【さまざまな影響】菅首相が宣言した"カーボンニュートラル実現" 各府省庁が政策見直し着手 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【さまざまな影響】菅首相が宣言した”カーボンニュートラル実現” 各府省庁が政策見直し着手

 菅義偉首相が2020年10月に50年までのカーボンニュートラル(CN)実現を宣言して以降、経済と環境の好循環を構築して日本の成長につなげる観点から、各府省庁が政策の見直しに着手している。CNは政策の前提を根本から変えるもので、その影響はあらゆる産業に波及する。宣言を受けて経団連は、生産プロセスの革新などに不退転の決意で臨む姿勢を示した。建設現場で温室効果ガスのさらなる排出削減や省エネルギーの徹底強化など、建設業界も新たな対応を迫られることになりそうだ。政府内の主な動きを整理した。

■社会実装までを長期支援
 経済産業省は、物流・人流・土木インフラ産業、住宅・建築物産業を含む14分野を対象とするグリーン成長戦略をまとめた。CN実現に向けた取り組みや必要な技術開発などの工程表を明示した。予算、税制、金融、規制改革などあらゆる政策を総動員し、産業界の動きを後押しする。

 4月には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2兆円のグリーンイノベーション基金を造成した。14分野を対象に、野心的で具体的な目標を官民が共有した上で、技術開発・実証から社会実装までに取り組む企業を10年間にわたって支援する。

■CN50年実現目標を法律に
 政府は地球温暖化対策推進法改正案をまとめ、国会に提出した。基本理念の規定を新設し、50年までの脱炭素社会実現を位置付ける。仮に政権が変わっても、日本が脱炭素化に取り組む姿勢に変化はないとの明確なメッセージを国内外に示す狙いがある。今国会での成立を目指す。

■削減目標の見直し検討
 環境省は地球温暖化対策計画の改定作業を進めている。30年度に13年度比26%減とする温室効果ガス排出削減目標の見直しが、最大の焦点となる。目標の見直しに当たっては、排出量の8割以上を占めるエネルギー分野の抜本的な取り組み強化が不可欠となるため、地球温暖化対策計画の議論と並行して、経産省が30年度エネルギーミックスを含むエネルギー基本計画の改定を進めている。

 政府はエネルギー基本計画と整合を取った形で意欲的な排出削減目標を設定し、11月に英国で開かれるCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で表明する。

 21年に多数予定されている国際会議で交渉に当たる政府の責任者を明確化するため、菅首相は気候変動担当相を3月に新設し、小泉進次郎環境相に兼務させた。

■地方で脱炭素ドミノ
 CN実現には地方の取り組みが欠かせない。政府は、既存技術で可能な地方のモデルケースを今後5年間で複数創出し、それを起点に「脱炭素ドミノ」を生み出して、イノベーションによって実装された革新的技術を活用しながらドミノを全国に広げることで、日本全体の脱炭素を完遂させる青写真を描く。

 国・地方脱炭素実現会議で、50年までの地域脱炭素ロードマップを6月ごろに策定する。住まい、まちづくり・地域交通、建築物・設備など、地域の取り組みと国民のライフスタイルに密接に関わる8分野を対象に検討を進めている。

■住宅の省エネ規制強化へ
 国土交通省は、社会資本整備審議会と交通政策審議会の下にグリーン社会ワーキンググループを3月に設置し、CN実現に向けた施策の議論を始めた。夏にとりまとめる。成果を踏まえ、国交省の環境行動計画と気候変動適応計画を21年内に見直す。

 建築物・住宅分野は新たな住生活基本計画で、さらなる規制強化を打ち出した。経産省、環境省と連携して19日に有識者会議を立ち上げ、住宅・建築物の省エネ対策のあり方を検討する。住宅の省エネ基準適合義務化に踏み切ることになれば、建築物省エネ法の改正が必要になる。

■炭素税含むCP導入検討
 環境省と経産省は、排出される炭素に価格付けをするカーボンプライシング(CP)の導入検討を進めている。21年内に議論をまとめる。注目は、排出量に応じた税負担を課す炭素税の行方。環境省は炭素税を導入した場合、課税水準を段階的に引き上げる仕組みとし、得られる税収を投資やイノベーション、脱炭素技術の普及、脱炭素事業の創出などに活用する方向性を示している。脱炭素化の技術開発などに資金を供給するファイナンスのあり方についても、両省が連携して検討している。



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