【レジリエンス社会へ】次の100年に備える 長谷工グループ | 建設通信新聞Digital

5月15日 水曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】次の100年に備える 長谷工グループ

レジリエント”なマンションづくり/マンションミュージアムは防災展示を常設化/災害対策技術WGで取り組み推進
 長谷工グループは、「防災・減災に配慮した、“レジリエント”なマンションづくり」に力を入れている。自然災害が激甚化する中、災害に強いマンションづくりに向けて、2018年12月に災害対策技術ワーキンググループ(WG)を設置し、さまざまな取り組みを進めている。また、東京都多摩市の長谷工テクニカルセンター内の長谷工マンションミュージアムでは、マンション防災に関する展示を常設化し、防災に関する情報を積極的に発信している。

防災3点セット (左から)マンホールトイレ、かまどスツール、非常用飲料水生成システムWELL UP

 18年6月に大阪府北部地震が発生し、9月には台風21号が関西地方に被害をもたらした。これらを受けて、長谷工コーポレーション関西技術系メンバーで施工物件の被災状況調査を実施するとともに、災害対策仕様の見直しに着手した。その後、東京のメンバーを加え、設計・建設・技術推進の各部門が連携する災害対策技術WGが発足した。

 基本方針は、災害発生時に身の安全を守れること、被災後にインフラが復旧するまで、生活環境を維持できること、管理組合や居住者の防災意識向上を図ることとして、「災害に強いマンション提案」を策定している。例として、住戸内部に家具転倒防止用下地の設置、システム収納への耐震ラッチ採用を提案。共用部では、06年から大規模マンションの基本仕様としている防災3点セット(非常用飲料水生成システムWELL UP、マンホールトイレ、かまどスツール)に加え、災害対策拠点の設置などがある。

 駐車場には電気自動車の充電設備を整備し、災害などで停電が発生した際に、電気自動車から災害拠点となる共用室に電気を送るといった取り組みも事業主に提案している。また、管理・運営面では被災後も想定した、管理・運営上の仕組みを整備した。

 防災意識のさらなる向上を図るため、「災害対応マニュアル」を策定した。地震や台風など災害ごとにインデックスを付けて、イラストを豊富に入れるなど、高齢の居住者にも使いやすいものとしている。事業主には、マンションごとのハザードマップ、管理組合や入居者への継続的なアドバイスを掲載した災害対応マニュアルを提案している。物件にあった情報を掲載しているため、災害時の詳細な対応や、防災備品の保管場所が分かるなど、さまざまなメリットがある。

亀井エグゼクティブプランナー


 地震や台風による建物の損傷を最小限に抑えるよう、設計・施工基準を見直し「長谷工基本仕様」に適用した。例えば、エキスパンションジョイントは、地震や大型台風の強風での損傷、脱落が起こりにくいカバーとし、外装材や外構部材は建築基準法を上回る強度に見直した。ほかにも、太陽光パネルの飛散を防止する固定方法への変更、地震時に廊下側・バルコニー側の壁の損傷を軽減し、被災後も住戸内部環境やプライバシーを保てるように耐震スリットの採用、地震があっても建物の損傷を最小限に抑える工法の導入などを行っている。

 20年には「台風等異常気象マニュアル」を改訂し、台風の被害状況や予測について、レベルごとの体制整備、施工現場への対策指示や協力会社との情報連携の迅速化を図った。さらに、各施工現場で必要な点検・確認手順をまとめ、「目で見る台風対策」として情報共有した。

 そのほか、これまでに発生した自然災害に対する長谷工グループの取り組み、今後の自然災害への対策や心構えなどを「自然災害とその対策」としてまとめている。
 WGリーダーの大阪エンジニアリング事業部の亀井円裕エグゼクティブプランナーは「今後も、災害の発生状況に応じて、随時見直していく」とし、引き続き、居住者が安心して住み続けられる取り組みを進めていく。

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 長谷工マンションミュージアムでは、当初は企画展であったマンション防災に関する展示を、来場者に好評だったこと、また防災への関心の高まりを受けて、常設化した。今では国内のみならず国外からも多くの来場者がある。

 展示コーナーでは、災害の歴史とマンションの進化を分かりやすく表にまとめているのをはじめ、防災備蓄倉庫内の防災グッズを展示し、倉庫に何が備えてあるのかを一目で分かるようにしている。また、震災後に構造や設備の自動診断、ドローンやモビリティーを活用した防災活動など、マンションの未来の防災を紹介。そのほか、共助による減災の例、共助環境の構築などを展示している。

防災備蓄倉庫内の防災グッズを展示


 被災時のライフライン確保のアイテムとして、非常時の生活品質を支える非常用飲料水生成システムWELL UP、マンホールトイレ、かまどスツールの「防災3点セット」を展示している。

江口館長

 WELL UPは、高分子RO(逆浸透)膜を利用し、井戸や水槽の水をスピーディーにろ過して飲料水を供給する。1日最大14.4t、約4800人分の飲料水を供給できる。動力源は、停電時でも運転できるよう発電機を採用している。東日本大震災でも、効果を発揮した。

 マンホールトイレは、災害による断水で住戸のトイレが使えない場合、下水道につながる汚水桝を利用する。災害時に敷地内のマンホールのフタを外して、マンホール枠に簡易トイレ(洋式便座)を設置できる。

 かまどスツールは、普段は上部を腰掛板で覆い屋外用スツールとして利用するが、災害時には腰掛板を外し、内蔵された鋼製グリルを取り出して、かまどとして使用できる。

 来場者には、マンション防災マニュアルを配布している。自助、共助のため、備えておくべきアイテム、家族で決めておくべきこと、地震の発生時、発生後の行動、コミュニティーの備えについて、イラストで分かりやすく説明している。

 長谷工マンションミュージアムでは、地元の多摩消防署などと連携した防災イベントも開催するほか、小中高生向けの見学会にも対応しており、好評を得ている。江口均館長は「防災に対する関心が高まっている。当社のマンションへの居住に関係なく、広くマンションの居住者向けに、最新の内容を分かりやすく展示し、紹介していきたい」としている。



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