【レジリエンス社会へ】北海道大学名誉教授、ペルー国立工科大学名誉教授、北海道建築技術協会顧問 石山 祐二氏 | 建設通信新聞Digital

5月8日 水曜日

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【レジリエンス社会へ】北海道大学名誉教授、ペルー国立工科大学名誉教授、北海道建築技術協会顧問 石山 祐二氏

関東大震災から100年/新・耐震 建物の「靱性」に期待/官民連携で国土を守るシステムを
 耐震規定の歴史は、関東大震災などの地震被害後の対策の歴史でもある。関東大震災から100年後の2023年にトルコ・シリア地震が発生し、比較的新しい高層アパートも多数倒壊したため、死者5万人以上という大震災となった。トルコでは度々大地震が発生し、日本と同程度の耐震規定があるにもかかわらず、このような大被害が起こった。石山祐二氏(北大名誉教授・ペルー工科大学名誉教授・北海道建築技術協会顧問)は「耐震規定は守らなければ『絵に描いた餅』である」と訴える。良い耐震規定をつくり、何十年も守り続け、大地震が起こった際にようやくその有効性が分かる。「国や地域全体で耐震規定を長年守り続けなければ同じことが繰り返されるだけだ」と主張する。

石山 祐二氏

 日本最初の耐震規定は、関東大震災の翌1924年に当時の建築基準の市街地建築物法(19年制定)の改正による水平震度k=0.1以上の導入だ。その後、設計用地震動を見直したのが81年導入の新耐震設計法(新耐震)となる。それまで考えられていた地震動を中震動(標準せん断力係数Co=0.2)とし、その5倍の地震動を大震動(Co=1.0)とした。これは、「大震動に対しては構造物が損傷することを容認し、構造的な粘り(靱性)に期待する『構造特性係数Ds』を取り入れた設計である」と石山氏は説明する。

 78年の宮城県沖地震後の81年に新耐震設計法が導入されたが、「耐震設計は必ずしも最大級の地震を想定しているものではなく、建築物に100の力が加わるからといって100で設計すれば経済的に成立しない。このため建物の「靱性」に期待して設計している」と指摘し、「若干の改正はあったが、新耐震の考え方は 40年以上経過した今でもほぼ妥当と考えられている」と話す。

 過去には、関東大震災をはじめ、「阪神・淡路大震災」(95年)、「東日本大震災」(2011年)の大規模な地震が発生しているが、「耐震規定改正は何十年、何百年後に被災した際に、その効果が分かる。今後も規定を守り続けていくことが非常に重要だ」と強調する。

 北海道では、18年9月6日に北海道胆振東部地震(マグニチュード6.7) が発生した。地震動による土砂崩れにより大きく被災し、その総面積は13.4km2に及び、明治以降では日本最大だ。地層は、約4万年前に支笏湖をつくった大噴火や、約9000年前の恵庭岳・樽前山の噴火による火山灰で構成されている。「5年前の胆振東部地震で崩壊したものだが、地盤の液状化も含め、大きな自然災害の再現期間は数百年から数千年以上だ。自然災害に対し住民の『安全』を担保することは今後、大きな課題となるだろう」と石山氏は危惧する。

 石山氏の父が関東大震災を経験し、その時の教訓が「何も持たずに逃げる」だった。災害は建物の崩壊、火災、津波などがその要因として挙げられるが、地震発生時に個人ができることは極めて少ない。「災害への対応は、建築構造物も完璧なものを目指すことよりも何よりも『人命を第一に考える』ことが最も大切だ」と語る。

 今後も起こり得る自然災害への対応についても、「日本の建設業界は世界的に見ても技術力は非常に優れていると思う。日本全国で災害時に貢献できる地域に根差した業者をより多く育成し、官民が連携して国土を守るシステムを構築していくことが重要になるのではないか」と未来を見据える。



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