【レジリエンス社会へ】飛島建設 トグル制震ブレース | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【レジリエンス社会へ】飛島建設 トグル制震ブレース

地震エネルギー吸収し揺れを低減 東日本大震災で効果発揮 安心・安全の確保に貢献

 飛島建設などが開発した「トグル制震ブレース」が着実に採用実績を重ねている。独自のトグル機構によるオイルダンパーが効率良く地震エネルギーを吸収し、地震時の揺れを低減するとともに建物の損傷を抑える。安心・安全を確保し、大地震から生命、財産、建物を守ることに大きく貢献する。さらに予想最大損失率(PML)を最小化し、震災後のスピーディーなBCP(事業継続計画)を実現する。

 1923年に発生した関東大震災からことしで100年を迎える。その後、今日に至るまで、福井地震(1948年)、十勝沖地震(68年)、阪神・淡路大震災(95年)、新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(11年)、熊本地震(16年)といった大きな被害を伴う大地震が発生した。今後、首都直下地震や南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震などの発生リスクも予測されるため、より一層建物の耐震化が重要になっている。

 トグル制震ブレースは、2本の腕部材と1本のオイルダンパーで構成したトグル機構により、地震による建物フレームの変位量を2-3倍に増幅してオイルダンパーに伝え、地震エネルギーを効率良く吸収して建物の揺れを低減する制震装置となる。飛島建設のグループ会社であるE&CSが製造・販売している。

トグル制震ブレースの仕組み


 吸収した地震エネルギーは、オイルダンパーで熱エネルギーに変換されるため、地震後にダンパー内のオイルが冷めれば性能は戻り、何度でも働くことができる。熊本地震のような繰り返し発生する大地震にも性能が落ちることなく機能する。長周期地震動にも対応する。さらに、装置の設置場所の自由度が高く、取り付けパターンを選ぶことができ、新築や耐震改修のいずれにも対応できる。

 施工実績は、05年5月の初弾施工から23年3月31日現在で、施工中も含めて新築建物14件・624基、改修建物186件・8146基の計200件・8770基となっている。学校、庁舎、事務所ビル、集合住宅、工場など多種多様な建物に採用されており、特に大学を中心とした学校建築や市役所など、広域避難場所になるような重要な建物での採用が多い。小学校への設置では、ダンパー部分にさまざまな色を塗り、色鉛筆のような外観にする工夫も行われている。

改修施工事例(藤沢市立滝の沢小学校)


 制震効果を発揮した例として、仙台市役所の例がある。同市役所はSRC造地下1階地上8階建て延べ1万8000㎡で、東日本大震災発生以前に142基を設置していた。地震発生時に震度6弱の揺れに見舞われたが、7階で多少書棚が倒れた程度で、4階でも机の上に積み重ねていた書類が滑り落ちた程度だった。このため、すぐに8階講堂を避難場所として使用することができ、「採用して良かった」と感謝された。

 同市役所には、1階と屋上階の2カ所に地震計が設置されており、その観測結果と耐震補強をしなかった場合を想定した地震応答解析結果を比較した。その結果、建物の変形は層間変形角で最大4分の1、相対変位で最大3分の1に低減されており、大きな効果が実証された。

 南相馬市役所本庁・西庁舎(RC造4階建て延べ4409㎡)には40基を設置していた。震度5強の揺れに見舞われたものの、建物に問題はなかった。書籍が落下するようなこともなく、市役所として防災拠点の使命を果たすことができ、高く評価された。

 千葉県内で精密部品を製造する工場は、01年の新築時にBCP対策として採用した。東日本大震災でも、工場建屋だけでなく製造ラインを守り、稼働停止期間を最小限に抑えた。トグル制震ブレースを設置した工場棟と未設置の事務所棟では揺れが異なっていた。

 E&CSでは、トグル制震ブレースを設置した建物が、震度5以上の揺れに見舞われた場合、地震後にブレースを点検している。東日本大震災では、当時、トグル制震ブレースを設置していた建物で、震度5弱以上の揺れとなった建物が29件あったが、地震後に被害状況を確認したところ、全ての建物で建物自体の被害がなかった。これまで点検した全ての建物で異常は認められず、正常に機能していることが分かった。

 点検の際には、顧客に地震時の状況を聞いており、多くの顧客は近隣の建物に比べて棚の転倒などの被害が少なかったと答えている。

 E&CSの三門克彰社長は「1981年以前の旧耐震基準の建物の多くが耐震化されたが、さまざまな理由で耐震化していない建物も残っている。大地震による被害を少なくするため、個々の建物の耐震化への課題を顧客とともに考えて解決し、耐震化を推進していきたい。新耐震基準の建物や新築建物でもPMLやBCPの観点から一段上の安心・安全と被災復旧時の経済性を高めることで建物の価値向上につながる。海外でも、日本と同様に地震が多発し、耐震化を必要とする国が多くある。今後は海外進出も視野に入れて事業展開を考えていきたい」と語る。

 「当社では、トグル制震ダンパーのほか、レンズダンパー、ディスクシアキーといった制震・耐震補強の関連部材やブラストキー工法など、飛島建設が開発した制震・耐震関連製品を販売している。これらを提供することで、地震の脅威から顧客の生命と財産を守り続けていきたい」と力を込める。

新築施工事例(セルコンスクエアビル)



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