【QOLを支える街と建築】「GBJシンポジウム2020」 多様なリスクに対応できる都市とは | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【QOLを支える街と建築】「GBJシンポジウム2020」 多様なリスクに対応できる都市とは

 新型コロナウイルスの感染拡大を契機とした社会構造の「グレート・リセット」が始まり、都市のあり方も大きな転回が求められている。こうした中でグリーンビルディングジャパン(GBJ)は、『新時代のQuality of Lifeを支える街と建築』をテーマに「GBJシンポジウム2020」を12日に開いた。多様なリスクに対応できる選ばれる都市であり続けるための方策について提言が相次いだ。

 ショートプレゼンテーションで登壇した蛭間芳樹日本政策投資銀行(DBJ)調査役は、「都市のGREAT RESET-レジリエンスとサステナビリティの視点から考えるコロナ後の都市デザイン」をテーマに講演した。

日本政策投資銀行調査役 蛭間芳樹氏


 コロナ禍を受けて6月に開かれた世界経済フォーラムは、「これまでの経済の形をやめようという大宣言」と表現。同フォーラムで示されている「グローバルリスク報告書」を示しつつ、「どうしても地震や火災などのショックリスクに目がいくが、新技術導入によるリスクや貧困、エネルギーも考えなければならない。これからの都市設計思想としては、時間軸で短期と中長期、リスクもすべてのハザードが対象になる」と指摘。

 あわせて、災害後によりよい状態に戻すビルドバックベターの考え方も、「より良いものにしようとしても、より強いストレス(長い時間かけて顕在化するリスク)が起きれば、元に戻れない」とし、阪神・淡路大震災後の神戸の事例を紹介した。震災前は国際物流で世界3位を誇る港湾都市だったが、震災で急激に落ち込み、いまだに回復できていない。この理由を「(物流拠点の役割を韓国に奪われるなど)構造的に日本が抱えてきた問題が影響している」との見方を示した。

 このため、「危機管理と経済は一体不可分であり、経済だけを考えるのはやめる必要がある」と強調した。東京都の東部が水害で浸水するというハザードマップも示しながら「あらゆるリスクを見ながら、いかに新しいビジネスモデルをつくるか。長いスパンの中でどんなビジネスがあるか考えてほしい」と呼び掛けた。

 「健康都市・空間デザインに向けて-公衆衛生の視点から考えるコロナ後のBuilt Environment(都市・建築)」をテーマに講演した花里真道千葉大准教授は、竹中工務店などと結成しているコンソーシアムで研究している健康と環境の関連性について紹介。健康に大きな悪影響を与えるのは喫煙だが、「さらに健康にインパクトを与えるのは、『社会とのつながり』で、つながりが少ないと喫煙以上に健康への悪影響がある」とし、コロナ禍で社会とのつながりが制限されることによる2次被害の可能性を指摘した。

千葉大准教授 花里真道氏


 研究では、「歩きやすい街で、歩道へのアクセスが良いと、ひざ痛や認知症が少なく、歩きやすい街は健康に直結しやすい」という結果が出ており、「運動をする人が多い地域の鬱(うつ)は少なく、自分が運動しなくても周りに運動する人が多いと鬱が減る」という。

 千葉県松戸市では、事前に決めたルートをゆっくり走行する電動モビリティーを地域の“足”として活用したところ、「高齢者の活動が1.5倍増えた」と紹介した上で、「健康には地域の歩きやすさが関連しており、そのためには街路樹や散策路、街中の目的施設が重要になる」との考えを提示。歩きやすさが感染リスクを抑える空間配分にもつながり、「(今後は)健康価値と低炭素価値の両方を実現する街のあり方が推進されるのではないか」とした。

 京都大大学院の諸富徹教授は「資本主義の非物質化と都市-パンデミックを超えて追求すべき持続可能性とは」をテーマに挙げた。コロナ禍によってデジタル化が進み、接触せずに物事を進められる「非接触経済」が広がろうとしている。その背景には「経済がモノのやり取りではなく、サービス化してきた。形のないものへの投資が増え、ビルや工場などへの投資が減る」という資本主義の非物質化が関係していると指摘。

京都大大学院教授 諸富徹氏


 コロナ禍でこうした動きが加速するため、地価動向に影響を与え、地方への移転も始まっている。「これが将来的にどういう方向に向かうのかは読めない」としつつ、「都心集中の動きは残る」と予測した。これは「1人の人が生み出す価値は、人が集積しているところの方が高い。都市の集中はプラスであり、それは今後も変わらない」という考えからだ。

 では、都市で何に投資すべきか。「人間の関係性を強固にすることへの投資や、無形資産を生み出す投資、自然資本への投資が大事になる」と提言。高度成長期以来、都市では商業・経済活動を進めるために“暮らしやすさ”の観点が後回しになった。今後は「緑を増やして暮らす人のアメニティーを改善することがトレンドになる。それが都市の価値を上げ、人的資本を集積させ、ネットワークとなって生産性を上げ、価値を上げる」と予測した。

 ショートプレゼン後、GBJの永積紀子理事をモデレーターとし、蛭間氏、花里氏、諸富氏が参加して「新時代のクオリティオブライフを支える街と建築」をテーマにパネルディスカッション。最後にGBJの平松宏城代表理事は、「街が選択されるということは、選ばれない街もあるということでもある。好むか好まざるかにかかわらず、対応しなければならない。選ばれるためにどういうアップデートをするか。QOLを高めるために都市をどうつくり替えるか。社会経済をも変えなければならない」と指摘した。

グリーンビルディングジャパン代表理事 平松宏城氏

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