「日本の内装ディスプレー業界はBIMの新たなステージを迎えるだろう」。オートデスクの中西智行社長はBIM活用に向けた丹青社との戦略的提携(MOU2.0)におけるインパクトの大きさを予感している。2022年に結んだMOU1.0から、わずか3年で提携のステージが更新される状況は「われわれの想定を越えたスピード感があり、丹青社の中でBIMが着実に浸透していることを物語っている」と説明する。
内装ディスプレー業界の大手各社では、丹青社のようにBIMの本格導入に踏み切る動きが急速に拡大しているが、BIMをさらに浸透するためには協力会社を含めた業界内の連携が求められる。例えば設備工事業では主要各社が設備BIM研究連絡会を発足し、機器メーカーや協力会社の意見を踏まえながらオートデスクのBIMソフト「Revit」を基盤にした標準化を推し進めている。
オートデスクの鈴木美秀業務執行役員日本地域営業統括建築・土木営業本部長は「設備BIMと同様に、内装ディスプレー業界のBIM標準化に向け、社として全面的に支援していきたい」と強調する。丹青社はRevitの本格導入に合わせ、同じくRevitを推進する同業他社とのコミュニケーションを拡大するほか、Revitユーザー会「RUG」にも参加し、業界連携に向けた取り組みもスタートした。
内装工事には大工や家具、ボード、クロスなど十数もの専門職種が携わる。丹青社の小林統社長は「協力会社を含めプロジェクト関係者が無理なく使えるBIMのプラットフォームを確立することはわれわれの使命と捉えている。それが内装ディスプレー業界全体のポテンシャルを引き上げるきっかけにもなる。そのためにも社としてBIMデータ活用の実績を積み上げることが先決」と思いを込める。
建築確認申請では26年春からBIMデータから出力した図書を建築確認申請に使うBIM図面審査がスタートし、29年春からはBIMデータ審査が動き出す。丹青社は、ある内装改修プロジェクトでBIMデータによる消防設計事前協議を国内で初めて試みた。バリュープロダクションセンターの岡崎勝久デジタルクリエイション統括部長は「このように社内では将来を見据えたBIM活用のチャレンジが広がっている」と強調する。
21年からスタートした社内表彰制度のBIMアワードでは、25年のテーマに「連携」を設定した。そこには「BIMを軸に組織が一体になって取り組む際、きちんと目的を定め、そこに向かって連携しながら成果を導く」ことの重要性を意味付けている。オートデスクとのMOU2.0では関係者が円滑にデータ連携する姿を目指している。今年3月にBIMデータ作成や人材育成の体制強化に向け、台湾のBIM関連総合サービス会社「若水國際(FLOW)」と結んだMOUも、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の観点を含めて人材交流を図るBIM連携の一環だ。
内装ディスプレー業界では空間提案力が受注の勝敗を大きく左右する。「BIMの導入はデザインと制作の部門連携による生産性向上を目的にしているが、実はわれわれのコアコンピタンスをさらに引き上げるための競争力強化に向けた戦略に他ならない。BIMを最大限に生かし、当社が目指す『こころを動かす空間づくり』を追求していく」。小林社長が先導する形で、丹青社はBIMの新たなステージを駆け上がろうとしている。