち・地域の将来像と、建築に関わる人々や社会が取るべき行動指針などを示した。

 このほか、建築物の機能などのより良い状態を目指して積極的に更新を施すことで経済面も含めた価値を高めていく“更新優良化”の考え方を提唱。実現のためには、法制度や減価償却に関する従来の考え方の転換や建築の実質的な価値を評価する市場の仕組みの構築が必要だとした。

 後半は、齊藤広子横浜市立大教授の『住み手のパワーを活かす建築社会システム』に関する講演の後、建築家の大西麻貴氏と山本理顕氏が登壇した。

 『100年後の建築家へ』をテーマに講演した山本氏は、関東大震災や阪神・淡路大震災、東日本大震災など過去の震災復興を振り返り、「コミュニティーを再生するためには、行政主体ではなく、住民主体で復興の在り方を考えることが重要だ」とし、建築家などの専門家がその支援を担う必要があるとした。

 また、住民が主体的に望ましいコミュニティーを形成していく“住民自治”の考え方を紹介した上で、「関東大震災以後、建築の専門家たちは、住宅に住む家族が自然と地域社会の一員として居住しているような、地域とのつながりを育てていく住宅の在り方を考えることを怠ってきたのではないか」と述べた。

 この後の『建築の新常識』をテーマにした討論では、武村教授を除く講演者らと久田嘉章工学院大教授が、提言案の内容などに関して意見を交換した。

 提言案が掲げた『幸福に健康に長生きできる社会』について、大西氏は「生きる喜びや都市に生きる誇りなど、より主体的で意思を持った幸福の在り方を盛り込んでも良いのではないか」と所見を述べた。

 山本氏は地域社会に向けた提言内容に注目し、「地域固有の事情も含めた情報共有がなければ、住民自治は成り立たない。そのため、『新常識』が提示している情報共有こそが助け合い、取り残されない社会の基本であるという考え方は非常に重要だ」と語った。

 住民参加の経済活動を地域社会の維持管理費の原資に充てていこうという提言に対しても「住民自治を守るためには、行政の補助金ではなくて、住民自身が経済活動に参画していく仕組みが必要だ」と賛同した。

 齊藤教授は、提言案の目標に対し「暮らす人たちが、誇りや愛着を持てる場所をつくっていこうという考えを発信するキーワードを提言案に盛り込むべきではないか」と意見を寄せた。

 また、更新優良化の考え方に関して「建物の良さを誰でも把握できるような情報発信の在り方が必要だ」と指摘し、マンション管理の質を可視化する具体的な取り組み事例を紹介しながら「建物ができた時の性能だけでなく、使っている最中の性能を見える化していくことが分かりやすさにつながるのではないか」とした。

 川口副会長は、提言案で示した免震構造を基本とする建物の在り方について「事前復興の観点に立つと、大震災が起きた際に、建物の中にいる人だけではなく建物そのものも守っていかなければならない。免震構造を基本としつつ、既存の伝統的な建物など、免震構造を導入するハードルが高い建物については、ケースバイケースで対応する必要があるだろう」と語った。

 討論後、竹内会長が「関東大震災からの復興の際には、文化的で誇りが持てるまちという目標像を掲げ、市民のコンセンサスを得ながらまちづくりを進めた。この先のまちづくりにおいても、広く賛同が得られる建築やまちの姿を具体的に示すことが求められる。今後のアクションプランなどにつなげるため、皆さんから引き続き意見を求めていきたい」と全体を締めくくった。



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