【都市のミライ】"地域密着型バスタ"を全国へ 追浜モデルが身近な地域課題を解決するワケ | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【都市のミライ】”地域密着型バスタ”を全国へ 追浜モデルが身近な地域課題を解決するワケ

 神奈川県三浦半島の玄関口にある京浜急行電鉄本線追浜駅周辺(横須賀市)で持続可能性を追求した未来のまちづくりが始まっている。道路敷地を立体的に活用して官民連携の一体施設を整備・管理する目玉事業もさることながら、事業の秘めるポテンシャルは高い。『えき×まち×みち』の3要素を有機的に結びつけることで、都市の身近な地域課題を解決する先導的モデルケースになり得るからだ。国土交通省関東地方整備局と市が連携して取り組みを進めており、“地域密着型バスタ”としてここで得た知見を全国に水平展開する。

 現在、国内の複数の都市で検討が進む国交省の『バスタプロジェクト』の一環として取り組んでいる。鉄道やバス、タクシーなど、多様な交通モードがつながる集約型の公共交通ターミナルを官民連携で整備する。

駅前空間の立体的活用イメージ (1月開催の第3回検討会配付資料より)


 追浜を担当する関東整備局横浜国道事務所の山崎敦広調査課長は、他のバスタプロジェクトとの違いについて、道路管理者が主体的に拠点を整備することに変わりはないものの、「さらに地域に寄り添った形で、地域固有のまちづくりの課題を一緒に解決しようとしていることが特色だ」と力を込める。

 事業計画の検討は、関東整備局と市が事務局となり、2020年9月に追浜駅交通結節点事業計画検討会(座長・羽藤英二東大大学院教授)を立ち上げ、21年2月までに計4回の議論を重ねてきた。

 山崎課長は「三浦半島はかなり山がちな地形で過去に災害も起こっている。そうした面の解決策として交通結節点をつくることも大事」と話し、半島の玄関口にある追浜の機能強化の意義を強調する。

 防災面だけではない。追浜は駅前広場が狭小であり、地域に点在する公共施設などは老朽化が進んでおり駅から離れているなどの課題もある。さらに、横須賀三浦地域は県内で最も高齢化率の高い地域となっている。

 全国の都市でも同様の課題を抱えている地方公共団体は多く、追浜の事業はこうした地域課題解決に向け新たな仕掛けを数多く盛り込んでいることから、まちづくり関係者からも議論の動向に注目が集まっている。

 検討会では、まちづくりの課題を踏まえ、追浜の機能配置の考え方は駅広隣接地区と連携し、駅前に必要な機能を分担整備する『分担型整備』を採用する方針とした。

 その理由について山崎課長は、「機能を駅前に一極集中するだけではまちのにぎわいを止めてしまうリスクがある」と指摘する。続けて「追浜の良さは商店街などがあり、回遊範囲が広いことだ。まちのにぎわいを分担することで歩行者の回遊範囲を広げ、まち全体でにぎわいを創出したい」とその意図を明かす。

 目玉事業となる官民連携の一体施設を起爆剤に、市などの関連事業とも連携し、駅前から続く延長約1㎞の市道沿いの面的なまちづくりを推進する構えだ。

 その進め方は『従来型道路事業』ではなく、所有地に拡幅計画がかかっても、地域内の保留地を活用し、継続して地域内で営業継続が可能となる『連鎖型事業』とする方針も打ち出す。

 さらに持続可能なまちづくり体制の構築が事業の重要な要素となる。
 市と地元事業者の出資により連鎖型開発の調整主体の役割を担う『まちづくりファンド』を設立する予定だ。加えて交通拠点整備にかかる地域の各主体が連携し、モビリティー・都市デザインの専門家が客観的立場から携わる新たな形の組織・拠点『えき・まち・みちデザインセンター』を立ち上げ、息の長いまちづくりを側面支援する。

 山崎課長はこうした“追浜モデル”を先導的に形成することで、「それぞれの自治体が身の丈にあった形でバスタをつくれると思ってもらうことが大事。追浜が形になれば他の自治体に来てもらいたい」と考えている。「立体道路のスキームなどで周辺まちづくりと一体となった地域課題の解決につなげたい」との思いからだ。

 こうした内容を盛り込んだ事業計画を3月中にも策定する。駅前に整備する官民連携の一体施設の事業スキームなどは現段階で決まっていないが、事業計画には施設イメージなどを盛り込む見込みだ。いよいよ、新たなまちの一端が見えてくる。

「エリアを盛り上げる」年度内にグランドデザイン/横須賀市

 追浜駅周辺では現在、交通結節点事業のほか、▽国道357号東京湾岸道路整備事業(八景島~夏島間)▽追浜駅前第2街区市街地再開発事業▽鷹取川利用計画検討事業▽追浜夏島線整備事業▽横浜DeNAベイスターズの総合練習場オープン――などの各種事業が計画、具体化している。こうした状況を踏まえ、神奈川県横須賀市は2020年度に「追浜駅周辺グランドデザイン」を策定する。

 事業に携わる市経営企画部の鵜飼進まちづくり政策課長は「さまざまな事業が動き出している中で、まちが最終的にどうなるのか、将来像が見えないという意見が地域や議会からもあった」と振り返る。「各施策や事業がばらばらに進むのではなく、1つの目的を持つ中で追浜の最終形を見据えてまちづくりを進めていくべきとの考えでグランドデザインを作成している」と話す。「地域には自然や歴史遺産もある。そうしたものも位置付けながら、追浜エリア全体を盛り上げていきたい」と力を込める。

 羽布津仲雄まちづくり政策担当部長は「横須賀はもともと住んでいる人からの評価は高く、住み続けたいという人が非常に多い。ただ、外から見るイメージと中に住んでいる人のイメージにギャップがある。外の人からも魅力的に感じられる仕掛けをしていきたい」と考えている。こうした中、今回のバスタプロジェクトなどをきっかけに「ここを起爆剤に市全体に良い影響を波及させたい」との強い思いを持っている。



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