【豊かに働く】差を乗り越え120%の能力引き出す 大林組 D&I推進部が進める社風づくり | 建設通信新聞Digital

5月7日 火曜日

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【豊かに働く】差を乗り越え120%の能力引き出す 大林組 D&I推進部が進める社風づくり

 働き方改革関連法の建設業への適用が2024年に迫っている。ともすれば働き方改革の議論が、週休2日や時間外労働の縮減など労働時間の短縮ばかりに偏りがちで、このままでは企業活動を制限する方向へと進みかねない。一方で、人口減少の中で働き方改革が実現しなければ日本経済そのものが衰退することは疑う余地はない。そうした中でゼネコンなど建設産業各社は、担い手確保や生産性向上も包含した「成長と働き方改革の両立」にどういう“解”を見つけようとしているのか。『豊かに働く-Quality of Life』では、働きがいのある職場づくりのための制度・取り組み、働きやすい職場環境を実現する技術など“あらゆる質の向上”を導くヒントを提示する。


 大林組は、4月1日付でグローバル経営戦略室に「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進部」を設置し、多様な人材の活躍を加速させる。中沢英子部長は「性別、人種、年齢などさまざまな差を乗り越え、一人ひとりの能力を120%引き出せる環境を整え、バイタリティーのある組織体制にする」と狙いを説明する。働き方改革をD&Iによって経営のドライバーへと転換する考えだ。

グローバル経営戦略室ダイバーシティ&インクルージョン推進部長 中沢 英子氏

 「働き方改革=経営」。三栖健一人事部長は、働き方改革に対する認識をこう語る。人口減少下で「一部の人がたくさんの残業をして成り立っている組織」では企業の未来は見えず、「一人ひとりの能力を引き出せた企業が成長できる」(中沢部長)。だが、「施工管理、設計、研究、事務など多様な職種がともに仕事をして初めてものがつくれる業種であることが建設業の大前提であり、一律に網羅する制度設計が難しい」(三栖部長)というのも事実。そうした中で「社員が違いを認識してモチベーション高く、やりがいを感じられるようにする」(同)というのが基本姿勢で、D&Iがそのかぎを握る。

人事部長 三栖 健一氏


 D&Iが目指すのは、“やりがい”の尺度も含め、さまざまな“差”のある個人を互いが認め、ともに働くことだ。例えば「必ずしもすべての男性が管理職になりたいわけではなく、“生涯現場”で働きたい人も一定数いる。女性も、当初はリーダーを目指していたが、途中でサポートが向いていると思う人もいる」(中沢部長)という中で、「研究職でなくても、特定の仕事を極めることで給与が上がる仕組みなど、個人の能力を引き出す制度のあり方を整理しなければならない」(同)と、個々の社員が目指すキャリアに合った人事・給与体系などをD&I部で提案していく考え。特に女性の場合は、「ライフステージが変化する中で、ステージごとに目指すキャリアを選択し、その背中を押せる社風をつくれれば」(同)とする。



◆立ち位置を示す
 自らの進む道筋を見いだせれば、その人は成長段階に入ったと言える。自分の強みを見つけるまでを誘導することが最も重要で、「職場を(異動で)離れる時に、その人がいなければできなかったと思える組織」(三栖部長)を目指す中で、社員自らが成長のきっかけをつかむ機会を与えることが研修を含む若手教育の中で最も重要視している部分だ。そして、個々人が考える目指す方向のベクトルを合わせるのが管理者のマネジメント力で、「いま携わっている仕事全体の中での立ち位置を常に示す」(同)ことを心掛けている。

 こうした指導は研修でも実施しているものの「日々のOJTが最も効果がある」(同)という。個人の強みを見つけ、その強みを生かして社員として認められる制度を整えるとともに、後輩への指導で受け継いでいく。D&Iはまさに“社風づくり”と言える。

 だからこそ、人事部では21年度第1四半期を「働き方改革の目的は何かを考える期間」と位置付けた。「目的を理解し、自分事と捉えられれば、働くスタイルやキャリアパスを見つけられる」(同)と考えるからだ。

 最大の懸念は、自分の成長する道筋を見つけた社員が必ず通る「『自己研さんしたい』と思う成長のタイミング」での労働時間の制約だ。法制度の中で、本人の“働きたい意欲”を阻害しない方法がないか、「議論を重ねている」

◆まずは女性から
 こうした全体の目指す方向性の中で中沢部長は「まずは女性の一層の活躍を2021年度のターゲットにする」。まだ社内に圧倒的に女性が少なく、女性が活躍する具体的なロールモデルが見えづらい中で「具体的にロールモデルを発信し、ライフステージが転換する際の働き方がイメージできるようにしたい」という。

 例えば「現場職を希望する女性が出産後に現場に『戻りづらい』と感じているが、テレワークが定着しつつある中で、働き方によっては現場に戻れることを発信する。また、時短を取得すると全国型社員から拠点型社員に変更になるが、その理由やその後のキャリアアップの道筋を示すなど、不安を持たずに働けるよう透明にしたい」とする。

 D&I推進部は、各部署から兼務で社員が集まり、D&Iのあり方を議論して各部署に展開するとともに、各部署の課題などを吸い上げる役割も担う。



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