【BIM未来図】設計BIMの2020年代を考える① | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【BIM未来図】設計BIMの2020年代を考える①

 日刊建設通信新聞社は1月20日、ウェブセミナー「BIM未来図~設計BIMの2020年代を考える~」を開催した。佐野吉彦安井建築設計事務所社長が基調講演を担当するとともに、村井一東京大学生産技術研究所特任研究員がコーディネーター役としてセミナーを進行し、2020年代における建築のライフサイクルを通じた設計BIMの役割や課題、将来像などを多角的に紹介した。また、さまざまな人や情報をつなぐとともに、コロナ禍におけるリモート設計や新たなパートナーシップのあり方など、設計者がいまの時代にふさわしいリーダーシップを発揮するために必要なツールとしてBIMが持つ可能性を展望した。セミナーは日本建築士事務所協会連合会が後援するとともに、オートデスクとグラフィソフトジャパンが協賛した。

建築設計事務所の経営にBIMを活かす/発注者メリットが普及を促進
安井建築設計事務所代表取締役社長 佐野吉彦氏

 BIMと社会、BIMと経営をテーマに考えるとき、われわれが今いる2021年という時代を考える必要がある。新型コロナウイルス感染症などグローバルに困難を共有する一方で、必ずしも連帯できていない実情もある。リアルとオンラインを組み合わせた新たな日常の下、ワークスタイルの多様化などあらゆる場面でコモンセンスが問い直されているのだ。

 設計事務所は現実空間の設計が仕事だが、デジタル空間の存在感が大きな時代になり、現実空間とバーチャル空間がセットになって動き始めている。デジタルトランスフォーメーション(DX)がスピードアップし、世の中の仕事がデジタル化でどんどん変化している。

 その中でBIMを含むデジタル技術は建築情報を川上から川下につなぎ、マネジメントを最適化する。安井建築設計事務所は07年からBIMに取り組み、設計情報を竣工後につなぐことでBIMの特性を活かせると考えてきた。それには施工者など組織内外の幅広いプレーヤーとBIMに挑戦し、共通したBIMの土壌をつくることが大切になる。最終的に設計事務所はIPD(Integrated Project Delivery)の姿勢で臨み、コスト・工期・質などで発注者に満足を与えることで、BIMの普及が進んでいく。

 設計者の活動領域も拡大する。通常は設計・監理・施工の段階でデザインやコストマネジメントに優れた提案が求められるが、発注者は設計に入る前に事業計画と経営判断という大きな作業を行い、竣工後は建物を運用する。このプロセスにBIMを定着させるため、設計者、施工者が深く関わることを期待したい。

 当社は18年に「BuildCAN」という施設マネジメントサービスを開始した。設計BIMにIoT環境センサーが連携し、BIMと建物のリアルタイムのデータをドッキングしたシステムで、利用が拡大している。

 各企業、業界によるBIM活用の創意工夫が重ねられる一方で、定着は道半ばの状況だ。幅広いプレーヤーが日常的にBIMでコミュニケーションし、BIMというインフラの社会的費用が下がり、建築の質の向上に寄与することが定着へのモチベーションになる。

 国土交通省は「建築BIM推進会議」を開始し、20年3月に『建築分野における標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第一版)』を策定した。20年度は8つのBIMモデル事業を選定し、コストや生産性向上の検証、課題抽出を進めている。検証結果はガイドラインにフィードバックされていく。

 今後は、健康的な都市運営、早い経営判断、効率的なエネルギー利用などの課題に対し、ビッグデータを基盤にBIMの特性を活かし、答えを出す必要がある。

 そのため、BIMは建築の範囲で完結するのでなく、いろいろな情報とつながることが必要になる。コロナ対策では建築と飛沫拡散防止、追跡システムなど他の専門領域と連携することで賢い活用が可能だ。柔らかくつながるBIMの世界が求められている。

新たな価値の創出。BIG DATAを基盤とする社会の課題解決



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