特集 清水建設 | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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特集 清水建設

「夢をつくる」 清水建設、生産性革命への挑戦

◆JAXA連携/建設業は宇宙へ/“シミズ・ドリーム”着々

 宇宙開発は、人類の夢であるとともに、建設産業にとっても大きなフロンティアになり得る壮大な挑戦だ。清水建設は、30年以上前から宇宙開発技術に取り組んできたほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が異分野の人材・知識を集めた新しい体制・組織で宇宙探査の研究展開や定着を目指すために2015年4月に「宇宙探査イノベーションハブ」(TransaX)を設置して以来、建設各社も保有する技術で積極的に研究に参加してきた。地球上で培った技術が、月面開発などの宇宙事業という壮大な夢の実現へと発展しようとしている。 清水建設は、月面滞在のための技術研究に約30年にわたって取り組み、新しいフロンティアとして宇宙関連事業に特に力を入れてきた。JAXAのイノベーションハブで3件の研究課題が採択されたほか、17年には月面資源開発ビジネスの実現を目指す宇宙ベンチャーに出資。19年7月には東京理科大やJAXAと、宇宙居住に関連する要素技術を実験できる共同実験プラットフォームとなる「スペースコロニーデモンストレーションモジュール」を千葉県野田市に設置、今後も人類の宇宙進出を積極的に推進する意思を示した。さらに、キヤノン電子、IHIエアロスペース、日本政策投資銀行との共同出資でスペースワンを立ち上げ、同年11月には和歌山県串本町でロケット打ち上げ射場の建設にも着手、“シミズ・ドリーム”としての宇宙開発に着々と進んでいる。

 JAXAのイノベーションハブでは、「広域未踏峰探査技術」「自動・自律型探査技術」「地産・地消型探査技術」の3分野を中心に、目指す技術が明確な「課題解決型」、有効性が期待できる未知の技術やアイデアの発掘を目指す「アイデア型」の2種類で研究課題を募集してきた。19年10月までに採択された研究課題では、14件でゼネコンが参画している。

◆5棟約2万㎡の技術革新施設

 清水建設は、東京都江東区に研究施設、体験型研修施設、歴史資料展示施設など5棟からなる総延べ床面積約2万㎡の大規模イノベーションセンターの建設工事に着手する。総投資額は約500億円で2022年3月の竣工予定だ。これら施設を活用することで、オープンイノベーションによる生産技術革新や先端技術開発、ものづくり人財の育成、技術の伝承を着実に進め、経営基盤を確立・強化するとともに、企業価値の一層の向上を目指す。

 建設地は江東区潮見2-8に所在する敷地面積3万6880㎡の土地で、JR京葉線潮見駅から徒歩1分、中央区京橋の本社から約6km、江東区越中島の技術研究所と、木場の東京木工場から約3kmに位置する。

 建設する施設群は、オープンイノベーションや情報発信拠点となる本館、建設ロボットや構造・材料などの生産革新を目指した研究施設、体験型研修施設、歴史資料展示施設で構成する。これに伴い、現行の技術研究所の一部の機能を新施設に移転し、技術研究所の施設群は再整備する。

 また、同社の2代目当主である清水喜助が手掛け、青森県六戸町に移築されていた旧渋沢邸を譲り受け同敷地内に再移築し、保存する。旧渋沢邸は、同社の相談役を務めた渋沢栄一の邸宅として1878年(明治11年)に完成した木造建築。唯一現存する2代清水喜助の建築作品であり、同社のDNAを後世に伝える文化遺産として保存するとともに、歴史資料展示施設と一体活用していく考えだ。

◆下降流、水平旋回流組合わせ 快適・清浄な手術室創出

 清水建設が商品化した、新型手術室空調システム「クリーンコンポ デュアルエアー」は、手術室内の温熱環境と清浄度を、下降流と水平旋回流の2方向の気流の組み合わせにより制御し、快適・清浄な室内環境を創出すできる。

 増加している高度急性期医療対応の医療機関の手術室は、収容する医療行為者や先端医療機器の数が増え、大型化する傾向がある。一方、空調方式は天井中央部から術野(手術台や器械台をカバーする室中央エリア)に向けて空調空気を吹き出し、壁面下部に設けた吸込口から吸収する従来方式が主流となっている。

 しかし、この空調方式は術野では温度、周囲では温度と清浄度の両方の制御方法の改善が医療関係者から求められていた。クリーンコンポ デュアルエアーは、術野をカバーする下降流と周囲をカバーする水平旋回流の2系統で空調を行うことで、こうした課題を一挙に解決。術野についてはこれまで同様、下降流により温度と清浄度を制御するが、下降流の吹出口に設ける温度センサーにより、吹出温度を23度に保つことで、執刀医が望む術野の温熱環境を維持し、快適性を向上させる。

 また、清水建設は施設・街区内の自動運転技術の展開に向けて、研究開発を進めてきた建物と自動運転車両やロボット間の連携基盤(自動運転プラットフォーム)を活用し、自動運転車両の配車リクエスト機能と歩行者ナビゲーションシステム(歩行者ナビ)の経路案内機能を組み合わせた新たな施設内移動サービスを構築した。

 これまで同社は、自動運転技術などを開発するベンチャー企業のティアフォーと共同で、東京都江東区の技術研究所内に高精度3次元デジタルマップや建物群BIMデータの施設情報と、自動運転車両の位置・走行状態などの情報を一元管理する管制・監視システムを構築。今回構築した自動運転車両と歩行者ナビが連携した施設内移動サービスは、ティアフォーの自動運転技術を組み合わせることで実現した。

◆受発注者が共創相手に/技術交流で現場とともに開発

バッテリー交換不要
ビーコン

 シャープが展開する建設業向け技術にも、清水建設のノウハウが活かされている。シャープが2019年8月7日に発表したバッテリー交換不要ビーコン「レスビー」は、初弾を清水建設が事業展開する高精度音声ナビゲーションサービスに向けて納入した。また「3眼カメラ配筋検査システム」は清水建設と共同開発してきたシステムで、同社による自主検査での活用を予定している。

 金丸和生シャープ研究開発事業本部オープンイノベーションセンター所長は、その背景に清水建設とシャープとの定期的な技術交流会があると語る。これまで、シャープの工場を清水建設が施工するなどのつながりがあったが「受発注者という関係を超えて、オープンイノベーション分野で共創していきたい」(金丸所長)との考えから、あらゆる社会課題をテーマに知見を共有している。

 レスビーは、世界最高レベルの発電効率を実現した色素増感太陽電池を電源とするため、バッテリー交換などの定期的なメンテナンス作業が不要となる。50ルクス程度の暗所でも安定的に使えることや、小型化や外観からネジが見えない構造を実現することで、機能とデザインを両立していることも大きな特長だ。

 レスビーの開発に当たった吉江智寿研究開発事業本部材料・エネルギー技術研究所第三研究室部長は、シャープ独自の技術をサービスに転換する過程で清水建設と意見交換を重ねた。「レスビーのメンテナンスフリーという価値を認めてくれるのは、メンテナンスに当たるビルのオーナーや運営会社だ。清水建設のような施主に近い立場の企業と議論を重ねることで、最短ルートでサービスとして仕上げることができた」

従前の配筋検査では、複数人が時間をかけて撮影していた


 一方、3眼カメラ配筋検査システムは、施工現場の省力化・省人化に役立つ。鉄筋の配置状況を3次元情報で取得して、シャープ独自の「8Kエコシステム」を発展させた解析アルゴリズムにより検査結果をわずか7秒程度で表示する。結果を帳票用データに変換できるため、報告書作成の手間を軽減できる上、通信回線を経由すれば遠隔共有も可能だ。

 有田真一同本部通信・映像技術研究所第四研究室主任研究員は「当社からカメラ画像計測技術を紹介したところ、清水建設が配筋検査の効率化を検討していたことから、この技術を適用した新しい開発に乗り出した」と振り返る。

3眼カメラを使うと1人の作業者が短時間で広範囲に検査できる


 現場で使いやすい製品とするためには、多様な天候や現場条件に対応する必要がある。有田主任研究員は清水建設が施工する13現場に計25回足を運び、サンプルの取得を重ねた。「実際にシステムを使う人々と一緒に作り上げていくことが当社の強みだ」(金丸所長)

 建設業界との連携は、今後も持続的に拡大していきたい考えだ。「建設業界の省人化、働き方改革という課題にわれわれができることは非常に多いと考えている。常にオープンに技術開発を進めていきたい」(金丸所長)と、連携拡大に前向きな姿勢を示している。

◆インタビュー・フロンティア開発室ベンチャービジネス部長 田地 陽一氏

フロンティア開発室
ベンチャービジネス
部長 田地 陽一

 清水建設は、4月にR&D強化ならびに事業領域拡大に向け、国内外のスタートアップやベンチャーファンドに対し、100億円を上限とする出資枠(いわゆるコーポレートベンチャーキャピタル)を設けました。出資の迅速な意思決定を行うために、関係部門長と外部有識者で構成する新たな審議機関「ベンチャー投資委員会」を設置し、担当取締役1名で決裁できる体制にしました。

 出資枠の設定は、昨年策定した中期経営計画〈2019-23〉の重点戦略「次世代の建設技術や地球規模の課題解決型新規事業への投資」に基づくものです。

 主に建設テックに関連する技術開発・事業化段階のスタートアップやベンチャーファンドに出資することにより、将来性のあるスタートアップとの協業や建設ICT技術・ロボット・AI等の先端技術の導入、当該企業との技術提携・資本提携、さらには新規事業領域のビジネスモデルの構築を目指します。

 初弾として、7月に高性能無線通信技術の「PicoCELA」(東京都中央区、古川浩社長)に出資しました。同社との協業として実施する技術開発により、建設現場のICT基盤の高度化に取り組みます。

 当社は今後、所轄部署であるフロンティア開発室ベンチャービジネス部とシリコンバレー駐在員事務所「シミズシリコンバレーイノベーションセンター」を通じて、有望な技術を持つスタートアップを発掘し、技術実証を踏まえた上で、新たな技術開発やビジネスモデルを創出するための機動的な出資を展開します。 

 将来的には、全従業員を対象に新規事業や技術提案を公募し、採択された提案をもとに事業化を推進する仕組みを立ち上げる計画です。さらに、コーポレートベンチャーキャピタルからその事業を支援することにより、戦略的なイノベーション活動を展開する考えです。


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