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4月28日 日曜日

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【Chim↑Pom from Smappa!Group エリイさんに聞く】着想の源は原体験の「グッとくる」建設現場

 「建設現場って、でかいからグッときますよね」。社会を鋭く風刺するアーティスト・コレクティブChim↑Pom from Smappa!Groupメンバーのエリイさんは、建設現場が日常の原体験だったことから、「グッとくる」という身体感覚がある。グループのプロジェクトはメンバー6人の合議で決めるが、エリイさんの着想が形になることも多い。その着想には原体験が大きく影響している。建設現場が日常的だったのは、父親がある大手ゼネコンの現場所長を務め、小さい頃から頻繁に建設現場に連れられて行ったからだ。Chim↑Pomは2005年の結成当時から、都市と公共性に関心が強く、今春、東京都港区の森美術館で開いた回顧展では、テーマの一つとしてアスファルト舗装の道を会場内につくり、公共や道の概念を問い直した。 

2層にした森美術館の展示空間。下層とつながるマンホールを上がるエリイさん


◆今春の展覧会では会場内にアスファルト舗装
 森美術館での展覧会「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」(会期2022年2-5月)は、国際的に活躍するChim↑Pom from Smappa!Groupの初期から近年までの代表作と新作を紹介する初の本格的回顧展となった。物議を醸した『ヒロシマの空をピカッとさせる』(09年)や『LEVEL7-feat.「明日の神話」』(11年)、建築のスクラップ&ビルドを風刺した『ビルバーガー』シリーズ(16年、18年)など、代表作を「都市と公共性」「道」「don’t Follow the Wind」などのセクション別に展示した。
 作家の発案で展示空間を2層構造とし、上層部にアスファルトで舗装した大規模な道を建築家の周防貴之氏とつくり(施工は前田道路)、来場者を驚かせた。この道はサイトスペシフィック・インスタレーションとして、会期中はイベントやハプニングのプロジェクトスペースとなり、既存のルールから独立した空間をつくり、鑑賞者と一緒に育てていく道とした。

2層の展示空間の下層部分に展示された作品


 エリイさんはこう話す。
 「過去にもアトリエの建物の間や台湾の国立美術館に道をつくって、同様に既存ルールに縛られない道の在り方を探った。今回の道もその延長上にあります。私自身、道や公園など公共の場で自由に遊ぶことが規制されることが多くなったと感じています。展覧会では自然発生的に人が集まる場が生まれるなど、ルールにとらわれない新しい道を来場者の皆さんと育てていきたいと考えました」
 展覧会のスタート時点ではどこにでもあるアスファルトの道だったが、期間中、保育園児による落書き、ライブ、フリーマーケットなどのイベントが続けられ、新しい道に「育てられていった」

大規模なアスファルト舗装の空間。ここで会期中にフリーマーケットやライブなどが展開され「育てる道」が試行された


廃棄される予定だった新宿の街灯を手に入れて展示(アスファルト舗装された展覧会場奥)

 
 「アートを体現する」とも言われるエリイさんとは森美術館の展覧会場で初めて会い、その後、何度か会うたびに「全身がアート」である印象が強くなっていった。展覧会でも『エリイ』というセクションが設けられていて、カンボジアの地雷原に行ってチャリティーとセレブリティ文化をテーマに地雷爆破と寄付のプロジェクトを実施したり、デモを申請して自身の結婚パレードを道で開催するなど、行動でアートを表現するプロジェクトが紹介されている。そして、エリイさんが絵になる存在感を持っていることも「アートを体現する」という言葉のゆえんなのだろう。
 さらに、エリイさんの着想が、建設現場の原体験に大きな影響を受けていることは興味深い。展覧会場を2層に分けて上に道をつくった視点がまさに原体験そのものと言っていい。

 

メンバー6人による展覧会の記者発表


 父親はシールド現場に携わることが多かった。エリイさんは小学生の頃、地下深く降りていく工事用エレベーターで父と一緒に雨水貯留施設などのシールド現場に毎週のように行っていた。父親は「街の地下にこういうトンネルが広がっていることは、一般の人にはなかなか想像できないですよね」と話す。エリイさんも「子どもの頃にこんな大きい構造物に出会えたのはラッキーでした。大人になってから地下を体感として捉えられる視点は、日常的に見た建設現場の景色があるからだと思います」と自身のいまを分析する。
 さらにシールドの話を進めていくうちに「あと、思い出してきたんですが、穴を掘った後、壁に張っていきますよね。壁が崩れたり水が漏れたりしないように……」と問い掛けるように語るので、「セグメントですね」と答えると「それ! 覚えています。きれいですよね」と話す。携帯電話もない時代で、「シールドマシンが写っているテレフォンカードとか使ってましたね」と笑う。エリイさんが子どもの頃に見た建設現場は「足場板というのでしょうか、穴が開いている銀色の板が床に敷いてあって、そこに水がたまってるみたいな。それが現場のイメージですね」と振り返る。
 父親は、エリイさんをよく現場に連れて行ったことについて「どういうところで働いているのか知ってもらいたかったので」と話す。加えて、その当時、建設現場を広く一般の人に知ってもらおうという時代の流れもあったという。
 Chim↑Pom from Smappa!Groupの展覧会には必ず足を運ぶ。「気にはなりますが介入はしません。よくやっているなと思っています。現代アートは評価が難しいですが、『明日の神話』は(岡本太郎の作品と)うまくつながっていたので大したものだと思いました。広島の『ピカッと』もそうですが、発表した時は物議を醸しても、その後フォローをして当事者と協調できていることは評価します」と指摘する。
 エリイさんの祖父も父と同じ会社だった。祖父が四国の道路工事現場で働いていたとき、道路沿いに住む祖母と出会ったのだという。エリイさんはことしの正月、自分のルーツとも言えるこの道を見に行ってきたと話す。展覧会の道とも重なって、不思議な「道の縁」である。



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