【多能工を育成】未経験者に5技能を3年で! 効率的・実践的なカリキュラムで職業訓練校に認定 太陽(さいたま市) | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

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【多能工を育成】未経験者に5技能を3年で! 効率的・実践的なカリキュラムで職業訓練校に認定 太陽(さいたま市)

 マンション大規模修繕工事を請け負う太陽(さいたま市、阿部悠久子社長)は、多能工の育成事業を展開している。建設業の経験がない若者を正社員で雇用し、安定した給与を毎月支払いながら、子会社の研修施設で1から育てる仕組み。単能工でも一人前になるまで10年を要すると言われる中、効率的・実践的なカリキュラムの下、5つの技能を3年で身に着けさせることを目指している。3月には研修施設が埼玉県から職業訓練校の認定を受けた。同社によると、民間企業が運営する多能工研修施設が職業訓練校に認定されたのは全国初。

塗装技能の訓練

 子会社の達工房(さいたま市)が研修施設を運営している。ベテランの職人3人が講師となり、マンション大規模修繕工事に必要な5つの技能(塗装、下地補修、防水、塩ビシート貼り、シーリング)を指導する。1年目は研修施設で学科と実地訓練、2年目は研修施設と工事現場で実地訓練、3年目は工事現場主体の実地訓練を行う。児童養護施設や夜間学校の出身者を積極的に受け入れており、1年目の2017年度は5人、18年度は10人が入学した。
 大規模修繕工事・優良職人支援機構の職人マイスターの資格を5つの技能で取得することが卒業の要件。卒業生はまだ誕生していないが、わずか1年で3つの資格を取得した研修生がいる。達工房の社長を務める阿部佳介太陽専務は「3年で1人前にする予定だったが、3年掛からないかもしれない」と胸を張る。

達工房の社長を務める、太陽の阿部専務

 職人育成事業に乗り出すことを決めたのは、ことしで創業43年を迎えた太陽が「100年企業を目指す」という経営目標を掲げた3年前。経営リスクを洗い出す中、大規模修繕市場は年7%伸びる一方で職人の数が減っている状況に危機感を覚えた。阿部専務は「職人不足が最大の経営リスク」と指摘する。
 単能工ではなく多能工としたのは、職人の年収を引き上げるためだ。太陽の協力会社に所属する職人300人を調査したところ、年間労働日数は平均180日で、年収は300万-400万円だった。単能工は現場が終わっても次の現場まで空きが生じることがあるが、5つの技能を身に着けた多能工になることで250日働くことができ、それに伴って年収は500万円を確保可能とみる。
 職人から現場代理人にキャリアアップする道も示し、1000万円まで上げられるようにする。正社員化によって固定費は増大するが、連続した5つの工程を1人で作業できるため、人手不足の解消やコスト削減、工期短縮につながり、メリットが大きいとしている。
 太陽は工事の品質確保を重要視しており、同機構の資格取得を卒業要件としたのはその一環。阿部専務は「第3者機関の認定を受けることで、発注者に対して受注前に品質を保証できるようになる」と狙いを説明する。職業訓練校に認定されたことで、品質保証の信頼性が高まった。

さいたま市にある研修施設

 事業開始に当たって最も苦労した点には、育成スキームの構築を挙げる。例えば、職人の世界には教科書が存在しない。そこで、協力会社などに話を聞きながら職人の仕事を突き詰め、同機構や材料メーカーと一緒に2年掛けて教科書を作成した。研修生の意見を聞きながらカリキュラムの内容をその都度変更しており、「これから入る子はもっと早く育つ」とみる。
 今後は、外国人を受け入れて協力会社に供給することや、人材育成に余裕がない他社の職人を研修することも検討している。育成スキームの販売も視野に入れており、阿部専務は「同じ職種の職業訓練校は1県当たり1校しか開設できない。同様の職業訓練校がまだない東京都や大阪府の会社からスキームを売ってほしいとの打診がある」と明かす。この方法を業界に広げることで、職人不足解決の一助になることを期待している。

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